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ユカイ工学代表・青木俊介と縁ある人との「ユカイ予想図」対談企画。第3回目は遠藤諭さんと

こんにちは!PR担当のカイフチです🦜

ユカイ工学代表の青木俊介が、その道々で活躍し、世の中へ向けて様々な提案をしている縁のある人物を訪ね、「ちょっと最近どうですか?」というざっくばらんな会話から、今をどう捉え、未来についてまで、様々に語り合う企画「ユカイ予想図」をお届けします。

第3回目の縁ある人は、元「月刊アスキー」編集長で、現角川アスキー総合研究所の遠藤諭さん

今回は、まるで大学の講義に紛れ込んでしまったかのようなスケールの大きなお話が繰り広げられます。数学やコンピューターの歴史、過去の映画や書籍から見る未来、Barのコミュニケーションまで、幅広いジャンルに渡ります。と〜っても濃い内容となっておりますので、どうぞお楽しみください!

▼これまでの「ユカイ予想図」記事はこちら

第一回目:猪子寿之さんと片桐孝憲さん

第二回目:根津孝太さん

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編集者、ライターの遠藤愉さんと「ユカイ予想図」

編集者、リサーチャー
遠藤愉 えんどうさとし

1956年新潟県長岡市生まれ。株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。1991年より『月刊アスキー』編集長。株式会社アスキー取締役などを経て2013年より現職。雑誌編集のかたわら124万部を売った『マーフィーの法則』など単行本も手掛ける。現在は、調査・コンサルティング、セミナー、テクノロジートレンドに関する発信を行っている。デジタルとコンテンツ関連で、テレビや雑誌等でコメントするほか、経産省、文化庁などの委員等を務める。アスキー入社前には『東京おとなクラブ』を創刊、サブカル界隈にも造詣が深い。著書に『計算機屋かく戦えり』、『ソーシャルネイティブの時代』など。趣味はカレーと文具作り。


ユカイな未来ってなんだろう?

青木 
遠藤さんに最初にお会いさせていただいたのは、横浜のファブラボでしたよね。そのときBOCCOの紹介とかもさせていただいたと思います。

遠藤 
そうですね。今日のテーマは「ユカイなミライ」っていうことですけど、ぼくはやっぱり未来は見えないですね(笑)。みんな見えていなかったのを忘れてるっていう。たとえば、2007年とか2008年にiPhoneが出てきたとか、Raspberry Piがあんなふうに盛り上がるとか。それぞれ、きちんと言い当てていた人はいないですよね。もっと端的な例をあげると、ドローンってSF小説にも映画にも出てこなかったですよね。いまのようなあり方では描かれていない。ぼくはドローンは2010年に「AR.Drone」を見せてもらったんですけど。

青木 
AR.Droneって出たの2008年くらいじゃなかったですか?

遠藤 
そうかも知れませんね。日本に上陸したのが2010年ということですかね? PARROTという会社はフランスですから少しタイムラグがあるかもしれないですね。しかも、FPVでARゲームにもなっていたという新しさでした。

青木 
ドローンでAR(拡張現実)なんだ。

遠藤 
アメリカでフランク・リードのシリーズ、フランスでいうとジュール・ヴェルヌみたいな未来小説みたいなものが、19世紀の終わりから20世紀のはじめくらいに結構人気があったらしいんですよね。SFという言葉は1920年代らしいので、まだそうは呼ばれていないわけですが未来を描いた小説の人気があったんですよね。それには電気飛行機っていうものが出てくるんですよ。よく帆船の「帆」の代わりにヘリコプターのローターみたいなのがついている。ああいう絵とかが出てくるんですよね。

青木 
宮崎駿作品みたいな。

遠藤 
そうそう。ジュール・ヴェルヌの時代というか、カレル・ゼマンがその後憧れて描いたようなベル・エポックの時代のテクノロジーですよね。最近著作権が切れて、その素材を再フィクション化したような本とかもあってこれが個人的に好きなんですが。ロボットや潜水艦や先頭にサイのようにコーンのついた戦車とかも出てきて。空飛ぶ船のデザインもさることながら、電気が動力だったりするんですよね。電気飛行機だったり電気で動く馬だったりするんです。

青木 
ガソリンより電気の方が早かったんですね。まだ翼がない時代なんですかね?

