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建築学生、山形を駆ける 後編

卒業設計日本一決定戦が中止になったので山形に行った話、その後編。後編は泊まったホテルの話から。それ以前が気になる方は前編をぜひ読んでみてください。

さて、山形で建築学生が気になるホテルといえばこれしかないというくらい有名なのが坂茂氏設計の「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」だと思う。山形に行くことを決めた時点で速攻で予約をとった。シーズンオフということもあり、かなり安く部屋を取ることができた。

ただ、ホテルに向かうクルマ で皆が心配していたのがシーズンオフであるがゆえに田んぼに水がないんじゃないか?ということ。正直僕もヒヤッとしたけれど、さすがそこは観光地、駐車場にクルマ を入れるとライトアップされた建物が水田に綺麗に写り込んだ絶景が迎えてくれた。田んぼは冬に水を抜かねばならないと思い込んでいたが、そうではない育て方もあるのだと知った。

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写真ではなかなか伝わらないけれど、周囲に建物がなく水面にぼんやりと浮かぶ建物はほんとうに幻想的で、30分くらい建物の周りをぐるぐるしながら写真を撮った。

そしていよいよチェックイン。このホテルは中央部にロビーやレストランの入る共用棟があり、それに分棟の宿泊棟がいくつも渡り廊下で接続される形式。まず共用棟に入ると、折板構造の切妻屋根がつくる空間の大きさ・力強さや、木の柱と周辺の風景が調和した雰囲気の良さにちょっと言葉が出てこなくなる。とても丁寧なホテルの方の説明を聞いていると、ちょっと落ち着いて周囲を観察する余裕が出てきた。

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坂茂氏の作品ということで構造はとても気になるところだが、このホテルで僕が面白いと思ったポイントは2つ。まず、切妻屋根の「底辺」にあたる部分を鋼製のタイロッドで引っ張り、屋根が潰れる方向への変形を抑えている。現地で見るととても細く、これで山形の豪雪に耐えられのが不思議。もう1つは写真正面に写る斜め格子の壁。薄く見えるがLVL材で作られたかなりごっつい壁で、補強としてかなり効いていそうだった。ともかく新建築で図面を見たときに感じた「柱が細いのにスパンが広い」という疑問はこれで解けた。

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荷物を部屋に置き、共用棟をさらに探検。ロビーに併設されたライブラリーの本は館内どこでも読めるそう。今回は時間の都合で一泊だけれどできれば一週間くらい羽を伸ばしたい。共用棟はセンターコアになっており、外周には遮るものが何もないので端から端まで全て見通せる。これが実質的に平屋であるのに開放感を感じる一番の理由だろう。

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水田にかけられた渡り廊下を通って宿泊棟へ戻る。自然を感じるという意味ではこの渡り廊下が一番気持ちがよかった。宿泊棟は防火の規制が厳しいようで一部RC造となっていたが、室内側からはそれを感じさせないよううまく工夫されていた。

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また、写真では少しわかりにくいかもしれないが、真壁になっていること、さらに要素を極力減らし(窓ガラスが柱梁に直接はめ込まれているなど)和を感じされる演出がなされていると感じた。

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そのほか、宿泊棟でいいなと思ったのはこの階段。必要最小限の造形ながら非常に存在感があり、階段下のベンチの居心地も良かった。踊り場を挟んで上から3段、5段、9段という構成が安定感を感じさせるのだろうか。階段のデザインって、普段の設計課題でもいろいろ考えてはみるのだけれど大抵うまくいかなくて、巨匠のテクニックをまずは盗むしかないと(苦笑)最近建築を見るときの重要チェックポイントになっている。

客室の写真は諸事情により見せることができないが、こちらも最小限の装飾に紙管でできた家具が置かれた落ち着いた空間で、よく眠ることができた。実際建築を見て初めて坂茂は案外ミニマリストなのかもしれないと思った。

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翌朝はこれまた屋根の架構が特徴的な浴場からの眺めを楽しんだり昨夜は暗くて見えなかった外観のディティールをじっくり見たりしているうち、あっという間のチェックアウトになった。まだまだ見たいところがあったし、季節によってはまた違った表情を見せるのであろう。時間のあるときにまたゆっくりと泊まりに行きたい。

その後、いくつかの観光地を回って最後の目的地、銀山温泉へ。隈研吾氏設計の公衆浴場とか入れたらなあと思っていたけれど人数制限がとても厳しく外観のみの見学となった。現在の氏の設計と比べれば随分抑えたデザインだった。

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当日は雪がほとんどないのは残念だったが、その分大正時代から残るものもあるという温泉旅館建築をじっくり眺めることができた。それを自分の設計に生かすというよりも、この時代の重層の木造建築がどのように成り立っているかということの方が気になった。どこかに図面が転がっていたりしないものだろうか。

こうして山形の主要な建築をほとんど見尽くし、大満足の中帰路へついた。本来であればこの翌週以降も群馬や箱根などで実際に見たいプロジェクトが山ほどあったのだが、昨今の情勢を受け以降全てキャンセルとなった。今は期間限定で無料となった新建築のオンライン版を見ながらここも行きたい、あそこにも行きたいと思いを巡らしている。1日も早く状況が落ち着き、このnoteでも楽しい旅の投稿ができるようになることを心から願っている。


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