パイレックス工場の仲間たち
トムは、足元のゴミバケツをいつも一杯にしておくので有名だった。捨てる破片は熱いこともあるから、いったんバケツに溜めてからゴミ箱に入れるのだが、後で捨てようと思っていると、すぐに一杯になってしまう。溢れたままにしておくと飛び出たガラスが怪我のもとになるから、よく監督に注意されていた。
そんなトムは、冬になると着古して伸びきったセーターを着てくることでも有名だった。あまりにもひどいシルエットなので、みんなよくからかっていた。
おはようトム、今日も相変わらずひどいセーターだな。
いいんだよ。作業着なんだから。
おいトム、それはもはやワンピースみたいになっているじゃないか。足首まで届きそうだぞ。
うるさいな、こんな場所で綺麗な恰好をするほうが変だろ。
ある日の午後、昼食後はなんとなくお腹が重くて上の空になる時間帯だった。今日の仕事は、15ミリのT字管を百個。一つでも多く作れば追加でボーナスがもらえる。素早く、でも正確に。焦って雑な仕事をすると、失敗して二度手間になるから。無駄な動きを排除して、同じ作業を繰り返していると、なんだか催眠にかかったような気分だ。
おいトム、煙が上がってるぞ。
後ろからジェイソンの声がした。
うるさいな、冗談は後にしてくれよ。
おいトム、嘘じゃない。おまえ火がついてるぜ。
ジェイソンの声が真剣だったので、トムは我に返って自分の足元を見た。本当に、セーターの裾に火がついている!さっきバケツに入れたと思った破片が、満杯のゴミに跳ね返って付いたんだ!
慌てて机にあった木片で叩いて火を潰した。周りの皆も手を止めて、ちょっと緊張してトムを見守った。
幸いなことに火種はすぐに消え、毛糸の焦げたいやな臭いがあたりに立ちこめた。トムが口を開き、何て言ったと思う?
「ああ!!お気に入りのセーターだったのに!」
伸びきったうえに焦げたセーターを抱えて悔しがるトムを見て、みんなで笑いころげた。
(実話にもとづいた創作)
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