遠藤 
ライト兄弟もまさに同じような時代に一生懸命飛ぼうとしてるんですけど、フィクションは発想自体は自由なんですけどね。いろいろな発明がそうした小説に登場するんですが、その中でスチームマンというモチーフがどうもあるんです。未来の自動車はこうなるみたいなものが出てくるんです。要は蒸気自動車なんですけど、それはどういう構造をしているかというと、ホテルのボーイみたいなシルクハットをかぶった紳士というよりもオヤジの形をした蒸気で動くロボットが、車を引っ張ってるんですね。

青木 
オヤジが⁉︎

遠藤 
高級な馬車ってあるじゃないですか。西部劇の幌馬車みたいなのじゃなくて、シルクハットをかぶった正装したオヤジが操縦する立派な馬車ってありますよね。その馬にあたる部分がシルクハットをかぶった蒸気式のロボットのオヤジになっているわけなんです。

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引用参照:https://www.bigredhair.com/books/frank-reade/real-frank-reade/

青木 
あ!オヤジがロボットになって車を引っ張っているんですね。人力車みたいな。それが蒸気で動くということですね。

遠藤 
そうそう。未来の乗り物としてそういうものを求める部分かあったということですよね。礼儀正しいんだけど、まだ蒸気なんで、頭の上から煙が出たりして。19世紀の終わりにこういう未来を描いたわけだけど、実際は、蒸気機関車やガソリン自動車の時代がやってきた。こういう未来にはならなかったわけじゃないですか。

青木 
ならないですね。

遠藤 
そこで何が起きていたかというと、数学の力が大きいのかもしれないと思うことがありました。うちの奥さんの実家が100年くらい経ってる洋館だったんですけど、何年か前に壊すことになって片付けをしていたんですよ。その時に、明治の終わりから第二次世界大戦の終わりまでの技術資料をひっくりかえす作業をやったんです。原乙未生という日本の戦車を作った祖父の持ち物だというのですけど、それが明治の終わりは、まさに19世紀の終わりから20世紀のはじめなんですね。

青木 
へえ。

遠藤
見ると最初は数表の世界。昔は三角関数とか、いろいろなものを表でやっていた。大砲の弾道計算とかも。それが、あるところで微分方程式が出てくるんですよ。要するに、微分方程式が出てきたことによって何が変わったと考えられるかというと、時間軸とともに変化するものがシミュレーションができるようになった。それによって、飛行機の翼面設計とか、ガソリンエンジンとか、そう簡単には実験できないものの設計が容易になった。それより前は、静的な力学か、実際にモノを作って試していたわけですけど、そこを境に手に負えないエネルギーのものを考えうるようになったと言ってもよいと思います。例えば、飛行機だったら試しに何度も飛んでたらパイロットの命がいくつあっても足りない。大砲の弾道とかもいちいち撃ってたら手間もお金もかかる。近年では、最初のコンピュータという評価もあるドイツのコンラート・ツーゼという人のコンピュータはまさにジェット機の翼面設計に使われた。人間のイマジネーションよりも、数学的な進歩が時代の境目を作りだした。

青木 
面白い。微分方程式が時代の境目をつくったそれで、イノベーションがあったということなんですね

遠藤 
もう、第二次大戦は、一枚ペロンと表面の皮をはいでみると微分方程式がズラッと敷き詰められているくらいだと思うんです。この話を、経済学者の野口悠紀雄さんにしたら「そうですよね」とさらりと言われてしまったのですが。たとえば日本のエンジニアがそうだったわけだから、それまでは西欧に対して技術的に大きく遅れていたわけだけど、微分方程式に限らず数学は世界中平等に手に入れることができますからね。俺たちにもできるじゃんということになっていたのかなと思いました。

青木 
でも微分方程式はもっと昔からあるんですよね。数学の歴史自体はもっと古いはず。

遠藤 
微積分はニュートンの時代ですからね。その意味では数学的なこととモノを工業的に作るという話とクロスしてきたということなのですかね。そして、この計算自体を機械でやる話になってきます。

青木 
一個一個手で計算すると間に合わないからなんですかね。

遠藤 
ENIAC(エニアック)とか、古いコンピューターのことをボクは日本のコンピュータのパイオニアたちにインタビューしたりするなかで調べることも多かったんですけど。

▼「計算機屋かく戦えり」にまとめたインタビューシリーズ 

青木 
ENIACも弾道計算用ですよね。

遠藤 
そうなんですよ。ENIACもアメリカの電気工学者・エッカートの最初の資料は電気式の微分解析機っていう名前らしいのですね。目的がはっきり決まっていて。ただ、実際にENIACができたときに最初にやった計算は、核物理学の3つの微分方程式を解くことだったそうですが。

青木 
軍艦の照準を合わせるとか、船の距離と速度を計算するとか、電気式でできるようになってきてたんですよね。

遠藤 
いわゆるブッシュの方式による微分解析機だと円盤で滑らないようにコロコロとモーターで回したり歯車を組み合わせたりしたものですが。東京理科大の近代科学資料館で、和田英一さんが言い出して第二次対戦末期の1943年に国内で製造されたものを再生して動く状態にしたプロジェクトがありましたが。それは、大坂帝国大学で研究開発、航空機関係の会社が製造したものだそうです。

青木 
なるほど!

