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子供が子供を拾う (短編集 “90sNewYorkFairyTale”より)

要約:短編小説
白人の娘っコがリンチにあった東洋系の娘っコを助ける。けれど大人たちはその友愛をそのままにはしなかった。

リンがレベッカをみつけた。まだリンはその時レベッカの名前を知らなかった。
ただ夕方の通りに、ゴミバケツの隙間に男の子とも女の子ともわからない子供が挟まっていて、それを見たあと、通り過ぎた。たくさん殴られていて顔が膨れていたから性別も判らなかったし、他人なので関わる理由が無かった。おそらくこのあと市の人間が片付けに来るか、生きていれば誰かが(善人か悪人かはわからないが)ピックアップしていくかもしれない。
自分と同じくらいの子供なんだろうな、そう思った。
タバコに火をつける。もう夜になる。やっぱり寒い。家に帰りたい。


早起きをしすぎてしかもタバコが切れてなんだコレ、勝手にタバコが家にストックされる魔法ってないのかよ。まぁ、あの小さなデリのティモシーは好きだ、中年のだぶだぶしたオッサンだけどカウンター越しに余計なことを聞かないしつまらないことをあまり喋らない、なんか機嫌が悪いこともあるけれど買いたいといったら売ってくれる。クレジットカードにサインが無いことでガタガタ言うこともない、白人で、あいつルーツはなんなんだろう、アイリッシュ、ジューイッシュ、シチリー、ロコ、よくわかんない、なんでもいいか。おっさんにしては上出来、いい奴は好き、みんなもそう感じている。なんでこんなことを考えてるんだろう。


リンがゴミバケツの前に立っている。タバコをくわえたまましゃがむ。
「いるの?」
そう言った瞬間にその隙間の奥から音がした。小さな悲鳴と身体を震わせてゴミバケツを鳴らした音。リンがその方向へタバコの煙をかるく吹きつける。また音がした。
「なんもしない。ほかに誰もいない」
ゴミ箱の隙間から泣き声がする。ときおりゲホゲホと言う。
リンはゴミ箱を背に座る。
家には自分のひとりを行かせ、自分のためにジャケットを持ってきてもらった。そのあいだ、ずっとゴミ箱の前で座って待っていたリンのまわりに小銭を落とす女が何人かいた。リンは落とし主の顔を見なかった。なにもしなかった。


夜。通りにひとがいなくなった。ゴミ箱の隙間からしゃがれた声がした。
「外に出たい」

リンが答える。
「うん」

会社から “乗り合いタクシー” で帰宅する、たいてい眠ってしまっているジェインのために、アーネストがいつものジェイン運搬用の椅子を持って通りにたたずんでいた脇を、リンがその黒髪ボサボサ頭のぐちゃぐちゃな顔の子供の両脇をひきずり、アパートのなかに運んでいった。アーネストは何も言わなかった。そのかわり両目を限界まで見開いていた。

“乗り合いタクシー” から降ろされて、ほとんど寝ていたジェインが椅子に乗せられ部屋に戻ってふと目を開けると、ソファのしたで山積みになったリンの古着の下に、なにか子供のようなものがいることを見た。首をかしげた。ジェインはなにも言わなかった。

アーネストは夕飯をテーブルのうえに並べていく。豚肉入りのシチュー、パン、蒸した野菜、ミルクティー。三人分並べ終わる。
アーネストが発言する。「聞いていなかったんだ」
キッチンの換気扇の下、リンが言う「なにが」
「お客さんが来るなんて」
タバコに火をつける「あぁ、そう。お前この子を窓から投げ捨ててみるか?」
アーネストが目をかなり見開いてリンを見る。なにも言えない。
スーツのままソファに寝ているジェインが言う。「お腹すいた」
アーネストがジェインの手を引こうとする。
「持ってきて、ごはんを、ここに」ローテーブルを指差す。
「え?」
「ついでにその子もいっしょに持ってきて」そうジェインが言った。

ジェインはスーツを着たまま、子供の全身をソファに座らせて触り、確かめた。
「スープ飲む?」
その子供がうなずくと、肩を抱き、ジェインがスプーンでシチューの具を除けて掬い、息を吹いてから自分の口で一度たしかめて、子供の口にそっとちかづける。
「飲める? 熱くないから」
スプーンをすこし傾ける。赤黒くなった腫れた唇の奥に、すこし流し込む。口の脇からスープがジェインのスーツとソファにこぼれ落ちる。その子供はなにか呟いている。
ジェインが言う。「飲みなさい」
ジェインがスプーンでもうひとさじシチューを掬う。

