どんど焼きの時給は〇〇円!? コロナ禍で失われたもの

 どんど焼きに参加すればお金がもらえた

 俺の住んでいた町では中学生がどんど焼きで燃やすお札や飾りを各家庭から回収し、それと同時に各家庭からご布施的なお金をいただくシステムだった

 集めたお布施はどんど焼き当日に振る舞われるお酒やお菓子代に使われる。その余ったお金を仕事を手伝った中学生で分けるシステムだ。学年ごとにもらえる金額は違っていて、1週間くらいどんど焼きの準備やお札集めの家庭訪問に携わって、中1は5000円、中2は8000円、中3は2万5000円ほど貰える。時給換算したら、最低賃金の以下の以下(中3のときに計算して、時給200円換算くらいだった気がする)だが、中学生にとっては大金。嬉しいものだった。俺はその金とお年玉でYAMAHAのアコースティックギターを買ったが、それはまた別のお話。

 もちろん中学生だけでどんど焼きを完遂するのは不可能だ。地域の大人たち(もっぱら自治体の育成会の人たち)が資材の搬入や当日の運営なんかをやってくれた。まあ、あの人たちこそ、無給でやるのだから、とんだブラック企業だったってわけだが。
 育成会の大人たちは小学生から中学生の親世代で30〜50代が多くを占めていた。それにプラスして、育成会でもなんでもない「どんど焼きに長く携わってきたベテラン」がどんど焼き運営には欠かせなかった。どこで木材を切るのか、どこで酒を購入するのかといった事や、神社とのやりとりなんかは全部そのベテラン達が担っていた。ベテランにしかわからないノウハウってのがあるんだろう。ベテランが地域の行事を下支えしているのだ。
 中学生の俺は、そんなベテランがただの老〇にしか見えなくて、すげえ嫌いだったのを覚えている。あの人たちがいなければ、どんど焼きは成し得なかったのに、とんだクソガキであった。


 俺が2万5000円をもらって、ギターを買った頃からもう既に7年経った。
 どんど焼きを担っていたベテランたちは次々にこの世を去り、どんど焼きの継続も難しくなっていたらしい。
 けれども、2年前まではどんど焼きはかろうじで行われていた。中学生の数も減り、ベテランたちは施設に行ったり、あの世へ行ったりで、大変なのにだ。持続可能性なんて全くないイベントだが、生き残っているベテランの意地で、それでもどんど焼きは続けられていた。

 しかし、2年前を最後に、どんど焼きも行われなくなった。
 コロナ禍を理由に、密集を避けるため、とかなんとかいう理由で。

 ただでさえ長くは続かないだろうと考えられていたどんど焼きが、コロナきっかけで、あっという間に地域から消えたのだ
 悲しいというよりも、なんとか続けようと奮闘してきたどんど焼きがコロナ禍でいとも簡単に消えてしまったことに対する驚きの方が大きかった
 まあ、ベテランではない地域の大人達からすれば、どんど焼きなんてただの煩わしいイベントの一つにすぎなかったのかもしれない。コロナを理由にやめることができて、内心嬉しい大人もいることだろう。それもそれで一理ある考えだと思うし、俺も子供ができた後に、地域のどんど焼きに参加しろなんて言われたら、正直ダルいと思うだろう。だから、どんど焼きをやめた大人達を責められない。

 どんど焼きがあるからといって、何か変わるわけではない。だけど、もう俺の住んでいた街の中学生はお金を稼げないし、ベテラン達は年に一回のイベントすらもやれずに死んでいく

 きっと、コロナが終わっても、どんど焼きは復活しないだろう。
 その頃にはベテラン達もこの世にはいないし、なんなら中学生だってすげえ少なくなってるかもしれない。
 
 こういう風に文化や伝統がコロナで容易く崩壊してしまった地域社会が沢山あるのだろう

 

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