遠藤 
そういうすごい境目があるんですよ。手に負えないようなものを扱うようになるって、もうバカですよね。人間というのは、ある意味(笑)。

青木 
(笑)計算のコンピュテーション能力を手に入れたってことですよね。

遠藤 
そうですね、計算によってですね。でも同じような時代に、フィクションの方がある意味、後追いになっていた部分があったということなのですね。小説でより自由に描いた未来よりも、数学やサイエンスによってガラッと世界は変わりうる。

青木 
なるほど。

遠藤 
つまり予想してなかったことがが起こるんですよね。スチームマンみたいなロボットが引っ張る蒸気の車の未来を予想してたのに、ガソリン自動車が出てくる。さらには、ヘンリー・フォードみたいな人が出てきて大量生産で多くの人の手に届くという別の意味でのイノベーションを起こす。スティーブ・ジョブズがApple IIで成功したとき、フォードに例えられたりしましたよね。

青木 
へえ。

遠藤 
ある種のチープ革命ですよね。フォードも相当興味深い人ですが。「ねじとねじ回し」という本があるんですけど、ニューヨークタイムズのミレニアム特集で「この1000年で最高の道具は何か」という質問に答えたときに著者が書いたものなんですよ。ねじもマイナスのドライバーとプラスのフィリップスドライバーがありますけど、ねじの発展の過程では四角いボックス型のねじで“ロバートソンねじ”というのがあって、その著者は今でもマイナスでもプラスでもなくこれが一番いいんじゃないかって言ってるんですよ。

フォードはさっさとそのロバートソンねじを採用しちゃったそうです。フォード社が大量に使ったことで、なんとかロバートソンねじは成り立った。ただ、プラスねじのフィリップスの方が賢い。そもそも、フィリップスねじは別にフィリップスという人が作ったんじゃなくて、誰かが作ったものの権利を買ったんですよね。ロバートソンねじは自社のねじとして直接売られていた。それに対してフィリップスは権利商売で成功するわけです。これは、そっくりそのまま1980年代のパソコンの世界にあてはまります。独自仕様のコンピューターがたくさん出てきた中で、MicrosoftはMS-DOSやWindowsでライセンス商売をしていって市場を制覇したわけじゃないですか。全部自分で作って売ろうとしたロバートソンは、フィリップスに負けちゃうわけですね。

▼遠藤諭のプログラミング+日記 第4回

青木 
へええ!

遠藤 
ちょっとフォードの話に戻ると、そういう先進性のあるものを取り入れる人だった。なので、ジョブズとかもそういう風に評価されたらしいんですよね。

青木 
なるほど〜


人間の未来予想はあてにならない!だから、楽しい

遠藤
つまり人間が未来を予測しても当たらないことがままある。数学やサイエンス、テクノロジーが新しくなるとガラっと変わっちゃう。その証拠にiPhoneやドローンやRaspberry Piがここまでくると予測した人はたぶんいない。それを可能にする技術的な要素はゆっくりと目に入る形で示されていたのにあまり未来予測できていないですよね。

ところで、微分方程式が仮に手に負えないものができる技術だとすると、今は「AI」とか「量子コンピューター」とかが出てきている部分って、人間が解けないという意味で手に負えなかった問題を解くという話ですよね。

青木 
そうですね。

遠藤 
少し前ですが、内閣府の「革新的研究開発推進プログラム」(ImPACT)のサブマネジャーをされていた湊雄一郎さんにインタビューをさせてもらったんですよ。世界的にもめずらしいハードもソフトもやっている量子コンピューターのベンチャーをやられている。量子コンピューターには、ゲート型とアニーリング型がありますが全く同列に扱えるSDK(ソフトウェア開発キット)を提供していたりします。量子コンピューターは、日本では材料科学に関係する企業などでとくに注目されているそうなんですが、物質をどんどん小さなスケールで見ていくと、粒子のほかに波動も意識しなくてはいけなくなる。量子コンピューターって、今まではそうした問題をコンピューターに合わせて変換してやっていた計算を、もともと量子の問題なんだからその変換をしなくてもよいというお話なんです。よく量子コンピューターについての説明で量子ビットの重ね合わせがどうとかちょっと神がかかった説明から入りますが、こういう言い方から入ると聞く気になりますよね。ちなみに、グーグルがカナダのD-Waveの量子コンピューターを買ったことが話題になったことがありましたが、彼らの検索アルゴリズムとD-Waveの仕組みが似ていた。グラフ計算がこれなら速くできるんじゃないのということだったようですね。

青木 
ふむふむ。

遠藤 
AIについてもだいぶ形は違うけれど、頑張ってアルゴリズムでやっていたことがディープラーニングでパラダイムが変わりましたよね。量子コンピューターも計算スピードもさることながら、いままで式を展開したり変換したりして無理やりやっていた部分がまるでかわってくるということなんですね。

ちなみに、どうして暗号に量子コンピューターがいいかっていうと、ボクは単純に大量の計算ができるという理解しかしてなかったんですが、周期性という習性があるからだと。素因数分解も周期性があるので相性がよいのだという。え、そんなことなの?って(笑)

青木
ふう〜ん!
 
