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【視伝研】「ちぎる」から考える、テレビゲームの操作

『デジタルクリエイティブにアナログ要素を持ち込むことによるアイディアの転換』をテーマに考えてみよう!
って話になったら、あなたはどんなことを考えます?

わかぼさん「パンや紙や消しゴムみたいに何かを半分に割った時、きっちり等分にならないのってアナログ的かも?『偉さ』とか『すごさ』とか『優先度の高さ』を、ちぎったものの大きさで表せたりしないか

天才かと思っちゃった

 ↑天才のインタビュー記事です


冒頭のテーマは、株式会社ゆめみの有志のデザイナーで発足したUXUI研究チーム、視覚伝達情報設計研究室(視伝研)にて取り扱ったテーマです。
さまざまなアイディアが出ましたが、今回は「ちぎる」というキーワードを深掘りしてUI表現を考えていくことになりました。

その中で、私が前職でゲームを作っていた経験に関連して「ゲームでこういう操作ってないの?」という問いをもらいました。
ありそうだけど、あんまり聞いたことないな。

ということで、この記事では「ちぎる」のキーワードを足がかりに
ゲームの操作について少し考えてみます。


■ありそうでない、ゲームで「ちぎる」

パッと思い浮かんだのは、リズム天国シリーズの「リズム脱毛」
(以下、引用でプレイ動画をお借りしています)

「ちぎる」というより「ひっぱる」「引っこ抜く」かも。

「引っこ抜く」といえば、ピクミン!
こちらは公式映像。引っこ抜く操作は 0:44〜
スマホ操作だとポンっと抜ける気持ちよさが直感的でいいですね。


ちぎってはいないですが、粘土(?)をムニッと「ひっぱる」操作があったのは、マリオパーティ スーパースターズの「クッパひゃくめんそう」

Nintendo 64版では顔ポリゴンをそのまま引っ張っていましたが、Nintendo Switch版ではクッパの顔を模した粘土(?)を引っ張る操作に変わり、ムニッとした感触になりました。
このまま引っ張り続ければちぎれそうな操作です。でもクッパの形をしてるものをちぎるの嫌だな

こちらはカナダのインディースタジオ「RAC7」で開発されたSPLITTER CRITTERSというゲーム。紙のような質感のマップをビリビリちぎって、つなぎ合わせて進みます。

実は調査としてはこれが本命だったのですが、意外にも「今回の『ちぎる』とはちょっと違うかも…?」という話に。
ラインを引くと「切る」に近い感覚になるようです。それも、ハサミじゃなくて電動カッター的な「切る」ですね。
紙というアナログなものをモチーフとしてうまく使っていますが、操作としてはむしろデジタルでブレのないことの利点を取り入れた例と言えるのかもしれません。


■あった!けど……

ようやく見つけた「ちぎる」操作!
懐かしきニンテンドー ゲームキューブの神ゲー、スーパーマリオサンシャインにて、ボスゲッソーとの戦闘で足をちぎるシーンがありました。0:50〜

こちらも「ひっぱる」が操作の主体ですが、最終的にちぎれてます!
ちぎったあと足が激しくビチビチしていて、今見ると結構怖い!

そして、なんか…
私たちがが想定してた「ちぎる」と違う気がする!!!


■そこから考える、ゲームの操作で大事なこと

ところで、ゲームの企画ってどうやってできているかご存じですか?
プロセスは人によって様々ですが、ひとつの流派として
「最小単位の気持ちいい操作から考える」という手法があります。
そこから、その操作を使って達成したいことなどを肉付けしていき、システムを作っていきます。

この手法をとらない場合も、どこかのフェーズで必ず「このゲームでいちばんシンプルな操作がいかに気持ちよくなるか」という課題に立ち向かう必要があります。
それだけゲームにとって「気持ちいい」は大事!
単純な操作に気持ちよく没頭してもらえるかどうかが「クリアするほど長く遊びたいと思うか」に大きな影響を与えるからです。

今回、視伝研でイメージしていたのは、紙やパンをちぎって分割する行為の持つ曖昧な面白さ(= アナログさ)を追求することでした。
「なんか違う」の正体は、ゲームの操作が根本的に持つ気持ちよさ・正確さから来るもののようです。そのあたりをもう少し詳しく解説していきます。


■「気持ちいい操作」の鉄則とは

私の経験則ですが、ゲームの操作を考えるときには「コストに見合ったリターンがある」がある種のセオリーになっています。(ゲームに限ったことでもなさそうですが)

最初の動画の「リズム脱毛」の例で言えば、

コスト:Aボタンを押して毛を抜く
リターン:「ピッ♪」という音

コスト:長押しでカールした毛を抜く
リターン:「ギューッ」という溜め音の後に勢いよく「ポンッ♪」の音が鳴る気持ちよさ

コスト:全部の毛をうまく抜く
リターン:キャラが笑顔になる+お金をゲットした風のSE
(※ なんでお金の音なのかは全く謎ですが、この意味不明なネタ性がリズム天国シリーズの売りなので、最上級のリターンと言えます)

…と、
操作が難しく時間がかかるほど、より気持ちよく豪華な感触を感じられるように設計されています。ぷよぷよで連鎖数が増えるほど音が激しくなっていくアレと同じ理論です。

このリターンはプレイヤーのテンションを上げるだけでなく、「操作に成功した」というフィードバックとしての役割もあります。
当然、同じ操作に対しては同じ反応です。Lv1の操作にはLv1のフィードバック、Lv2にはLv2の…って感じですね。記号化するほどシンプルでキャッチーなゲームになりますが、リアルめなゲームでもよく観察するとこの法則がきちんと機能していることが多いです。(逆に、シンプルなゲームでもこの法則が効いていないとダレます)


ちなみに、スーパーマリオサンシャインで見つけた「ちぎる」はどうかというと、こちらは

コスト:攻撃を避けながら、ゲッソーの足を一定距離まで引っ張る
リターン:ブチン!と勢いよく足がちぎれる

と、「ちぎる」がリターンの役割をしています。操作としては「ひっぱる」がメインに感じられたのはそのせいかも?「ちぎる」というより、「ちぎれた(結果)」と言う方がどうやら正しそうです。
(※ちなみに、足をちぎったことで敵を弱体化させられるという戦略的リターンもありますがそれはまた別の話。ここで言うリターンとは「ブチン」という感触そのものの気持ちよさがまず前提となります)

まとめると、ゲームの操作としてふさわしい動作とは
「操作に成功すると、それに見合った気持ちいい反応が返ってくる」ものであることが望ましいと言えます。
この明瞭さ・正確さは、今回のテーマ「ちぎる」で探求したかった曖昧な面白さとは相性が悪かったようです。


■さいごに

ゲームの世界では「どうちぎれるかわからない」「きっちり当分にならない」という曖昧な面白さ…という意味では使い所が難しいようで、なかなか実例が見つけられませんでした。

ただ、「ちぎる」というアクション自体はゲームの世界でもかなりおもしろく使えると思うんですよね。ビリッ!とか、プチッ!とか、モソッ…とか、いろんな種類の「ちぎる」があって、なかなかクリエイター心がくすぐられます。個人的には粘土が好き

既存のゲームの枠にはまらない新しい体験を提案するタイプのゲーム作品も最近は出てきていますし、次にゲームを考えるとき何かのきっかけになるといいな〜と思いました。
もし既に有効活用しているタイトルがあったら教えてください。

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