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日記7

せっかくうつ病になったのだから、その経過を記録してみようとなった。何ヶ月後か、あるいは何年後か、この日記を見て笑っていたい。

異変が起きたのは今年の4月だった。新しい職場への異動があって、適応に手こずっていた。異動には慣れている。これまでの経験上、大抵は5月の頭にはすっかり違和感がなくなる。ところが今回は長引いた。6月近くになっても、未だに苦しみの中にいた。

それに加えて色々が起きて、僕の心は可塑性を失った。夏休みが明けて、学校がはじまっても、僕の心はそのままだった。兆しが見えない。それで、これはさすがにオカシイということになり、精神科にかかることにした。

9月になってやせ細っている自分に気がついた。体重は56キロ近くにまで落ち込んでいた。4月から6キロ近く落ちている。周りの先生や生徒からも心配された。「死にそうな顔してますよ!?」これは実際に言われた言葉。自分では普段通りやっているつもりなのに、やれていないようだった。

はじめは朝が辛かった。昼、夕方と時間が進むに連れて元気になっていった。リズムは決まっていた。波は1日単位で穏やかだった。その波の間隔が次第に短くなっていった。精神的痛風に近い。風が吹けば、ちょっとしたことで次の波がやってくる。

アルコールを欲するようになった。飲みたくて飲みたくて仕方がない。何年もお酒を飲んでこなかったのに急に飲みたくなってしまった。今は薬を飲んでいる関係でアルコールを断っている。これが何よりも辛い。それでも、我慢できなくてたまにお酒を飲む。そのときは目を白黒させている。やばい。

精神科でこんな問答があった。
「どうしたいとかありますか?」
「特にありません」
この時、あっ、ヤバい状態なのかも、と明確に認識した。

そんなふうに、自分が少しずつ壊れていくのを感じている。緩やかに瓦解していく。心と身体がバラバラになっていく感覚。それらをまとめあげる求心力が弱まっている。ああ、これがそういうことなんだな、と思った。

たくさんたくさん、心に負担をかけるような生き方をしてきた。そのツケが回ったのかもしれない。目には見えなくても、確実に蓄積していた何かが、ある一点を境にして溢れたのだろう。溢れたらもう、歯止めが効かなくなって。

今日は長野市に来ている。夜の飲み屋街を一人でふらふらした。大勢の客引きがいたけども、一度だって声をかけられなかった。そうして往来で一人で歩く自分の姿を発見した。たくさんの声が聞こえてきた。若者は相変わらず恋愛をしている。汗と香水が混じった匂いを嗅いだ。性欲の匂いだと思った。なんだか遠い場所の匂いに感じた。中年は相変わらず大きな声で何かを言っていた。内容はよくわからない。僕はやっとのことでラーメン屋に入り、中華そばと餃子、そしてレモン酎ハイを注文した。その後コンビニでタバコを吸った。たくさんの人が僕の前を通り過ぎていった。日本人も、そうじゃない人もいた。そうして今、この日記を書いている。


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