遠藤 
それってまさに、100年前に微分方程式が産業界で使われるようになったタイミングに非常に近くて。いよいよ未来が変わるのかなって思ってるんですよね。20世紀も「スチームマン」ではない世界が来たように予測できなかったようにね。

青木
ははは(笑)

遠藤
ドローンなんかは、たぶん「007」とかだとこんな小さいドローンとか出てきてもおかしくなかった。ひょっとしたらそういうのはあるかもしれない。ところが、007の時代になかったのは安いドローンがたくさん出てくるという設定。とくに、1990年代のデジタルによるチープ革命については昔のSFはあまり予測していないですよね。予測にも軸がありますよね。

青木
うんうん。

遠藤
そういう技術の基盤になるものは、どのくらいの時間を要して実用化されるかがポイントになってきますね。ただ、量子コンピューターのロードマップは、湊さんが言うには一年前にはみんな言うことが違ったと。何年後に何ができるかっていうのは、人によって言うことが違ったそうです。

湊さんの関係で量子コンピューターのセミナーをやらせてもらったことがあるんですが、セコムの研究所の方に登壇していただきました。その方は、あまりに人によって量子コンピューターのロードマップについて言うことが違うので、自分で研究することにしましたって言っていましたね。

青木
へえ。
 
遠藤 
アメリカのロードマップとかはものすごくはっきりしていて、アメリカって国の情報公開の制度があるので、そのスケジュールを視野に入れてのものだと。そのために、コンテストをやったり、技術目標を作ったりして、ものすごくロジカルにやっているんですね。それで、量子コンピューターのロードマップの話ですが、湊さんによると、1年前にはバラバラだったけど今は量子コンピューターの業界的な合意ができたみたいなことらしいです。要するに2025年にはこのくらい、2050年にはこのくらい、みたいな。

青木
なるほど!
 
遠藤 
なので、未来をどうこういうには、ものすごいよいタイミングですよ、今は。量子コンピューターにかぎらず新しいテクノロジーが見えてきている時期ですからね。00年代にちょうどよいCPU技術やセンサーやモバイルインターネットはもうあって、iPhoneが出てくると予想できてもよかったでしょうという時期に似たタイミングかもしれません。

最近では自動運転に関する議論を見ていると面白いですよね。これの場合はやることはハッキリしているのにそれによってもたらされるものが予想されていなかった。最初はもちろん運転しなくてよくなる。車ででかけて酒飲める。降りてから車は勝手にどこかに行くので駐車場がいらなくなる。都市交通などの平均速度は遅くなる。移動中のクルマの中も施設のような目的をもたせられる。小型の配達自動運転車の市場もある。昨年のいま頃に車の台数が増えるだろうというのもありました。MITテクノロジーレビューの自動運転のニュースとかを読んでいた程度なんですが、あのメディアは論文や研究者への取材がベースなので、少なくとも議論のトレンドがある。その人たちの論文はもちろんちゃんと考えられていて、説得力もあるんですよね。ただ、初期に自動運転がこれから注目分野であるといったときに、自動車が増えるとか、交通の速度遅くなるとか考えてもなかったし、あまり言ってないですよね。いま見ると当たり前のような意見なのに。せいぜい、衝突防止の自動ブレーキがきたときに板金屋さんが「嫌だな」と思ったくらいのことしか人間は予想できない。それくらい人間の未来予想はですね、あてにならない!だから、楽しいみたいな。(笑)

青木
そうですよね(笑)
 
遠藤 
だから、ディストピア的なことももちろんあるんだけれども、なんか悲観する必要はないってぼくは思うんです。だってコンピューターの短い歴史でも全然予想通り来てないし。パソコンだって1960年代には想像されていないでしょ? コンピューターを作り始めた時は。だって、コンピューターは数台あれば世界の計算需要をまかなえるって、50年代にまじめに言ってたんですよ。

青木
ビルゲイツがメインメモリは640KBあればいいって言ってたんですよね。将来的には十分だって。(笑)
 
