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贈与論とOFA

僕のヒーローアカデミアについて、相変わらず言葉を尽くして語っていく。これで、僕のヒーローアカデミアのメインのテーマとして扱った記事は、19本目となるのだけれど、19という数字を存外少ないと感じた。100個くらい書くぞと言っていた割には、全然ですな・・・。

さて、今回は、僕のヒーローアカデミアにおいて重要な役割を果たす個性、特に「ワン・フォー・オール(OFA)」について、また書いていこうと思います。

OFAについて

そもそも、「ワン・フォー・オール(OFA)」とはどのような個性なのか。以前、「「言葉」は「ワンフォーオール」。」という記事でも引用して紹介しましたが、今回も同様に引用します。

個性を”譲渡„する個性・・・それが私の受け継いだ”個性„! 冠された名は「ワン・フォー・オール」〔中略〕一人が力を培いその力を一人へ渡しまた培い次へ・・・そうして救いを求める声と義勇の心が紡いできた力の結晶!!!(堀越耕平、2014、67-68)

「ワン・フォー・オール」の基本的な説明はこれでいいと思います。そしてこれがタイトルにある「贈与論」という言葉とどのように結ぶつくかにいついては、これから書いていきます。

ちなみにこの記事は、「僕のヒーローアカデミア HEROES:RISING」の内容についても言及するので、ネタバレ注意となります。

僕のヒーローアカデミアの、「ワン・フォー・オール」という個性は、「譲渡」或いは、「託す/託される」という言葉がキーワードになります。先ほどの説明にもあったように、「ワン・フォー・オール」というのは、「個性を”譲渡„する個性」(堀越耕平、2014、67)です。つまり、「ワン・フォー・オール」という個性は、何がその個性を唯一無二のものたらしめているかというと、その莫大な力そのものというよりかは、それが譲渡可能であるという特徴です。

作中では、もちろんというか、「ワン・フォー・オール」の一側面しかあまり強調されません。緑谷出久がオールマイトに倣って、「SMASH」という掛け声と共に、超パワーの技を繰り出すシーンは、確かに常に圧巻です。

そしてなにより、「ワン・フォー・オール」については、作中の多くの人が、その個性の、超パワーという一つの側面しか捉えてはいません。まぁ、明らかになってしまうと厄介なことがあるので、「譲渡可能」というもう一つの側面はかくされているのでしょう。

つまり、何度も繰り返しますが、「ワン・フォー・オール」という個性の最大の特徴というのは、超パワーというよりかは、それが他者へと譲渡可能であるという点、或いはその超パワーを可能にしている、「ワン・フォー・オール」という個性に込められている託した人々の思いなのだと思います。

「ワン・フォー・オール」の使用時に注目されやすいあの超パワーの描写は、実は副次的なものという位置付けなのだとワタシは考えます。個性そのものが、有用な能力としてどのようであるか、例えば、半冷半熱や、ゼロ・グラビティ、硬化のように、その特徴が能力的な一つの側面に限定されずに、個性自体が譲渡可能であるという点が最大の特徴である「ワン・フォー・オール」は、やはり特異なものであると考えます。

さて、「譲渡」「託す/託される」という「ワン・フォー・オール」の最大の特徴に関連して、「呪いの時代」という内田樹さんが著した本から引用したいと思いますね。

人智を超えた「超能力」を持つ人が「私には超能力がある」と言い出したら、僕たちがまず問うべきは「あなたはその天からの贈り物にどのようなかたちで返礼するつもりか」ということです。〔中略〕人間が持つ能力は、能力それ自体によってではなく、ましてやその能力が所有者にもたらした利益によってではなく、その天賦の贈り物に対してどのような返礼をなしたかによって査定される。(内田樹、2011、185-186)

「ワン・フォー・オール」の最大の特徴。それは、それ自体の超パワーではないのではないか。そう、ワタシは書きました。これは、贈与論にも当てはまるような考え方なのではと思います。贈与論。何かを与えられると、「負い目」「返礼義務」のようなものを感じて、こちら側から返すこと。しかしその返す相手は、与えてもらった人には限りません。一種の感謝のようなものを、自分ではない誰かにまた与えることなのだと思います。

言ってしまえば、「ワン・フォー・オール」という個性は、「贈与論」の考えそのものではないでしょうか。個性の持ち主自体が、決してその力を占有しようと思うのではなく、むしろその力を託すことに躊躇が無い。まぁおそらく、個性に宿る力に、ある意味では執着心が無いというか、無くなっても構わないという人間が、「ワン・フォー・オール」の継承者として、偶然になるのでしょう。(「選ばれし者」ではありませんね)

それに関連して、僕のヒーローアカデミアの漫画11巻から、志村奈々の発言を引用したいと思います。いやこれは、発言というか、思いや思念に近いかもしれませんが・・・。

何人もの人がその力を次へと託してきたんだよ 皆の為になりますようにと・・・一つの希望となりますようにと 次はおまえの番だ(堀越耕平、2016、89)

