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NFTを活用した次世代ビジネスへの取り組みとは?実例を踏まえた「NFT×ハードウェア」新規事業開発のポイント

Web3でのビジネスを考えるうえで重要な技術であるNFT(非代替性トークン)。現在はアートを中心としたNFTの活用が台頭しつつありますが、NFTの魅力や有用性はどの部分にあるのでしょうか?また「デジタルコンテンツ」以上の価値を生み出し、市場をリードするようなサービスやプロダクトにするためにNFTを活用することは可能なのでしょうか。

デジタルアートのオンラインプラットフォーム「NEORT」を立ち上げ、NFTアート展開の先端を切り拓いているNEORT株式会社 CEO・NIINOMI氏と、個人でNFTアート分野に挑戦しながら、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)で「遊びの未来」についての研究を行っているアレクシー・アンドレ氏をゲストに迎え、コミュニケーションロボット(BOCCO emo)はじめ「住む人を主役」に考えた企画・開発を続けるユカイ工学代表の青木とプロダクトデザイナー巽が、NFTとハードウェアにおける今後のビジネス展開の可能性をお伝えしたセミナーのレポートをお届けします。

こんな方におすすめのセミナーレポートです
・BtoB、BtoCプロダクトを扱っている事業会社の経営者
・新規事業開発に携わっている企画、マーケティング、開発マネージャ


◆NFTはDigital Artのプロトコルになる技術

NIINOMI:
Digital Artとはデジタルテクノロジーを使ったアート作品と定義しています。NFTを通じて流通していく想定で、画像や映像など様々なメディアフォーマットがあります。それ以外にもWebサイトを構築するようなプログラムでリアルタイムに描画する作品、時間が経つにつれて変化する作品、コトや人の動きに反応して動く作品もあります。これまでジェネラティブアートと呼ばれていたカテゴリがNFTによってまた注目を浴びているので、ここからさらに変化がくる可能性もありますね。

NFTについてはネットでの情報から把握されている方も多いと思いますが、代替不可能なトークン(Non-Fungible Token)のことです。代替可能なものの例で言われるのはお金です。1万円札と100円玉100枚は価値が同じで交換可能なものですが、スポーツ選手のサイン入りボールと新品のボールでは価値が異なりますよね。これをデジタルデータに対して実現できるようにした技術がNFTです。

NFTによってデジタルデータになんらかの価値をつけることができるようになると僕は考えています。その価値には2つあると考えていて「唯一性」と「一回性」です。唯一性というのは、このデータの所有者であることが示されているものです。一回性というのは、その瞬間にしかおきないであろうことをブロックチェーン上に記録として残しておくということですね。例えば、平成の最後の日に描いた絵を残しておくだったり、婚約した証明を記録に残して永遠の愛を誓うといったこともあります。これが実用的であるというよりも「エモい」というところがデジタルデータにつける価値としてのポイントなんじゃないかと思います。

青木:
その証明というのは取引の記録、日時までブロックチェーン上に残るということですよね。

NIINOMI:
そうですね。いつ誰が購入したかという履歴も残ることになります。もう一つの実用的な側面として、Digital Artの共通規格になりえる技術であると考えています。どこのマーケットでも買えますし、買ったものをセカンダリマーケットで売ることもできます。また購入したものを売ったとしても、元のアーティストにも収益が還元されます。作品データや詳細な情報は公開されていて誰でもアクセスできるので、誰もが同じ方法で利用することができるようになったんですね。

今Webサイトを見ようと思ったらブラウザを立ち上げてURLをアドレスに入力してアクセスしますが、それはhttpというプロトコルがあって誰でも同じ形で表示できるようになってます。それと同じことがDigital Artにも起き始めていて、これが普及していくと広く流通して利用されていく可能性があるところがNFTの面白いところですね。

青木:
収益が元のアーティストにも還元される仕組みに可能性を感じている方は多いと思うんですけど、その仕組みが整備されるとしたらどこかのマーケットでそういうサービスを始めるという形になるんですかね?