遠藤 
でも、笑えないんですよ。日本も1950年代にユネスコの世界中の科学技術計算の需要をまかなうコンピューターセンターの構想に署名したんですよ。

青木
へえ、面白いなあ。
 
遠藤 
外れた歴史は面白いですよ。時間あったらめっちゃ調べたいですよ! 銅の緑青(ロクショウ)(錆び)は毒じゃなかったっていう話もね。子どもの頃は気をつけて10円玉は舐めないようにしてたんだけど(笑)。無害な物質であるといまでは厚生労働省も言っている。歴史はやっぱ、面白いですよね。

青木
歴史は繰り返すってことですね。
 
遠藤 
そうそう、繰り返すんだけど、テクノロジーだけは前に進むから。


変わるものと、変わらないもの

青木
その時に結構変わらないものっていうのもありますよね。人間の身体も変わらないので。例えば、人が暮らすのに心地いい豪邸って、ひと昔前の豪邸は今でもみんな住みたいじゃないですか。ベッドとか、ソファとか、カーペットとか、内装とか。そこにちょっとテレビとか電話が増えたかどうかくらいで。だから、変わらないものも結構ありますよね。ヒモぐつとかも、なんでヒモなんだっていう。人間の身体に近いものはあまり変わらないのかもしれないですよね。ピアノの鍵盤とかも。
 
遠藤 
鍵盤の歴史は相当古いですよね。ピアノはある意味産業革命の、後期産業時代というか、あの辺で止まってると思うんですけど。UIはもっと古くて、それが現代のエレクトーンとかシンセサイザーとか入力された先は新しいみたいなことですね。確かに一番手前の身体のフロントエンドは変わってない。

青木
ぼく会社で20年前のノートパソコンも結構いっぱい置いてあるんですけど、今出てもこれ欲しい!と思えるくらいのデザインがすでに完成されていて。それ以降進化してないけど、別に誰も進化を求めていないってことなんですかね。キーボードで入力できて、ある程度の画面サイズがあるっていうのは、これからずっと必要なんじゃないですかね。身体的制約に基づいているので、そういう意味ではスマホもなくならないと思ってて、20年後とかも。地図見るのにやっぱこのくらいのサイズがないときついじゃないですか。移動しながら持つものって。これ以上薄っぺらくなっても壊れるだけだし、手帳サイズってすごい昔から人がポッケに入れたりするもので。スマホは20年後、形ほとんど変わってないと思うんですよ。予想!

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遠藤 
ほんとですか! 手に持つものという物理的な存在となるとそうですね。でも、2002年頃の未来考証をしたと話題になった映画で、犯罪者を先に特定しちゃうっていう「マイノリティ・リポート」には携帯電話やスマホは出て来ないんですよ。あの頃、ぼくら業界的にはPalm TreoやBlackberryやiモードもあったわけですが、あの映画には手のひらサイズの端末は出てこないですよね。

青木
みんなBMI(Brain Machine Interface)とか言ってるけど、人間ってすごい保守的なんで。例えばレーシックする人ってめっちゃ減ってるんですよ。あんなの一番簡単な身体ハックじゃないですか。安全性も十分に確立されてるけど、みんなメガネをかけるっていう。レーシックすらやらない人間が、BMIが普及するわけないってぼくは思ってて。
 
遠藤 
なるほど、そうですか。眼鏡もさっきのピアノの鍵盤みたいなところがありますね。最初は鼻に挟んだり、帽子からぶら下げたりしたんだけど、今のフレームを耳にかけるスタイルでどのくらい変わってないんでしょう。たぶん100年は変わってないよね。昔ぼく80年代の前半くらいにバイクに乗ってたんですけど、当時流行っていた林道を走りにいくようなオフローダーです。そんなにすごい走り込んだという訳ではないんだけど、普通のバイクって地面に吸い付く感覚とかがあるんだと思うんだけど、オフローダーってお尻の先にサスペンションのロッドが出てて、地面をタイヤが蹴っていくみたいな気分になってくるんですよ。それがうまく乗れている時っていうのは、多少の悪路でもダラッと蹴ったりとか、身体の一部になってるっていうか。例の「ナチュラルボーン・サイボーク」という有名な本があるんだけど。

青木
いわゆる人馬一体的な。
 
遠藤 
人間が拡張するんじゃなくて、人間の外部に人間を拡張するものがあって、そこにもう神経まで行っちゃう?みたいなところに割りと簡単にたどり着いちゃう? みたいな、それくらい人間の神経は柔軟性があってということですね。それの限界はどこだみたいな議論もあるんだと思いますが、そこは本当に人間の脳というか神経ネットワークというか、計算システムってすごくて。