託し、託される。しかもそれは、単なる譲渡ではありません。誰かのために、一つの希望となるようにという、どこまでも自我を棄てているというか、則天去私というか、常に他者のためになるように行動せよという定言命法を拳拳服膺でもしているかのように、どこまでも、その力を私的に所有しようとはしていないという思いを読み取ることができるのではないでしょうか。

贈与は、おそらく終わりをもちません。一度その「与えられる」という行為が生じると、(私的に所有するような人間が現れない限りは)また返礼という名の「与える」という行動が生じ、またそれに対して返礼という名の「与える」という行動が生じ、またそれ・・・という風に、永遠に終わることが無い気がします。

「ワン・フォー・オール」は、やはり似ている気がします。巨悪を倒すためなので、いつまでもこの個性が存在し続けるのは、その巨悪が存在し続けているということになり、逆に悪いのではと思ってしまいますが、一旦それは無視をして、「ワン・フォー・オール」という個性自体に注目した時、それは、もしかしればこれからの社会が向かうかもしれない方向にある、贈与によって成り立つ社会の一旦を垣間見ることが出来るかもしれません。

「ワン・フォー・オール」という個性は、天が与えた才能ではないかもしれませんが、しかし「ワン・フォー・オール」を行使するものの在り方は、贈与論をやはり想起させます。

※ネタバレ注意です

贈与として譲渡

僕のヒーローアカデミアの映画、第二弾の「HEROES:RISING」では、緑谷出久は、爆轟勝己(かっちゃん)に、「ワン・フォー・オール」を譲渡します。強敵ナインを倒すため、そしてなにより人々を救うために、緑谷出久という少年は、「ヒーロー」という夢よりも、今、人々を助けるということを選んだのです。

人間が持つ能力は、能力それ自体によってではなく、ましてやその能力が所有者にもたらした利益によってではなく、その天賦の贈り物に対してどのような返礼をなしたかによって査定される。(内田樹、2011、186)

緑谷出久、そして「ワン・フォー・オール」という個性は、それ自体の能力、超パワーがどんなに優れていようが、またその個性によってその所有者にどれだけ利益をもたらしたとしても、あまり意味は無いのだと思います。

返礼。その個性を使って、どのような返礼をしたか。人々に返礼をしたのか。いや、これは人々には限られません。おそらく、世界というか、もっと大きなものに対して返礼をどれだけし、私利私欲にまみれて行動を成さなかったのか、所有しようと、個性という力に囚われなかったのかが重要なのでしょう。

そして、「ワン・フォー・オール」における返礼の或いは贈与の最たるものが、「譲渡」なのだと思います。その意味で、緑谷出久という人間は、「ワン・フォー・オール」を託す人間に値したのだと思います。思うに、これは極論ですが、「ワン・フォー・オール」がなくても構わないというか、「ワン・フォー・オール」の力そのものに囚われない人間が、「ワン・フォー・オール」に相応しいのではないでしょうか。

ならば、緑谷出久が「ワン・フォー・オール」を譲渡した爆轟勝己も、結果的には、「ワン・フォー・オール」を緑谷出久に返したというか、「ワン・フォー・オール」などなくても構わないという風に言ったことから、彼もまたある意味では「ワン・フォー・オール」に相応しいのかもしれません。

ナインを倒すために、「ワン・フォー・オール」を緑谷出久が爆轟勝己に譲渡し、また「ワン・フォー・オール」が緑谷出久に譲渡し直される。これはまさしく、「贈与」「贈与論」の在り方そのものを体現しているものなのではないでしょうか。

僕のヒーローアカデミアの映画に、心惹かれてしまったのは、この「贈与論」的な思想が、組み込まれいたからかもしれませんね。

僕のヒーローアカデミアという作品が、多くの人の支持されているのも、その面白さとか、超パワーとか、そういった要素以上に、「ワン・フォー・オール」という個性に現れている、人々の根源的なもののやり取り、所有しない、永遠に続く贈与と返礼(=贈与)が垣間見えているからかも・・・?

ということで、「贈与論とOFA」。今回は、こんな感じでおわりたいと思います。もしかすれば、また別の視点から見た「ワン・フォー・オール」も文章として起こすかもしれないので、そん時はまた!




今日も大学生は惟っている





参考・引用文献

内田樹.2011.呪いの時代.新潮社

長崎健司(黒田洋介)(2019)『僕のヒーローアカデミア HEROES:RISING』[DVD]、原作:僕のヒーローアカデミア、東宝株式会社

堀越耕平.2014.僕のヒーローアカデミア1 緑谷出久:オリジン.集英社

堀越耕平.2016.僕のヒーローアカデミア11 始まりの終わり 終わりの始まり.集英社

堀越耕平.2019.僕のヒーローアカデミア公式キャラクターブック2 Ultra Analysis.株式会社集英社



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