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 考えない日記:壁沿いに歩くと 2022.10.25

 寒風が山肌を撫でる。ぐるりとトンビが旋回していく。軒先の植物が弱った色をみせている。携帯電話が一時間前に降ると予告した雨はまだ落ちてこない。カップの底に少しだけ残ったコーヒーを支えに文字を少し読む。更迭された政治家、性犯罪の法律、汚れた爆弾、ガス代が一年で十倍になった国、ミャンマー軍がコンサート会場を爆撃、湘南のバンクシー、ジブリパーク、高木ブーさん、初回限定、お急ぎください!ご注文はコチラ!

 新聞を放り出して窓辺により、薄雲の空へ目をやる。飛行機が飛び去る音。数日前に届いたUSB-Cというケーブルを機器に挿してみる。純正品よりも少し入りが悪い。

 昨日は月曜日。逗子の古書店は休みだとわかったので別の書店へ行こうかと家を出た。ところが電車に乗っている間にどうにも行く気が失せてしまい途中下車する。大きなショッピングモールのある駅の改札を出てモールの本屋を目指す。天井の高い入り口を抜け四階へ向かう。途中で館内の暖房がきつ過ぎて体が苦しくなる。来た道を戻る。天井の高い出口を右へ折れて外へ出る。空気を吸う。

 港湾沿いに歩き人気のない休息場所を探す。すると、モールの外壁を回って奥の方へ、行き止まりになっているはずの小道に異国の人が進んでいく。向こうから来る人もちらほらいと後をたたない。違和感を感じ、そのまま彼らの後を歩いていくと、正面からは決して見えない位置に人が一人ずつしか通ることのできないように細工した金網と鉄格子のある小さなゲートが現れた。ここは横須賀に駐屯するアメリカの軍人やその関係者が、日本と基地であるそちら側を出入りするための裏口だった。後ろから無印良品と書かれた大きな荷物を持ったアメリカ人がわきを抜かしていく。どうやらモールの中で布団を買ったようだった。彼はそのまま大きな布団を抱えて裏口のゲートへと吸い込まれていった。踵を返してまだつかぬ街灯の下、打ち寄せる波を見ながら休んだ。彼は今夜、暖かくして眠ることができるだろうか。

fine 2022.10.25 mar

 

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