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県下一周駅伝のライブ配信番組というもうひとつのレースを走ることになった話

これはコミュニティFM放送という小さなローカルメディアが、いま何ができるのかと精一杯考えた結果、割と大変なことをやろうとしている話。

クソ長いので興味がある人だけ読んでもらえれば。

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鹿児島には、毎年2月に行われる「鹿児島県下一周市郡対抗駅伝競走大会」、通称「県下一周駅伝」という大会がある。

これ、鹿児島県民にはこの季節の風物詩としてお馴染みの大会なのだけれども、全国的に見てもなかなかこんな大会は他にない。

まず、規模がおかしい5日間に渡って、583.8km(微妙にコースが変わることがあるが2021年第68回大会の距離)、53区間もの規模で襷を繋ぐ。学生長距離最長の、あの箱根駅伝でも2日間往復合計10区間・217kmである。その軽く倍以上。県下一周を掲げていたり、地域や市町村対抗だったりの大会は他県にもあるが、こんな規模でやってるのは鹿児島だけである。

そして、各地区の熱量がおかしい。県内を12地区にわけ、それぞれのチームで選手を選考するのだが、ほとんどの選手は学生だったり社会人だったり、本業を持っている人々で構成されている。学業や仕事の合間にそれぞれ練習を重ねて選手選考に臨む。予選会で選手入りできず涙を飲んだ高校生が、その後教員になって赴任した先のチームで選手となり地元を走る、なんていうドラマもそこら中にある。選手だけでなく、各チームを支える地域の人々の熱量も半端ない。各地区の熱量がぶつかりあう大会でもある。

コースとなっているのは離島を除く県本土なので、離島エリアにあたる大島チーム・熊毛チームは残念ながらコースが地元を通らないのだが、それ以外の10チームにとってはどこかで「地元入り」のタイミングがある。もちろん応援も盛大なものになるし、県下一周駅伝を目標とする選手にとっては地元を走るというのはなによりもの名誉だろう。

そんな県下一周駅伝。2021年2月の大会はどうなるのかと、自分のようないち駅伝ファンのみならず、選手や関係者、多くの人が気を揉んでいたはずだ。

コロナ禍の中、同じく県内の長距離陸上イベントである鹿児島マラソンやいぶすき菜の花マラソンは密を避けるため通常開催は中止(オンライン開催に振替え)が決まった。駅伝はマラソン大会ほど一箇所に大勢集まる競技ではないとは言え、これだけ大規模な大会ともなると相当シビアな判断が求められる。正月には箱根駅伝が開催されるも、沿道での応援は自粛を呼びかけられていた。

前述のように県内各地域を背負って競うという性格から、この大会にとって沿道の応援というのは欠かせない要素のひとつでもある。毎年、学校総出で沿道で旗をふる小学生。団子やお茶などを用意し中継所で振る舞う人々。選手や監督、スタッフだけではない。沿道の人々は間違いなくこの大会のもうひとりの主役であるし、選手が走り沿道の人々が湧くことが、地域の力となる。県下一周駅伝はそういう大会なのだ。

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あるタイミングで、

「沿道応援の自粛を呼びかけることになりそう」

という話を聞いた。

何かしなければ。うちで何が出来るか。すぐにそんな思いが頭をめぐる。コミュニティFMというのはとても小さな放送局で、せいぜいひとつの市町村をカバーする程度の守備範囲。県内を駆け巡る県下一周駅伝に対しては、地元入りのタイミングで中継放送などできたらいいなあ程度に(コロナ禍になる前は)考えていた。しかし今回は状況が違う。

この大会は南日本新聞社の主催で、駅伝期間中は(開催前から)膨大な量の駅伝関連の記事が掲載される。しかしながらテレビ中継などは行われないので、リアルタイムに駅伝の状況を知るには、沿道に行くのがいちばん。しかしそれができないとすると・・・いまわがまちの選手はどこを走っているのか。順位は。調子はよさそうなのかどうなのか。毎年楽しみにしていた人々にとっては、知りたいことがたくさんあるはず。

ほんの少し、前々職でそこそこの規模の駅伝大会の中継番組に関わっていたことがある。駅伝の中継番組がいかに多くの人の手で作られていて、いかにシビアなものかはある程度知っているつもり。率直に言って、うちのようなコミュニティFMの規模で手に負えるものではない。この規模の大会をリアルタイムに伝えるには、人員も設備も技術も予算も何もかも足りない。

