ささやかな愛を

今私は人生の底にいる。

これは私にしかわからないから分かる。
絶対に底にいる。


脳出血で倒れてから3か月と数十日。


生きててよかった〜〜〜〜〜〜〜〜。


で済まされるフェーズは終わってしまった。

短くなった髪の毛も幾分
野球部が引退して不器用にワックスをつけ始めるくらいには伸びた。

病院からリハビリセンターに移って
もう日産スタジアムは見れなくなったけど、
ご飯はこっちの方が美味い。
できればご飯を大盛りにしてほしい。


肝心のリハビリの方はというと、

1ヶ月前と比べると見違えるほど変わりましたよ。
車椅子から杖も使えば自分で歩けるようにもなりましたし。
左手も胸の高さまで上げられるようにもなりましたね。
発音できなかったのはもう「た行」と「は行」だけですよ。
この調子でいきましょう。



最初に泣いたのは1週間前。

自分の杖を購入します、と言われた時だった。

多分リハビリの不甲斐なさ、悔しさから
自室で一人で泣いた。
「squall」や「あるべき形」や「一滴の影響」を聴いて泣いていた。

高校の頃の高体連の涙に近かった。

あの頃はまだ左手も左足も脳もピンピンしていたっけ。

泣くと少しはスッキリした

とはいかない。


3日前。

購入した杖が届いた。色はブラックらしい。

「あの、杖なんか今後入りますか?」

と質問をしていたら
少しは変わっていただろうか。

うまく発音できないせいもあって、
より言葉を発さないようにしていた。
頭の中にめぐった質問は、行き場を失ってままどこかへ消えた。

その次が言語のリハビリ。

足し算のマス掛け算、
数独を解くのに50分もかかった。
あえてもう一度言おう、
2ケタの足し算を解くのに50分もかかった。


自室に戻ると、
あぁこれは泣くやつだ、と察知した。

悔しいなぁ悔しいなぁ悔しいなぁ悔しいなぁ
悔しいなぁ悔しいなぁ悔しいなぁ悔しいなぁ
悔しいなぁ悔しいなぁ悔しいなぁ悔しいなぁ
悔しいなぁ悔しいなぁ悔しいなぁ悔しいなぁ

「一滴の影響」で今回も泣いた。


次の日。

朝目覚めると、
目の前には足につける歩行用装具と杖がきれいに並んでいた。

お母さんみたいな看護師の方に
転院してから言われたことを思い出した。

「ストレスが溜まりやすいから気をつけてね」

言われた時は適当に相槌を打っていたけれど、

これ、もしかしてストレスじゃね。
そんなこともお構いなしに今日もリハビリはある。

言いたいことも思うように言えず。
周りにはお年寄りしかいない。
外に出れない閉塞感。
将来への漠然とした不安。
今も北海道ではなくこっちにきている母親、
こんな歳になってまで親に迷惑をかけるのか。
知り合いのプライベートの充実感とのギャップ。
友達からの「大丈夫?」が嬉しいけど、ありがとうだけど、
本当の意味で大丈夫を理解してくれる人はいないんだ。

そもそもこの病気は誰のせいにすればいい?

やり場のない感情をどこにやればいい?

もっと単純な性格に生まれたかったな。

あぁ、また「一滴の影響」聴かなきゃ。


悔しいなぁ悔しいなぁ悔しいなぁ悔しいなぁ
不甲斐ないなぁ不甲斐ないなぁ不甲斐ないなぁ不甲斐ないなぁ
申し訳ないなぁ申し訳ないなぁ申し訳ないなぁ申し訳ないなぁ
羨ましいなぁ羨ましいなぁ羨ましいなぁ羨ましいなぁ



先日、ダチョウ倶楽部の上島さんが自殺した。

正直話すと、ちょっとだけよぎってしまった。


すると、ここ数日の私を見かねた看護師さんが
消灯後に私を半ば強引に呼び出した。
そう、あのお母さんみたいな看護師さんだ。

この日私は、初めてリハビリ中に言語の先生の前で思い詰めて泣いてしまった。

人前で泣くのなんていつぶりだろう。
相当溜まっていたんだな。

そして、看護師さんに呼ばれ面談に入った。
どっちかっていうと、カウンセラーかな。

その人は本当に喋りやすくて、
自分の根の根気持ちを全て話した。

聞くと、顔から相当負のオーラが漂っていたらしい。
顔に出やすいタイプとはよく言ったもんだ。その通り。

約1時間半ぐらい話をした。

自分でも胸がスッとなるのを感じた。


そして今日。

いつものように目に入ってくるのは
歩行用器具と杖の2枚看板だ。

いっそのこと名前をつけてみようか。


今日は泣かなかった。
というより、昨日の言語の先生の前で泣いてしまったことが
少々気まずいからだ。今日朝イチからあるし。


サボりがちになっていたYouTubeの編集も進めないとなぁ。
「感覚ハイボール」あのチャンネル結構面白くない?
でもみんなやけに厚着してるよね。
てか、もし脳出血で死んでたら
まだ世に出てないYouTubeが最後の言葉になってたって考えると面白いね。


今私は人生の底にいる。

これは私にしかわからないから分かる。
絶対に底にいる。


もちろん不安は山ほどある。

挫ける時だって必ずある。

その度泣いて、責めて、怒って、失望して。

未だに、朝起きたら全部夢だったじゃないかって思う。

でも、まだ左手左足は重い。
これが現実。

この後も現実を見るのは怖い。
その時はどんなnoteを書くだろうか。

嫌でもまたnoteに記すために、
今回は前編にしておこう。


やっと聴けていなかったあの曲が聴けるような気がする。

歩行練習に行ってこよう。


あの日から突然
何もかもが変わってしまった 
でも 永遠に抱える価値ある悲しみだと
そう信じて 今日も行こう


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