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#2『檸檬先生』感想

今回ご紹介するのは、珠川こおり(たまがわこおり)先生の『檸檬先生』という作品です。

*以下ネタバレを含みますのでご注意ください*----------------------

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○あらすじ

私立小中一貫校に通う小学三年生の私は、音や数字に色が見えたりする"共感覚"を持ち、その異質さからクラスメイトからは蔑まれていた。ある日、唯一心安らげる場所である音楽室で中学三年生の少女と出会う。檸檬色に映る彼女もまた孤独な共感覚の持ち主であった。

孤独な青春を色付ける、"少年"と"先生"の物語


○装丁について

本作の表紙に大きく描かれたイラストは、なんと

漫画『ブルーピリオド』の作者である  山口つばさ先生

が担当されたものです。

自分は『ブルーピリオド』も以前から大好きな漫画で、山口つばさ先生が装画を担当されたのは知らずにこの本の装丁に惹かれ、いつも通りジャケ買いしました。

「なんか見たことあるような画だな〜」となんとなく感じていた正体はそうゆうことだったんですね。

作中にも登場する檸檬色の瞳が鮮やかに描かれ、さらに瞳の周りには虹色の箔押し。最高です!

小説は文字が多くて想像力が必要だという方もいると思いますが、ここまで登場人物が美しく載っていると、読者の中での"檸檬先生像"が一致して想像しやすくなりますよね。


○感想

本作では"共感覚"という異質な感覚がテーマとなっています。

共感覚

みなさんご存じですか?作中でも語られていますが、共感覚とは、文字に色が付いて見えたり、聴こえた音に匂いが付いているように感じたりするという、簡単に言えば"五感の2つ以上が一緒に感じられる"という能力のことで、実際に存在する能力です。共感覚を持っている人の割合は、10万人に1人とも言われますし、最近の研究では数十人に1人は持っているとも言われています。

共感覚者でもその内容や種類は様々で、1種類の共感覚しか持たない人も居れば、一人で数十種類の共感覚を持つ人もいる様です。

この共感覚について、作中の前半では

"他人と違う、異質で困った能力"

という捉え方になっています。

確かに、想像してみてください。あなたの友人が突然、「この文章、赤色っぽいよね」と言って来たらどうでしょうか。全く悪気無く、「何言ってんの?」と返してしまう人が多いと思います。

ですが、実際にそう感じる力を持つ人は一定数いるのです。

作中ではこの力が原因の一つとなり、主人公の "少年"は小学校で孤立しています。

自分は本作品を読んで思いました。

結局、世間はマイノリティを排除する

それが普通といえばそうですし、だからといってここで「思いやりを持って…」なんて言うつもりはありません。そんなのは所謂何不自由無く過ごしている人間だからこそ口にできると思うからです。

ただ、世の中には様々なマイノリティの個性を持つ人がいます。

その中でも、自分が「それは少し理解できる」と思ったものに関しては、少しずつでも思いを伝えてあげるべきだと思います。全て理解出来なくても良いです。

きっと、そう言った不安や悩みを抱えて孤独を感じている人に対する偏見は、少しの理解や思いを伝えることから減らしていけるものだと思います。

世の中、いつも"批判派"が行動しがちです。

だからこそ、誰かが少しの"肯定派"として行動できると、大きく事が動くこともあるかもしれません。

大切なのは、出来ることから実行することなのです。

ここまで読んでいただいたあなたが、いつかどこかで「あ、自分が今出来ることはこれだな」と思って行動できることを願います。


○最後に

私がこの作品の最後に、少年の言葉を付け加えるとしたらこう付け加えたい。


世界には自分一人だと思っていたのに、あなたは流麗な音とともに私の前に唐突に現れ、知らない色でこのモノクロの世界を色付けた。
先生。あなたを失った今、私はこの膨大な色彩を誰と共にすればよいのか。



Twitterに本のリンクもあるので是非見てみてくださいね。

○著者について

・珠川こおり(タマガワ コオリ)

2002年東京都生まれ。小学校二年生から物語の創作を始める。高校受験で多忙となり一時執筆をやめるも、高校入学を機に執筆を再開する。本作『檸檬先生』で第15回小説現代長編新人賞を受賞。

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