Keith Barryというメンタリストがいるんですけど、その人の読心術は「子どもの頃遊んだものを心の中で描いてください」って言うんですけど、その時にちょっとあなたの頭を抑えさせてくださいと言うんです。で、彼は相手の額のあたりを抑えて、「はい、思い描いてください」と言うと、頭の中で人間はそれを目でシルエットを追うんですよね。それで完璧には捉えられないんだけど、その眼球の動きを読み取って当ててしまうんですよ。全然心を読んでなくて、手が読んでるんですよ。

▲再生23分頃参照

青木
へー!おもしろ!じゃあ、色々な質問をして、心の中で思い浮かべたときの眼球の動きを見てるんですね。視神経って脳細胞の一部だって言われるくらいですもんね。

遠藤 
その人の持ちネタで、向いあって椅子に座らせた男女にまっすぐ手を延ばして突き合わせて互い握らせるというのがあるんです。それで、女性の方に目隠しをして男の人の背中をポーンと叩くんですよ。それで、女性に「今何が起きました?」って聞くと、「背中を叩かれました」って。そういう実験があるんですよ。それって実際は男性の背中を叩いているのに、振動のパターンが女性にそのまま伝わって、自分の背中を叩かれたと思っちゃう。それくらい手は敏感なのかもしれないし、人間は振動の波形の解析力に長けてるということですよね。というよりは、背中を叩かれた経験があるから、波形の相関関数もなにもパッとフレーム的にはめ込むことができちゃう。

青木
目をつぶって、ひもを揺らすだけで、長さがだいたいわかるみたいな感じですよね。
 
遠藤 
おー、ありますよね。それってインプットでもあるし、アウトプットをしながらでもあったりすし、そういったことがすごくあって。それを身体に合わせてうまく使ったものが、いい器であり、いい道具であり、いいオフロードバイクであり、いいUIなのかもしれないですけどね。

青木
そうっすよね。必ずしも先端にセンサーつけて、脳みそに入力するっていうことではないですよね。
 
遠藤 
いいですねぇ!体の外側にあるものでも相当なことができてますよね。なにを設計するのにも、むしろそれを知ることの方が先にやるべきことではないかと。


音声認識の可能性が、テクノロジーの鍵を握る

青木
遠藤さんは音声入力は原稿で使わないんですか?
 
遠藤 
ぼくは使ってないですけど、ぼくけっこう滑舌がいいんで認識率はいいですね。メッセンジャーでは使いますけどね。それと、音声認識ではないですけど「Swype Keyboard」っていうスマホのアプリは使っていました。日本以外のほとんどの国ってQWERTY(クワティ)キーボードをタッチするのではなくなぞる入力をやっている人がすごい多いんです。きっちりキーの上を通らなくてもパターン認識で入力できるのですね。ジェスチャー入力。

▼遠藤諭のプログラミング+日記 第4回

青木
あーそうすると、予測で「I don’t know」とか「Thank you」とか。

遠藤 
英語圏だとほぼすべてのスマートフォン用の入力アプリはGoogleも含めてジェスチャー入力に対応しています。だけど、日本のGoogleだけはやってないんですよ。キャリアの方に聞いたら「日本は辞書が発達してて、ユーザビリティテストとかやってもあんまりそういうの欲してなくて、今のままでけっこう満足している」と言うんですよ。それは、アンケートで聞いたら決まった入力しかしない人が多いからそうなっちゃいますよね。唯一日本語対応しているのが、Swypeだったんです。英語ですがギネス記録になったこともあります。要はNUANCEという音声入力の会社がやっていてジェスチャーと音声入力は近いですね。

青木
予測モデルですもんね。

遠藤 
ところがなんと、サポートがまもなく終わるんですよ!Swypeは、多くの特許をとっているそうですからライセンスだけでよいという話なのかもしれませんが。日本人だけがスマホの入力が非効率で遅いというのはつまらない話ですよね。コンピューターを使っている時間のうちキーを操作している時間というのがものすごく長いわけで、その呪縛を少しでも解けたらとある意味ずっと思っています。

青木
GoogleのGboardも英語の入力は対応してますよね。アルファベットは。

遠藤 
グーグルも英語など他言語ではやっています。中国語も韓国語も。グライド入力と呼んでいますが。日本語版だけGodan入力というそれほどなめらかでもない方式になっていてなぜなのか説明して欲しいと思っています。やってみたけどダメだったとかいう話かもしれないですけど。入力って、そんな簡単な話ではないですよ。Swypeは辞書がかなりダメだったのですがジェスチャーの認識は実用レベルでした。