NIINOMI:
今はOpenSeaというAmazonのような大きなマーケットがあって、NFTアートができるたびにそこに登録されていくような流れになっています。そこで取引されたものは、売上金の何%かをアーティストに還元されるか設定できるようになっているんです。OpenSeaがこの仕組みを実現しているから成り立っているんですけど、他のマーケットがそれを実装しなければならない理由はないんですよね。今は一つのマーケットでの機能ですが、それが規格として整備されていくとOpenSea以外のマーケットもたくさん出てきて、どこのマーケットでも還元されるようになるのではないかと思います。

NFTをうまく活用している事例を2つ紹介します。

1つ目はPixereumという作品で、100×100pxの1枚の画像なんですけど1pxごとに販売されているんです。つまり10,000人の所有者がいるんですが、所有者が好きにピクセルの色を変えることができるんですね。それぞれが好きな色を設定したら抽象的な見た目になりますし、誰かが具体的な設計図を出して、例えば猫を描きましょう!と誰かが提案して受け入れられたら絵に猫が描かれるかもしれないんです。1つの作品に対して複数のホルダーがいるので、これによってゆるい繋がりができるところが面白い点ですね。

もう1つはCryptotTunksという作品で、転売される度に木が大きくなるものです。

NFTの売買に使われるイーサリアムは環境に悪いと言われていて、送金をしたりNFTを発行する際にある値を発見してそれが承認されたら発行されるのがブロックチェーンの仕組みなんですけど、この値を発見するのにすごくコンピューターリソースを使って計算してるんです。1回の取引につきVISAのクレジットカード取引の何千、何万倍の電力が使われてるとも言われています。こちらは近々解決される予定ではありますが、この作品は「取引がされればされるほど環境に悪い」NFTに対して、「取引されればされるほど木が青々と生い茂っていく」という皮肉めいた作品なんです(笑)

今まで気づいてなかったけれど、こうして作品に落とし込むことで注目するきっかけになることもありますよね。

作品を通してのコミュニケーションというのはSNSなどを通じて大きく変わってきたように感じますが、作品そのものの楽しみ方はまだ大きく変化していません。パソコンやスマホから見るだけではなく、鑑賞体験そのものをアップデートすることで新たな視点の発見に繋がると感じています。NEORTでは2022年4月にオープンした展示空間「NEORT++」で実験的な取り組みをしています。

展示空間「NEORT++」

またユカイ工学と一緒に開発しているデジタルアートを鑑賞するためのデバイス「Digital Flame」は、日常空間にアートを溶け込ませたくて発案したもので、プロトタイプを作って見せ方を研究したりと実現に向かって進めています。

デジタルアートを鑑賞するためのデバイス「Digital Flame」

また今後伸びる可能性があると考えている分野は、リアルな世界のデータを取得してブロックチェーン上に記録して、それを誰もが情報として使えるようにするというものです。昨日の天気や、あるスポーツの試合の結果などを記録していくことで、さらに幅広いものがNFTとして価値を持つようになるかもしれないと考えています。

青木:
リアルな世界のデータを取得するのにIoTはものすごく相性がよさそうですね。

◆クリエイティブ性を持つ自動生成システムの考え方

アレクシー:
僕はソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)に所属していて、研究員の活動としても個人の活動としても「自動生成システム」の研究開発に取り組んでいます。インスタレーションや会社の壁面などにも自動生成システムを使用して制作した作品を展示していますが、例えばソニーグループのモーションロゴを生成する仕組みには、僕が開発した色パレット抽出システムが応用され、直前の映像との親和性の高いモーションロゴが自動生成されています。

会社の会議スペースを飾るアレクシ―・アンドレ氏の作品

これまでやってきたことは「クリエイティブ性を持つ自動生成システムをどう作るのか」ということです。自分のクリエイティブ性を引き出せるシステム、という考え方が1番あっているかもしれません。例えば12年前に「音蟲」という作品を作りました。これは取得した音によって波形の線が生成されて虫になって動き出す、というものです。線をなぞると音をだすこともできます。逆になぞると逆再生もされます。真面目にふざけてるというのが僕の仕事内容ですね(笑)

