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「抽象的はよくない」という勘違い

仕事でよく「あなたの話は抽象的だ」と言ったりします。これはよくない意味ですね。具体性に欠けるということ。「稼ぐ」ためにはリアリティが必要なので、どうしても抽象度が高い内容は敬遠されます。研修などでも「ビッグワードの使いすぎに注意しよう」と言われます。検討、推進、適切などの何にでも使える言葉です。国会答弁などではビッグワードが飛び交いますね。しかし「抽象化」は非常に大切な能力です。物事の本質を言い当てる力。概念的思考力とも言います。組織の方向性を決める、新商品のコンセプトを創るなどでは必須の能力です。経営学者のロバート・カッツは、年齢や経験が上がるに従って「コンセプチャルスキル」が必要になってくると言っています。要するに粒感がポイント。メリハリをつけて、具体と抽象を行ったり来たりできなければならない。会社の方針が「お客様本位で利益を上げる」では、どこの会社でも同じになってしまいます。

具体化と抽象化は、思考だと分析的思考力と概念的思考力で対比されます。ちなみに広義の論理的思考力は「因果が明快」ということなので、どちらにも必要です。分析的思考は、上から下に分解する流れで、演繹的な考え方。これに対して概念的思考は、下から上に合成する流れで、帰納的な考え方。真逆の方向性です。具体化はリアリティで抽象化はコンセプト。だから優れた商品開発者は、具体と抽象を行ったり来たりできるのです。抽象化は人間特有の能力です。代表的なのは言語と数字。だから小学校から国語と算数は必ず勉強する。これは抽象化の訓練なのです。小中の学習で国数を軽視すると、抽象化の基盤ができません。要注意です。

では社会人はどうやって鍛えるの? これが難しいのです。世の中の研修やビジネス本では「ロジカルシンキング」(狭義の論理的思考力)や問題解決という内容で、具体化・分析的思考は学ぶことが可能です。一方、抽象化・概念的思考は学ぶ機会・手段が驚くほど少ないです。これは教える方法が確立しておらず、教える人間も極めて少ない、などが理由だと思われます。分析ができないと困りますが、コンセプトワークが苦手でもさほど困らない。ニーズ自体も少ないのだと思います。課題解決、改善、効率化には分析的思考力、課題発見、付加価値創出には概念的思考力が必要です。年齢、経験とともに後者が大切になるのはうなずけます。結局経験で学ぶしかないのか? まずはお手本になるロールモデルを見つけましょう。多くの事象の共通点・パターン・メカニズムを見抜き、その本質をズバリ言い当てる人。身の回りで見つけたいですね。

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