二時間経った。子供はソファで横になり眠っている。隣でジェインが眠っている(その子供が眠ったあと、ジェインが自分をアーネストに「銀のロッド二段階伸縮可能」でノックするよう指示した)。

アーネストがカーキ色のごわごわしたウール・ブランケットを持って「ジェインの部屋」から出てきた。2枚。
リンがダイニングでタバコ片手にカフェオレを飲んでいる。「どこにそんなもんあったんだよ」
「クローゼットの奥だ」ジェインと子供にかける。部屋のヒーターの温度を上げた。食器の洗いものを始める。
リンは椅子に身をかがめたままタバコをくわえ、ソファを眺める。リンはどうしてこんな夕方になったのかうまく理解できていない。

洗いものは終わった。
「おい、そろそろ眠るんだろ」
アーネストがうなずく。L字に配されたソファの短辺に座り、テーブルの銀のロッドを取り、リンに差し出す。

キッチンに近いダイニングテーブルに、リンが二人座っている。ふたりともいっしょに、ソファまわりの景色を眺めている。

汚れたスーツのジェインと、酷く殴られたおそらく東洋人のような子供と、料理をつくって後片付けをした黒人の男と。

「あー、もぅッ、遊び行こ」片方のリンが自分の部屋に入り着替えをはじめる。アディダスのトラックジャケットに玉虫色をした化繊のカーゴパンツ、見つからないので揃わない靴下をとりあえず履いてから黒い厚底スニーカーに足を通し、ブカブカなワークジャケットを羽織ってシンディに電話を入れ、勢いよく玄関を出ていく。

残ったほうのリンがタバコをくわえている。火をつけない。ツインテールにしていた髪留めを外し、かきむしってうなだれる。
クソ…Damn
外の通りで消防車のサイレンが通り過ぎる音がした。立ち上がって冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲む。ふりかえり、ソファに眠る三人を見る。


チャイニーズとコリアンの違いがわかるか
それを言ったらジャパニーズはどうなんだ
ほかには?
タイ、あぁ、ベトナム
タイのやつらは知らねえが俺はベトナム野郎は腐るほど見たから一発でわかる、日本には行ったことがねえから知らねえな
日本人はツアーでタイに子供をヤりに行くらしいな
まじか
ひでえな
お前らが言えた口かよ
チャイニーズのほうがうるさかった、コリアンはまだ静かだ、ジャパニーズは黙って笑う首振り人形だな
日本人はだいたい観光客だろ、道案内しかしたことないぜ
最近はこのあたりちょろちょろ住み出した
本当かよ、わざわざこんな地球の裏側まで何しに来るんだ
遊びだろ。だいたい間抜けなカオしてるが趣味は良さそうだ。ガキでもカードで金をいくらでも使うってさ
TOYOTAのトラックをバカスカ作ってテロリストに売り付けてるからか?
お前の妹だって日本製に乗ってるじゃねえか
てめえの車が何発でイクか俺の9mmで耐久テストしてやろうか
お前の銃の安全装置は何時はずれンだよ
おい、そもそもタマは入ってんのか

リンが「ハーィ」と夜の警官たちに笑顔で手を振る。ダイナーの前に2台のパトカー。
ピザをボンネットに乗せて食べながら話しこんでいた三人の白人警官がリンを見る。ひとりが笑って手を振る。離れて黒人の警官がひとり紙コップのコーヒーを飲んでいる。
黒いファーを首に巻いて大袈裟なレトロルックのシンディが「なに手なんて振ってんの、リン、あいつら街の臭いの元諸悪の根源じゃない」
「聞こえるよ」レザージャケットのリディアはタバコの灰を道に捨てる。
リンが「顔が見てみたくて」と言う。
「あんた頭おかしくなった? いくらなんでもアイツらはほんとうに最悪だよ」シンディ。
「だからじゃん。バカな田舎出の暴力警官はたいてい露出狂だもの」
「見てどうすんの、今度は写真撮ってどこかのマフィアにお願いでも撲滅してする気?」
「ちょっとだけ “よくおぼえておきたい” っておもったのよ。“この目に焼きつけたい”。」
「リディア、ちょっと、もうこの子きっと飲んでるのよ」
短髪のリディアが身を屈めて、額にキスをされたリンは笑ってはしゃぐ。
「シンディ、あたしたちだって飲んじゃえばいいんだよ、こんな可愛い子たちと夜にお楽しみできれば大体どうでもよくなるんだ」
シンディが二人の肩を両手で組む「リディアわたしもそのときは絶対混ぜて!」