青木
うんうん。

遠藤 
言葉はすごいですよね。考えたものを言語化して、言葉で発して、相手が聞くっていう。なんか実はものすごい高度なことをやってるんだけど、そのスピード感たるや。

青木
音声通話のその即時性みたいなものって、情報量がすごいですよね。ちょっと誤解されたり困る時とか、相手の反応を伺いながら相談したりする時とか。

遠藤 
まあ、お詫びはだいたい電話ですよね。

青木
ですよね(笑)。それって情報量が多いからですよね。

遠藤 
そうそう。

青木
テキスト化するより、喋っちゃった方が早いっていうのはありますよね。

遠藤 
そうなんですよ。そこだけはね、ちょっとね、BMI(Brain-machine Interface)ほしいかもしれない。

青木
確かに。そこって、ありそうですね。そこは進化するでしょうね。

遠藤 
暦本純一さんの研究室のオープンラボに行ったら、健康診断の腹部超音波検査に使う機械をのどのあたりにつけて、それで得られる画像データを学習させてディープラーニングで文字化するのをやっていました。実用で使うには課題もあるのかもしれませんが、考え方としては、喋ったような喋んないようなこともやっていました。

青木
実際に声を出さなくてもいけるみたいな。

遠藤 
喉にマイクつけてやるやつもありますけどね。あんな感じですかね。

青木
声帯とっちゃった人用の。

遠藤 
身体に近いところは変わんないっていうのは、ボトルネックになるところでもありますが、ここから先は色々なことができたら楽しいですね。ここはでも、それこそAIを活用してみんなチャレンジしてる場所ですからね。fMRIの画像からいま思い浮かべている文字や夢の内容をあてちゃうというのも同じような発想ですね。

青木さんは音声入力は使いますか?

青木
移動中は使いますね。車の中とか。運転中でも使いますね。

遠藤 
やっぱり音声すごいですよね。

青木
音声認識のコモディティ化って結構最近のサービスの鍵を握っているテクノロジーだと思いますね。スマートスピーカーもそうですし、テレビの音声だけで視聴率が取れるとかも。テレビで音声とると、今どのチャンネルを視てるとかがわかるとか。音声の情報ってすごい原始的で、昆虫ですら活用している情報じゃないですか。爬虫類とかよりも以前の。多分すごいたくさん情報量があるかなと思いますね。なので、例えば、奥さんの足音聞くと機嫌がわかる、とか。怒ってるかどうかとか、だいたい予測できるじゃないですか(笑)危機察知能力みたいな。

遠藤 
それは、ドアの締め方じゃないですか、歩き方よりは(笑)ピシャリとか。ドアは意思表示装置だったみたいなね。

音声認識についてですが、昨年発表会でシーマン人工知能研究所の斎藤由多加さんとの取り組みでお話されたBOCCO emo(ボッコ エモ)のロボット言語は、ぼくはなるほど!と思いました。スマートスピーカーって結局第三者が自宅に入ってくることになるから、誰の声かわからないとか、むしろ誰の声かわからない方が良かったりするんですよね。いっそのこと、R2D2的なピロピロっていう方が、侵入感がないというか、自分のパーソナル領域に入ってきた感がないっていう。

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青木
犬がいても人間ってセックスとか普通にできるじゃないですか。例えば、そういう動物とかがいても普通に何もプライバシーは感じないですよね、一般には。でも、ペッパーがいたら嫌じゃないですか(笑)家で暮らすロボットって、多分ちょうどいいところがあるんじゃないかなとぼくは思っています。

遠藤 
いやあ、ほんとそうですね。ペットはOK、ロボットはだめ。なぜならロボットはぼくらの理解を超えていることをやってるかもしれないから。そういうことですかね?

青木
そういうデザインにしてしまうと、家の中にあったら、鬱陶しい存在になってしまうんじゃないかなと思うんですよ。


“でしゃばらない”コミュニケーションって、いいよね

遠藤 
BOCCO emoのロボット言語のアイデアは素晴らしいですよ。どういう風にアイデアが出たんですか?

青木
R2D2みたいな音声言語を作ろうというのは、元々社内でも話していたんですけど、シーマン研究所さんと話すことでより明確になっていきましたね。

遠藤 
ファービーはファービー語ってあるじゃないですか。あれとはまた全然違いますからね。あれは、ピジンイングリッシュじゃないけど、子供がこわれた英語を聞いて楽しんで、かわいいと思うみたいなみたいなことですけど。それがBOCCO emoは、よりさえずり的な感じで。

青木
やっぱり犬って、何万年も人間といるだけあって、人に好かれる技術が遺伝子にものすごい入りまくってるんですよね。だから、こっちの言ってることはわかってるけど、わかりすぎない、みたいな。ややこしいことまではわかってないっていう安心感があって。犬の方の言葉もなんとなく気持ちは伝わるけど、もしいきなり犬が喋りだしたらすごい疲れると思うんですよ(笑)

