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ジャニヲタの友人が担降りした話

 思い返せば、昔からわたしの周りにはジャニヲタが多かった。小中学生の頃にはHey! Say! JUMPや関ジャニ、ジャニーズWESTが大ブームとなり、わたしの周りの女の子たちはこぞってメンバーカラーの文房具を収集し、MixchannelでオリジナルのPVを制作していた。一銭にもならないその制作活動になんの意味があったのか、わたしは未だに理解出来ていないが、とにかく彼女たちにはそれが生きがいであったらしい。

その後、高校生になったわたしは今までのジャニヲタとは比にならないほど熱狂的なヲタクと出会う。それがえのきだった。えのきは推しの顔をラミネート加工した特大オリジナルキーホルダーを自作し、通学鞄に付けて持ち歩く猛者であった。自分の隣を歩く友人としては最悪ともいえるが、今となってみればとち狂った面白い、良き友人だったような気がする。事実、わたしはなんだかんだでそんなえのきを気に入っていた。

えのきは、いわゆる“同担拒否”タイプの女だった。○○君のファン、○○君と熱愛報道された女、○○君と共演した女優、○○君と遭遇した一般人…。その全てを憎むことで、自分と推しとの2人だけの世界を築こうとしていた。受験期、授業中に筆箱の裏に貼られた○○君の写真を見つめては恍惚とした表情を浮かべていた。

…こうして書き出してみると、やっぱりかなりヤバい奴だったな、と思う。

そんな彼女の「この○○くんかっこよくない??」という問いかけには、慎重に言葉を選んで返答する必要があった。彼女の周りに撒かれた地雷を、誤って「かっこいいね!付き合いたい!」などと踏み抜いてしまっては取り返しのつかない事態に陥りかねない。そうは言っても、そう難しいことではない。ただ、「やば。」と一言返すだけで十分に友人としての務めは果たせる。良好な人間関係のためには、時に、適切な距離感が必要なのである。

そんなえのきと共に高校生活を過ごし、わたし達は大学生になった。彼女は中部の、わたしは関東の大学へと進学し、滅多に会うことは無くなってしまったが、インスタを見る限りでは向こうで元気にやっているようだ。

……おや?何やら彼女に男の影がチラつきはじめた。思えば夏休み前辺りから兆候はあった。気になって問いただしてみると、バイト先の先輩といい感じの雰囲気らしい。

ほォーーーーーん。

半ば置いていかれたような感覚を感じつつも、それでもえのきはあの頃と変わらずジャニヲタで、変わらず○○くんを信仰していたので特に心配することはなかった。親しい友人同士でグループを組んで名前をつけたがるところ、愛のある投稿文、珍妙なファッションセンス、その全てがわたしの知るえのきそのままで、なんだか懐かしく感じられた。わたしの高校生活の2/3がえのきと過ごした時間であったから、変わらない彼女の姿はわたしの高校生活のアルバムのようなものだった。

ところが最近えのきの様子がおかしい。なにやら可愛くなってきたような気がする。大学でできたらしいえのきの友人達は、垢抜けた、いわゆる女子大生っぽい風貌の女の子たちで、それに感化されたえのきは少しずつその“女子大生っぽさ”に染まりつつある。

カラコンなんて、ビビりなえのきとは最も縁遠い存在だったはずなのに、派手気味の黄みがかったカラコンは色白のえのきによく似合っている。

!!!そんなことより、なんと、あのえのきがジャニヲタを卒業するというのだ。映画の主演が決まったと、フライヤーを取りにAEONまでわたしを連行したえのきが。その映画でキスシーンがあったと泣き喚いていたえのきが。原作の本を買ってみたものの活字に弱いため結局読み切れなかったえのきが。突然の変わり様にわたしは驚いてしまい、こうして筆をとっている。

……好きな人ができたのかもしれない。えのきにとっての○○くんは疑似恋愛的な要素を多分に含んでいたから、現実に好きな人ができたら○○くんは用無しなのかもしれない。

もしくは、単純に飽きたのかもしれない。今までエンタメの少ない田舎で生きてきたゆえにテレビやネットを介してのヲタ活に没頭していたが、都会で暮らす中でもっと楽しい趣味をみつけてしまったのかもしれない。

色々な考察がわたしの頭を巡る。本人に聞いてしまえばすぐに解決することだろうが、そんな話は体育の授業中か放課後のコメダ珈琲でしかできないに決まってる。えのきはそんなたわいもない疑問を簡単に投げられるほどの距離から遠ざかってしまった。楽しそうな様子を見れば見るほど、連絡するのを躊躇ってしまう。

いいなあ、楽しそうで。

わたしはまだ大学に居場所を見つけられないでいるよ。優しい友だちには出会えたけれど、なんだか反りが合わなくて、そこそこ退屈な日々を送っているよ。わたしとえのきが話していると、周りにいるクラスメイトが、話を盗み聞きしていた先生が、くすくす笑っていたのを思い出す。そこそこ長い付き合いのなかで忘れかけてしまっていたけど、ウチらって結構相性よかったよね。

そうしてふと、えのきのインスタのアイコンがわたしとのツーショットになっているのに気づく。自然と顔が綻ぶ。えのきはかなりヤバい奴だったけれど、それ以上に優しい奴だ。そんなことはわたしが1番知ってる。変わりゆく友人に不安にさせられることもあるけど、安心させてくれるのもまた友人だったりするものだ。

春休みはたぶん会えないけど、また次会ったら色々聞いてみようと思う。高校時代の思い出話も、現状の報告も、これから思い描く将来の話も、全部できちゃうウチらって最強じゃね??って、今更感じてる。ウチらの適切な距離感って、255kmだったのかあ。見えないぐらい遠いねえ。

眠くなってきたのでおしまい。

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