「音蟲」の操作の様子

基本的に遊びの未来を考えています。そこには自動生成(ジェネラティブ)という要素が不可欠と感じています。何か入力があって、その内容によって出力が変わる。それはまさに先ほどNIINOMIさんが話していた「唯一性」「一回性」というのにも繋がりますよね。あの場所で、あの時だけで味わえた体験を自動生成で作り出せると思っています。

新型コロナウイルスの感染が拡大してしまったことから、これまで行っていたインスタレーションのようなイベントがなくなってしまいました。デジタルアートという存在はこれまでそれだけでは収益を上げられなかったので、インスタレーションなどの別の形で見せるしかありませんでした。ただこのままではいけないと思っていた矢先にNFTが登場しました。僕は5年以上前から毎日自動生成で作品を作ってTwitterに投稿する活動をしていますが、そうした作品の1つの動画をNFTとして出したところ、高額で取引されました。

ただ買って終わりではなく、作品を買うことによって更に新たな作品が自動生成される仕組みを取り入れました。作品を購入した人専用の作品が生成されるのです。この仕組みを利用した作品を数多く販売しました。昨年、NFT界隈でかなり売れた方に入ると思います。アートだけを売るのではなく、プロセスも含めて販売していまです。完成したものを売って終わりではなく、ものを作ってくれる仕組みを作品にしているということです。ただ、この考え方はコンセプチュアルアートという考え方で新しくはありません。
 
作品を作って終わりではなく、完成するまでのプロセスに色々なアクションが混ぜることができれば、よほど面白いなと。それは日本の「〜道」という考え方にも近いと思っています。結果だけでなく、生き方そのものが問われます。書道家が書いた作品ももちろんすごいですが、その作品ができるまでの過程が1番重要と考えています。書くときの感覚が反映され、必ず同じものが作れないというのが魅力の1つです。

自動生成ではそこに作意がないって思われてしまうかもしれませんが、そこにはれっきとした自分の意志がベースとなっています。また、機械が勝手にやって面白くないと指摘を受けることもありますがますが、実際にはまだ法律が追いついていないだけのように感じています。例えばカメラマンが現場の雰囲気とかセッティングとかライティングを完璧に仕上げて、最後の写真を撮るとこをアシスタントに任せたら、今の法律ではアシスタントの作品になってしまいます。

青木:
今のカメラだって、カメラの中で結局複雑な画像処理をして写真ができているわけなので、そう考えると自動生成も同じ考えですよね。

アレクシー:
画像処理ソフトで処理した画像は、そのソフトを作っている会社のものなのか?というとそんなことはないですよね。自動生成だとしても、そこに自分のスタイルを取り入れて形作ることで、自分自身の作品になると思っています。

また子供たちって無限に遊べますよね。僕の姪は自分の好きな人形でずっと世界を作って遊んでいます。そこにインタラクション的な要素を組み込めたらもっと面白く遊べるのではないかと発想したもののが、その後、小さなキューブ型ロボットトイ「toio™(トイオ)」に発展しました。自分の好きなキャラクターや自分の好きな遊びが作れるプラットフォームで、真っ白なキューブに自分の好きなものを乗せて遊ばせるのがベースになっています。だから作品の違う好きなキャラクター同士を登場させて遊ばせることもできます。これによって、自分のおもちゃと自分のストーリーで遊びを通じてさらに面白い体験ができるようになります。

2021年夏 Sony Park展連動イベント「人類の未来のための研究 - ソニーCSL研究公開」で展示されたtoioを使った作品

自動生成によって作られるNFT作品と同じで「自分のアクションによってできるユニークな自分だけに価値があるもの」が出来るということです。これからは見る人によって自分に合うエンタメコンテンツじゃないと負けてしまうと思っています。そこのプロセスをデザインするというスキルが今後求められてくるように感じています。