遠藤 
やっぱり眠いか、腹が減ってるくらいがわかるくらいがいいんだ。

青木
そのくらいがいいですよね。ぼくがそもそもそんなに喋れないんですよ。1日の喋れる時間の総量が決まってて。だから、会話をなるべくしたくないっていう派なんで(笑)家に帰って会話しなきゃいけないものがあったら、けっこう大変だなって思ってて。

遠藤 
BOCCO語(ロボット言語)覚えちゃったら、電車の中でもどこでもBOCCO語で喋ってれば、人に聞かれても恥ずかしくないみたいな。

青木
そういう未来!(笑)

遠藤 
それ作ってくださいよ。それがあったら、Swype Keyboardが復活しなくてもぼくはいいや。Swypeも誰かが買って日本語でリリースしてくれないと、日本の経済や文化に影響すると本当にまずいと思っているんだけど。テクノロジーの世界というか人間の世界ってすべてそうかもしれないけど、必ずしも理屈でベストという方向には向かわないですよね。非効率な方に行っちゃう。そこは神の思し召しと思っている部分もあります。

青木
そうですよね。

遠藤 
BOCCO語いいですよ、あれは!だいたいの人に言うと、みんな「おお」と唸りますよ。でしゃばらないってすごい重要なんだよなあ。バーのコミュニケーションとかもちょっと近いんですよね。

青木
バーのコミュニケーションって?

遠藤 
ぼくは2~3カ月にいちど新宿ゴールデン街でカレーバーというのをやっているんですが、早い時間は知ったなかまの宴会みたいですが、遅くなってくると本当のバーみたいな静かな時間になるし知らない人も入ってくる。それをやっていたり、いろいろ話を聞いていて思ったことなんですけどね。

バーって、お店の人は普段は客の話は聞いていないか一方的に聞くわけだけど、時々、スパッと一言が出るわけですよ。例えば、この人は今まで20回来たけど、こんな日もあった、こんなことも言ってた、みたいなことがバーカウンターの中の人の脳のネットワークのある階層に記憶されてて。たとえば、客が超落ち込んでいるときに、ほんの二言三言、すごい適切なことを言うみたいな。たいして知らない関係なのに。知らないからこそのアドバイスみたいな。理想のバーは知りたがらないですよね。ちょうどいい距離感で、サードプレースというのでもないですけど。そうそう、スタバがサードプレースなんて、ふざけるな!って感じですよ(笑)元々はバーがサードプレースなんです。

青木
ほんとですね!(笑)会話をするときにバーデンのことを気にしてたら面倒臭いですもんね。

遠藤 
でも聞いてないようで耳には入ってきますよ。聞いてない能力もあるのかもしれないけど。

青木
でも、お酒の減りとか見てますもんね。

遠藤 
聞いてないんだけど、脳にはネットワークはできてる。さっきの読心術の人の他のネタで、人間って周辺視野があるからいろいろ見えてるんですよね。例えば2人組で好きなものを言ってくださいみたいなことをいうだんだけど、意識して見えていない視野のギリギリのところにヒントとなる絵を置いておくとそれを答えてしまう。バーテンダーも、本人は耳に入ってきたものをたれ流し的に意識すらしていないしだから人に言うこともないんだけど。ふだんは物体化しているというか。

青木
わかります。でしゃばらないっていいですよね。

遠藤 
スマートスピーカーは、それありますよね。うちにもありますけどね、アマゾンのエコーが。英語の設定にしてるんですけど、ぼくは英語はあんまり堪能じゃないので、よく通じなかったりもするんですけどね。でも英語版にしているのもそういう理由かもしれないな。一時期日本語の設定にしたら鬱陶しくて。

青木
なるほどね〜。

遠藤 
BOCCO emoいいですよ。早く出した方がいいですよ!

青木
はい!2020年には出します!

遠藤 
21エモンに出てくるロボットがいるんですけど。芋掘りロボットのゴンスケ。あの欠陥感がいいんでしょうね。フューチュラマにもゴンスケみたいなちょっと問題のあるベンダーというロボットが出てきますね。やっぱり、みんなロボットを求めていたんだなー。

そのときに、ロボットとのコミュニケーションについての答えはなんなのか?ロボット自体はそれこそ人間が予測できない感じで変化していくけど、変わらないのは一番手前の人間のあたりですからね。

青木
いやあ、ありがとうございました!

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いつの時代でもまだ見ぬ未来は人々を魅了するものですね。数学の歴史から未来まで、壮大なスケールのお話、勉強になりました。素敵なお話をありがとうございました!

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