持続化給付金を詐取した事件の量刑分布

 存在を忘れかけていた,ちょっと気になる判例シリーズが今復活しました。ほんとに今。

 今回は,よく報じられているけれども意外と裁判例を見たことがない「持続化給付金を詐取した事件」を取り上げます。要するに,要件を満たさないのに持続化給付金の支給の申込みを行い,国から100万円を詐取したという事件です。
 この種の「国を被害者とする詐欺」は,脱税にも通じる行為で,量刑が重いという傾向があります。実際のところはどうなのか,見ていきたいと思います。

神戸地判令和2年12月7日ウエストロー,判例秘書

 被告人を懲役1年6月に処する。
 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
量刑の理由(要約)
・共犯者から誘いを受けて犯行に及んだ

・反省
・被害回復なし
・前科前歴なし
・義父が情状証人

那覇地判令和3年2月24日ウエストロー,判例秘書,裁判所HP

 被告人を懲役1年6月に処する。
 この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
量刑の理由(要約)
・知人も勧誘
・8000万円の借金の返済に充てた(ただし「酌むべき点なし」との評価)

・全額の被害弁償実施
・自首ではないが自ら警察に出頭して自白
・反省
・姉が情状証人
・前科前歴なし

名古屋地一宮支判令和3年3月25日ウエストロー

 被告人を懲役2年6月に処する。
 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
 名古屋地方検察庁一宮支部で保管中の大麻草1袋(令和2年領第417号符号1-1)を没収する。 
量刑の理由(要約)
・3件,うち1件は自身が100万円を得ている。うち2件は他者に行わせて報酬を得ている
・大麻所持が併合罪処理されている

・自白
・反省
・父親が情状証人
・一部被害回復
・大学から退学処分を受けるなど一定の社会的制裁を受けた
・前科前歴なし


 以上の3件が見つかりました。
 最後の件は,3罪あることと,大麻所持も含まれてのことなのでやや重めですが,前2件は概ね量刑は一致しています。
 このことから,持続化給付金を詐取した場合,1罪であれば

懲役1年6月,執行猶予3~4年

という量刑相場のようです。被害弁償の有無で執行猶予期間は変わるようです。
 こうしてみると,覚醒剤の自己使用と同程度の量刑相場です。これを軽いとみるか重いとみるかは各人のご判断にお任せします。

 しかし,生活保護の不正受給は全力で叩くのに,持続化給付金の不正受給を叩く声はほとんど聞かれないのは何でなんでしょうかね。

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