◆ビジネスにNFTを取り入れるポイントは「エモさ」

青木:
アレクシーさんの作品で面白いと思ったのは、再現性があるけど物理的な要素をいれることで、それが周りの環境との影響でちょっとずつズレていくという部分ですね。ロボットでもよくあることなんですよね。

アレクシー:
その部分が遊びなんですよね、ロボットの遊び。ロボットの遊びを人間の遊びにしたのが重要かなと。

NIINOMI:
ユカイ工学はDigital ArtやNFTに対してどんな関わり方を今後していけると感じましたか?

巽:
僕らはずっとハードウェア開発をやってきていて、NEORT社とDigital Artを展示する「Digital Frame」というディスプレイを作りました。そういった出力の部分だけでなく入力の部分でも関わっていけるんじゃないかなと感じました。

アレクシー:
これまで何かコンテンツが生成されるインスタレーションを提供した際、無料だとみんな気軽に遊んでくれるんですが、有料にすると何か「間違えてしまうんじゃないか」という恐れがとてもありますよね。自信がなくなって、その先に進まなくなる逆効果が出てしまっています。

だからこれまで1番反応が良かったのは、その人自身の様子を元にして自動生成したインスタレーションでした。「自分自身だけど、間違えてない」というところで、みんな喜んでました。そこがハードウェアのソリューションを作る上で気にかけるポイントかもしれませんね。

青木:
ロボットの面白いところは、唯一性というかノンファンジブルなところなんですよね。ユカイ工学で販売しているしっぽクッションロボットの「Qoobo」も、壊れたものの代わりに別の個体をどうぞというのとはちょっと違うんですよね。中身は修理で部品が変わってしまったとしても可愛がってた外装はそのままにしておいてほしい、新品にしないでほしいという声はよく聞きます。

しっぽクッションロボットの「Qoobo」

他にも会話を通じていく中でパーソナライズしていくといった機能を追加したりしたいなとおもっていて、一緒に過ごす時間が長くなればなるほど性格が変わっていくとか、デジタルデータだけどすごくユニークなものにしていけるんですよね。

アレクシー:
ソニーグループで販売している自律型エンタテインメントロボット"aibo"(アイボ)が壊れてしまった時、修理センターではなくてペット病院という名前にしたことで共感を得られたと聞きます。ロボットなので外装が壊れたらパーツ交換をすればよいのですが、そうすると「これうちの子じゃありません」となるのです。

ただのロボットではなく愛情が加わったことで「自分だけにしか価値のあるもの」になったのは本当に素敵なことだと思います。ハードウェア自体は量産するものなのでユニーク性を出しづらい点はありますが、ソフトウェアの部分で自分との関係性を高めるものを作り出していけるといいと思っています。

青木:
ロボットが寿命を迎えて泣く泣く手放さなければいけなくなったとき、その前の個体の遺伝子的な要素を残したりとかして、昔いたロボットの子供として「どこか性格が似てる」という要素があったりするとむちゃくちゃエモいですよね。僕たちもエモさをテーマにロボットを作り続けてきているので、そういう観点は大事にしていきたいです。

NIINOMI:
そのロボットの個性、性格みたいなのがブロックチェーン上にデータとして残っていて、ボディは劣化したりして変えないといけないかもしれないけど魂の部分だけは変わらずに残っているというのも、できるってことですよね。

エモさを大事にロボット開発してきたということですが、どこから着想を得てるんですか?

青木:
しっぽをふる可愛さだったりは動物のような動きを再現するという面もあります。またその人がどれだけ触れ合っているか、どれだけ一緒に時間を過ごしているかで対応が変わるようなシステムにしているんです。だからたくさん撫でてもらってる「Qoobo」と、放って置かれている個体とでは動きがだいぶ変わるんですよ。まだそこが遺伝していくところまでは仕組みとしてはできてないので、これから考えたいですね。


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