列を無視してシンディはチェック係に挨拶をする。痩せた白人中年のチェック係はシンディに向かって頷き、涼しい顔のリディアを一瞬睨んだ(リンは視界に入れていない)。巨体の黒人ドアマンが扉を開けると漏れ出していた轟音とライトが正体を現し三人の身体は弾みはじめる。
リン「ねえッ! 今日のDJって誰!?」
シンディ「なんか日本人だってさ!!」


腫れが引く前に食欲は戻った。
朝。
出勤の時間になってアーネストが結局また眠ったジェインを抱えて椅子に乗せ、エレベーターの扉を閉めた。
部屋に残ったリンが名前を聞いた。はじめてレベッカと答えた。誰にやられた、と聞いた。「保安官たちに分署で」。

「ついてなかったね。極上のバカに囲まれた檻のなかで、重ねてゴリラども相手にそのナリで英語を話しただなんて、そりゃ興奮しはじめるよ自分を人間だと思ってるからねあの猿ども保安官たち
「でもやって盗んでない」
「正しいことかどうかなんて考えないんだアイツらは。ソレっぽいのを捕まえるゲームをこの街でしてるだけで、この度はついでに片付けもめんどくさくなってポイ捨てか。ねぇ、この街の治安が良くなってるってこの前ニュースで流れてたんだよ? テレビってマジでバカだね」
「殺してやる。あいつら」
「そりゃそうだ、でもどうして? どうやって?」
「殺したい」
「なんでもいいけど。……ジェインに相談してからにして。ここに迷惑かけられたらたまんないの。キミはジェインに助けられたんだ、勝手なことしないで」
「あんたに助けてもらった」
「気まぐれ」
「あんただよ」
「あたしはスープを運んでもない」
「でも」
リンはレベッカを見なくなった。
レベッカはうなずいた。
「とりあえず、勝手をしないで。ジェインに相談して。わかった?」
レベッカはもう一度うなずき、リンの顔をみた。ソファの前のローテーブルのうえの銀のロッドを指さす。「ねえ、これ」
「魔法の杖だよ。ちょっとオデコをノックしたら、どんなひとでも眠らせちゃうんだ。ここで何度か見てたろ? こんな街で普通にいられるわけない、だからクスリを飲むか魔法ヴードゥーを使うか、なにかしないとまともに眠れもしない。あんたにも何度か使ったよ。さぁもうあたし眠いんだ、こっち来なよ」
リンは灰皿にタバコを潰して、銀のロッドを片手に「リンの部屋」へレベッカを手を引いていく。

窓は無い。小さなスズランを模したランプが、サイドテーブルで灯りを小さく点けている。薄暗い部屋。ぐちゃぐちゃなシーツのかかったクイーンサイズのベッド、日本のアニメーションのポスターが重ねて貼られた壁、クローゼットの隙間からこらえきれず雪崩がおきたように床にも積み重なった洋服と、靴の山と、すべての引き出しがすこしずつ開いている化粧台。

リンがベッドにダイブする。
「ほら」
レベッカがゆっくりリンのそばで横になる。
「魔法をかけたげる、いい?」
レベッカがうなずき、銀のロッド二段階伸縮可能を伸ばして彼女の額をコツンと叩く。彼女はすこしわらった瞬間、眠った。
リンは目の前の傷だらけの顔をみながら、レベッカが寝たことを確認する。おおきくためいきをついて、自分のこめかみをロッドで小突く。

銀のロッドを抱えて眠ったリンの髪留めを、もうひとりのリンが外す。そのまわりで7人のリンがベッドで眠っている。最後のひとりも、身体のちからを抜いて眠った。


ある午後、市の離れた箇所で二件の交通事故が起きた。

泥酔していた若いドライバーが運転したトラックが、直進したパトカーの右側面に突っ込んで横転させた。若いドライバーはそのまま死亡した。

工事現場の足場からペンキ缶がまるごとこぼされてフロントガラスに降りかかり、そのままパトカーは交差点でタクシーの後部に衝突した。

救急車が到着し、被害者計4名を搬送した。全員白人男性だった。

分署の保安官がそれぞれの病院に確認のため到着したが、被害者計4名は到着していないと病院職員から告げられる。
「だって、そんな目立つ被害者だったら、いくらなんでも憶えてますよ」

