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うつす  #シロクマ文芸部 #詩

詩と暮らすようになりました

じぶんが なにかを作れるようなことなど

ありません

ただ 図書館のかたすみに ひと棚だけある

詩歌の たくさんの前にたち 一冊を手にとります

たとえば夜 じぶんをゆるせなくなりくびに手をかけたときに

その一冊をおもいだし かばんのなかから

とりだすのです  写すのです 

お気にいりの万年筆でも

昼につかったボールペンでも  なんでもいいから

せんせいたちの詩歌をうつすのです

せんせいたちは わたしの知らないことばも使って 詩をうたわれている 

ひらがなばかりの詩でも いろどりゆたかに たくみに

ただそれだけ ことばだけ それだけで

ただ美しい

詩を写すのです 詩を写すのです 詩を写すのです 

ただそれだけのことで

泣けなくなっていた こころに なみだをかんじることができます

うつくしさにふれて そうおもいます

詩をうつすのです

わたしはなにものにもなれない どこかのひとり

けれど 図書館のひと棚から一冊をすっと手にして

いけないことをしそうになったら

詩をうつしています

ねむれなくなったからだが ゆるしはじめます

詩をうつしたことで こころをゆるしはじめて

詩をうつしたことを


わたしは詩と暮らしています

あしたの朝 もう冬だから 凍てつく空気が

呼吸できる

どうか それまでの、このおそろしい夜がおわるまで

夜があけ日がのぼり

そうしたら

目をあけて むねいっぱいに 呼吸をします

いまはまだ夜だから

ただ、詩をうつします  ただ、詩をうつして

わたしは 詩と暮らす、どこにでもいる、ただひとり

ただ このまま、朝をゆめみて

詩をうつしています


  
  
   

初稿掲出 11月26日 午前二時


シロクマ文芸部の「詩と暮らす」というお題に参加させていただきました。ありがとうございました。



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