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[呼吸]肺胞低換気を伴う成人のムコ多糖症患者への呼吸管理戦略

ムコ多糖症とは

ムコ多糖症は、細胞内でのムコ多糖の分解に必要な酵素が生まれつき足りないために、全身の細胞にムコ多糖が蓄積する先天性代謝異常症。よく見られる症状として、発達の遅れ、低身長、骨変形、特異な顔つき、固い関節、お腹の膨れなどがある。重症の患者では、徐々に症状が進行し、10歳代になると歩けなくなる、自分で食事ができなくなる、自発呼吸が困難になる、寝たきりになるなどの状態になる。

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表:国立成育医療研究センターHPより引用

ムコ多糖症の症状の進展

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図:木康之,折居忠夫:ムコ多糖症(まとめ)ムコ多糖症の自然経過.ムコ多糖症UPDATE.折居忠夫 監,井田博幸,衛藤義勝,奥山虎之,他編,イーエヌメディックス;2011:Xii頁 より引用

成人になると、気道閉塞症状(ムコ多糖物質の沈着、頭蓋・脊椎の変形、気管・気管支の変形)の進行、拘束性病変の進行(胸郭低形成・変形、横隔膜の弛緩、肝脾腫による横隔膜運動障害等に伴う肺活量低下)などにより、睡眠時無呼吸、夜間(および日中の)低換気といった呼吸不全に至ることから、延命にはそれらへの対処が必要である(参考文献:ムコ多糖症と耳鼻咽喉科疾患総説,日耳鼻119;713-720.2016

ムコ多糖症患者への呼吸管理戦略

特異顔貌など変形や開口障害・舌肥大のため、挿管困難である。その場合は気管切開が必要だが、術後気管内に肉芽ができる可能性が高く、カニューレの長さや向きを調整しないと換気困難となる可能性が高く、喉頭気管分離術も困難とされている。

従って、このような症例にはNPPVの適応が第一選択とされている。(参考文献:神経筋疾患・脊髄損傷の呼吸リハビリテーションガイドライン

しかしながら、変形によりマスクフィッティングに難渋するケースもあり、NPPVやCPAPでの治療が困難な場合は、代替手段としての高流量鼻腔カニューレ(HFNC)療法は有効である可能性がある。(参考文献:Non-invasive Ventilation and CPAP Failure in Children and Indications for Invasive Ventilation,Front Pediatr.2020;8:544921)←ただし、小児におけるNPPVとCPAPの適応について述べられている文献です・・・

日本においては、疾患は異なるが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対し、ハイフローセラピーによる呼吸管理を急性増悪〜在宅で使用し、ある程度の呼吸不全の治療効果、睡眠呼吸障害の治療が可能であったとの症例報告がある。(文献:排痰補助装置を併用した筋萎縮性側索硬化症(ALS)のハイフローセラピー呼吸管理(急性増悪から在宅まで))

まとめ

肺胞低換気を伴う成人のムコ多糖症患者への呼吸管理戦略としては、NPPVが第一選択だが、難しい場合はHFNCを選択肢の一つとして検討してよさそう。(ただし、HFNCのエビデンスはなく、コンセンサスは得られていない。)

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