救急隊に問い合わせるも、そもそも救急車は出動はしたが、被害者たちはすでに現場にいなかったと署員に説明している。

その後、誘拐などの可能性も鑑み捜査は徹底的に実施されたものの、この件で4名はついに行方の判明しないまま今に至る。


夕方、電話が鳴る。目が覚めて、髪を下ろしたままのリンが出る。聞き覚えのない、きつい訛りの男の声だった。どこの国のアクセントだかわからない。「ベッキーに替わってくれ」リンが聞いた言葉はこれだけだった。

リンがレベッカの肩を揺すった。目が覚めたレベッカが出る。受話器から女の声がする。

レベッカが答える。
「はい  見たいです  しません  かまわないから  はい」電話を切った。

部屋のなかが真っ青になっていた。赤い夕焼けも沈んで、わずかに残った陽のひかりの色。

レベッカは「出かける」とリンに言った。
「なに言ってるの、もう暗いよ」
「外に出ていくだけだから」
「意味わかんない、いっしょに行くから」
「必ずひとりで、っていまのひとに言われた。余計なこと話さないって約束したんだ。もう迎えに来るから」
「いい、わたしも行く」
「もう、ありがとう。もういいから。もう充分なんだ」
「うるさいんだよ!」
リンがレベッカの腕を掴んだ。
レベッカはその手を、自分のもう片方の手でおさえる。

レベッカは尋ねる「ねえ。もういっかい名前おしえて」
うつむいているリンに、彼女はちいさいこえで尋ねる「名前」

「リンだよ」
「誰が名付け親なの?」
「知らない」
「あたしも。あたしもなの。知らないんだ。いつのまにかレベッカだった。リン。聞いたけど、忘れるね、ありがとう。また会ったら、もう一度わたしとなかよしになって」
レベッカは部屋を飛び出す。

外は暗い。エレベーターが開き、通りにレベッカが裸足で走り出てくる。
停まっていた黒いセダンの車内から、白く痩せた腕でドアが開かれた。レベッカが乗り込む。

発進したセダンの後ろを追いかけてきたリンがみつめている。車の窓から紙タバコを捨てる、赤い爪の細い指が一瞬見えた。

「   やめろ   なんで?まだ間に合う   わからないの?あれ “フランス女La francese” だよ   あたしが殺される   うるさい走れ   バカほっとけ他人だ   
“だから何だ! 黙れ!”  黙れ   」

リンが走り出す。

後ろの車からパッシングされる。振り返る。
“乗り合いタクシー” のリムジンが、リンの後ろに停まっていた。

前を向き直す。セダンは角を曲がって消えた。

ステアリングを握る黒いタートルネックのリディアは表情を変えず、かわりに巨大なガマガエルみたいなヴェロッキオが助手席から出てくる。

「なに泣いてんだ、靴も履いてねえで」
リンが自分の様子に気づく。顔を伏せて拭う。
「もう寒いな。さて、お前がいるなら女王様をひきとってくれ。まったく毎度毎度のデクの棒は今晩どこに行ってんだ」
後部座席から、眠っているジェインをヴェロッキオが引き出す。
リンがジェインを抱きかかえると、ドアを閉められ、リムジンが去る。

リンがアパートのエレベーターの中まで、抱きかかえたままジェインを引きずっていく。エレベーターのなかの電灯が暗い。リンは腕を伸ばしてエレベーターの扉を閉める。

「リン、おともだちは?」昇っていくエレベーターのなかで尋ねる。
「出かけた」リンは泣く。
「そう。アーネストにね、今晩おいしいご馳走作ってってお願いしたから……たぶん……遠くのマーケットまで……」
ジェインは眠った。
リンはジェインのスーツを涙で汚しながら玄関のなかに引きずり込み、鍵をかけた。