しかし、それでも今年の状況は何かせずにはいられなかった。この大会が開催されるなら、地域の力となるこの大会の炎を少しでも燃やすことに貢献したい。出来ることはなにか。無い知恵を絞り、アイデアを出す。

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結果、どうなったか。

5日間にわたり、うちのスタジオからYouTubeライブ番組を配信することに。

会場を見ていないのだからこれはリアルタイム実況中継ではない。沿道応援自粛が呼びかけられている以上、取材も最大限の感染対策をとったうえで、限られた人員だけが現地に入る形に。そうやって現地から最新の情報がスタジオに送られてくる体制を考えた。写真、動画を撮って送ってもらう。Zoomなどでリアルタイムの画も可能な限り出したい。順位やタイムは現地にいるスタッフが把握でき次第、YouTube配信でも伝える。細かいことだけど、音声をメインに、動画や写真、図表、Zoom画面、ホワイトボードなどを随時スイッチングしてゆくことを想定している。

主催の南日本新聞社公式サイトでは、選手のすぐ近くのGPS情報が表示される「チームいまここ」という企画が実施されることになった。

それ以外に、事前に把握できる選手の情報、各チームの情報を随時読み上げていく。電話中継や現地リポーターとつないで、できるだけ周辺情報も拾ってゆく。これらの情報をミックスしながら、およそ6時間以上×5日間というYouTube番組をライブ配信することにした。

うちの単独企画ではない。各地区の名前を胸に走る選手がいるように、鹿児島県内には多くのコミュニティFM放送局がある。いくつかの局には事前相談にお邪魔してみた。すでにこれまでも、それぞれの地区で各局が地元を応援するために中継などをおこなったり、特番を作ったりされている。

正直、うちが出しゃばってYouTubeで5日間とも駅伝の最新情報を伝えますなんて、おこがましい気もした。しかしながら、どう思われても今年はただ何もせずに見ているよりはいい。こんなYouTube番組があるのと無いのとでは、あってよかったと思ってくれる人もいるはずだ、と思っている

いくつかの局については、それぞれで作られている番組の音声を使用することをOKいただいた。それぞれの局でもその地区を応援する放送を行っているし、その音声がYouTubeライブを通じて多くの方に届くことになる(ことを期待している)。コミュニティFMと主催の新聞社、ライブ配信を通じてこんな形でつながる情報発信は、今まであっただろうか。

繰り返しになるが、限られたリソースしか無いのでこれは実況生中継みたいな番組ではない。どちらかというと、ときどき映像や中継なども差し込まれるインターネットラジオみたいな感じになりそうだ。正直やってみないとどうなるかわからないことも多いが、小さなラジオ局がこの駅伝大会の情報をできるだけリアルタイムに近い形で伝えようとした結果、こんな配信が出来上がったという目線で見て(聴いて)いただけたらと思う。

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余談だけども自分は30過ぎてから趣味でマラソンを走りはじめた(コロナ禍になってから大会もなく全くサボってしまっているが)。

ただ長い距離を走ることの何が楽しいのか、と聞かれることがある。走り始める前は自分もそう思っていたし、何なら走っているときもなんでこんなキツイことをやってるのかと思うこともある。

それぞれの価値観があるだろうけれども、フルマラソンを走りきったときの景色は、走り切った人にしか見えない、と思っている。それを周りの人がどう思おうと、その景色はその人だけのものだ。

県下一周駅伝も、必ずしも興味がある人ばかりではないだろう。
ただ、この大会に関わる人の中には様々な想いが交錯して様々なドラマが生まれていること、その姿が多くの人の力になり県内津々浦々の地域をほんの一瞬でも沸かせていることは、多くの人に知ってほしいと思っている。

うちが勝手にいろいろアイデアを出して多くの人を巻き込んで始めたことではあるが、このライブ配信の取組も走りきったら何か見えるのではないか、という気がしている。走っている途中でコケたりしたら、まあ笑ってもらえればいい。

いろいろ書いたけれど、いまの環境では特に技術的に難しいことを企画しているわけではない。既存技術や機材の組み合わせで実現できること。こんなのをやってみたら、真似してなにかやる人が出てきたり、次の面白いなにかに繋がったりしないか、と期待している。

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配信は2/13~17の5日間、以下で実施予定。よかったら事前にチャンネル登録しておいていただければ。

第1日
https://youtu.be/7xVZuFi6hbE

第2日
https://youtu.be/F8DE-VgTjv4

第3日
https://youtu.be/ugufZ6Hs3sE

第4日
https://youtu.be/SRNUsFqWVYM

第5日
https://youtu.be/WHwGRrfHRmg



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