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過去の気紛れは図書館の天使だった


 昨日から心の調子が悪かった。
 と言っても診断名がついているわけではなく、ただ気分が滅入っていたというだけ。原因はわかっていて、その原因はわたしではどうすることもできないということもわかっていた。
 だからわたしができたことは強制終了することだけだった。つまり、何もせずに布団に包まって夢の世界に逃げ込んだ。夢は見なかった。

 朝、いつも以上に働いていない頭でシャワーを浴びて、大して美味しくも不味くもない栄養摂取のためだけに作ったおかずの残りと、割と美味しい冷凍食品をお弁当に詰めて、社会人としての身だしなみらしい化粧をして、いつも通りギリギリに家を出た。
 電車は毎日毎日飽きもせずに満員である。時々笑い出したくなる、こんなにも毎日見ず知らずの人間の間に挟まって、いったいわたしは何をしているのだろうか。全てを投げ出して海でも見に行った方がよっぽど健全な気がする。でも海はもう寒いかもしれない。夏の賑やかさが嘘のように静かで色の冴えない海を思い浮かべて、勝手にウンザリした。

 本日締め切りの書類の提出をやはりギリギリにこなして、集中が続くまで少しの残業をして帰路についた。イヤホンをしてしまえば世界からわたしは完全に遮断され、やっと息ができるようになる。この頃には昨日と比べるとだいぶ復活してきていたのに、再度SNSの波に乗って流れてきたものに被弾、更に交通機関の乱れによって心身ともに八方塞がりのような気分に陥ってしまった。

 いつのまにか音楽は止んでいた。適当に選んだアルバム丸々一枚を聴き終わっていた。普段はリピート設定にしているのに、するのを忘れていた。外の音は聞きたくない、でも聴きたい音楽がわからない、だからと言ってラジオの気分でもない。ライブラリを適当にスクロールしていると黒い背景に青と赤の花柄のアフロが目に飛び込んできた。

Bouquet/soejima takuma


 わたしはいつこのアルバムをライブラリに追加したのだろう。「最近追加した項目」がなければもしかしたら2度と見ることはなかったかもしれない。再生ボタンを押した。


 「図書館の天使」という便利な言葉に1.2年前に出会った。ざっくり説明すると、目的の情報があると知らずに手に取った本に(開いたページに?)知りたかったことが書いてあった、というやつである。
 つまり、そうだった。今の私にちょうどぴったりと寄り添ってくれる音楽だった。図書館の天使の音楽ver.だった。まぁ「ライブラリ」なのである意味図書館の天使でもあっているのかもしれない。

 こうして過去のわたしの気紛れによって今日を穏やかに終えることができたのだ。ありがとう過去のわたし。

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