車を降りたヴェロッキオが言う「ふざけるな」
ステアリングに頬杖をつくリディアが言う「まあいいじゃん、もうあたしたち今日のお仕事おわったんだし」
通りで佇むアーネストは、右手にマーケットの特大のカート、左手に普通のカート、計2台を押さえている。双方に紙袋が満載されている。

アーネストが言う「頼む。買いすぎたのはすまない。しかしこれでかなり立派な夕食が、用意できるんだ。むしろ晩餐ともいえる」
ヴェロッキオがため息をつく。「うるせえ。それにしても、このふざけた量は。ジェインの魔法のカードさえ持ってりゃ百貨店ハロッズでゾウが買えそうだな」
リディア「あれ、このまえ売ってなかった?」
アーネストがカートを押さえた両腕がプルプル震え出す。
「あの、どうしてもというなら、よかったら君たちも一緒に、どうかな?」
リディアが言う「ふざけんな」


ジェインのアパート前にゆっくりと停車した、乗客がいない“乗り合いタクシー”の助手席からヴェロッキオが出てくる。後部座席とトランクから、マーケットの紙袋をアパートの前に次々と降ろす。

停車している車の後方から、アーネストが汗だくで走ってきた。
ヴェロッキオが再び定位置に乗り込み、車は発進する。
アーネストはその後ろから車に向かって笑顔で手を振る。

アーネストがエレベーターで何回かに分けて紙袋を運搬し、部屋の玄関前までたどり着く。
ドアノブを回したが鍵がかかっている。
「え?」
何度か試すが開かない。ドアを叩いて大声でふたりを呼びかけるが、応答はない。
「なんで?」

リンは泣き顔をひとに見られるのを嫌がる。
ジェインは眠っている。


最終改訂日 DEC26 2022.
初回公開日 DEC21 2022.


このテキストは
短編集「90sNewYorkFairyTale」の
ひとつです。



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あとがき

この作品を、読んでくださったみなさまに感謝します。
あまつさえ、「スキ」を与えてくださったみなさまに感謝します。

自分のなかで、ここまで書いていてこころが苦しくなった作品は今回が初めてです。いままでひどく「心構えの甘い作品」ばかり書いてきたということだと思います。なにもかも。

ぼくは、わたしたちが生きるこの現実はこのテキストの何十倍もグロテスクだと感じています。2022年の日本でも、もちろん。そうでしょ?

そして、ぼくが今回書いたテキストなどより、さらにもっと厳しいシーンの描写を取材や設定を、きっちり時間をかけて製作されている作家の皆様(文筆家、漫画家問わず)が多数居られると想像すると、いったいいままで自分は、と恥じいる他ありません。プロフェッショナルと、所詮アマチュアなぼくを同列にしなくてもいいですけれど。

しかしそれでも、近い将来にこのテキストはぜんぶ書き直さなきゃあなあ、と一晩経ってから今思っています。このテキストからの足し引きではなく、スクラッチから、もういっぺん。
書いたものを読み直すと、ここはまだこう書けるのでは……

___その質感は? 空気は? 音は? 声の響きは? 心は?___

「どう書くべきか」
「なにを書くべきではないのか。」
自分の生活のなかで「無理せずにどう書いていくべきか」

丁寧さも分別も思慮も配慮も、ぼくはまだまったくまだわかっていません。

どこまでいっても足らないでしょうが、自分の精神が危うくならない程度に(ぼくは人物たちが苦しいシーンは書いていてつらくなるタイプみたいで……)、ほんとうの意味で、噛み締めて・愉しんで、これからもちょっとずつでも書いていけたら、ありがたいとおもっています。

ついでといっちゃなんですが合わせて白状します、お分かりの方もおられると思いますが本テキストは二次創作です。ゲロしなきゃア、わかんねえひとにはまったくわからないですし、時間列も本テキストが80年代でないと辻褄が合いませんが、そ そ そこは銃とケーキと幻覚がテーマのこのシリーズのですねゥーゲフンゲフン。

“彼女” のエピソードを拙くも辿ることで、ひとつの大切な創作体験を得たようにおもいます。やっぱりプロはすごい。

でも、とりあえず、ここまで読んでいただけた読者の方に、まず深い感謝が伝わればと祈ります。ありがとうございました。
欲深く申し上げれば、次回作もお読みいただければ幸甚です。
がんばります。

DEC 22 2022 「かうかう」より。


短編集「90sNewYorkFairyTale」は
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暴力と デザートと 幻覚の 物語