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#5『ℹ︎』感想

今回ご紹介するのは、西加奈子(にしかなこ)先生の『ℹ︎』(アイ)という作品です。

*以下ネタバレを含みますのでご注意ください*----------------------

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西加奈子さんの著書『ℹ︎』

○あらすじ

「この世界にアイは存在しません。」
入学式の翌日、数学教師は言った。
主人公のワイルド曽田アイは1人だけ「え」と声を上げる。その言葉は、アイに衝撃を与え、彼女の胸に居座り続けることになる

1人の少女の人生を描く、"自分の存在"を問う物語

○装丁について


なんと、本作の装丁には

著者の西加奈子さんご自身が描いた作品


が用いられています。

西さん自らが装画を描き、それをブックデザイナーの鈴木成一さんという方が装丁に取り入れる。

西加奈子さんの著書の装丁の多くがこの方法で作られているようです。

西加奈子さんが段ボールに描いた、絵画としての『ℹ︎』

いいですね。

本の装丁ではタイトル文字や帯などがあって中々全体像が見えにくいですが、こうして一つの美術作品として観るこの『ℹ︎』も素晴らしいです。

西さんは初めから装画を描きたかったのではなく、初めは装画のデザインをしてみないかと誘われた感じなのだそう。

小説家としてだけではなく、アーティストとしても活躍するなんて…多才で羨ましいです。


○感想

この作品は、実はずっと読みたいと思っていました。

なんせこのジャケット。
ジャケ買い民としては惹かれるに決まっています。笑

そんな時、先輩の家でこの本を見つけ、
「これ読みたかったんですよ」
と言うと、快く貸していただきました!

読書で繋がりが出来るのってなんだか嬉しいですよね。


『ℹ︎』のテーマは、

「"存在"を問う」

ことだと思います。

主人公のアイ、数学虚数単位のℹ︎、"私"を意味するI、人の想いで生まれる愛。

色んな"あい"を含んだこのタイトルで伝えたいものとは何でしょうか。


私がこの本を読んだのは少し前ですが、
今、こういうときだからこそ、読んで欲しい本でもあります。

作中で語られます。

渦中の人しか苦しみを語ってはいけないなんてことはないと思う。渦中にいなくても、その人たちのことを思って苦しんでいいと思う。その苦しみが広がって、知らなかった誰かが想像する余地になるんだと思う。

最近も北方で世界的な争いの動きがありましたよね。

皆さんどう感じたでしょうか。

その国に行ったことが無くても、自分に何をする力が無くても、

共感し、想いを馳せる

ことは出来ます。

まずは"知る"ことからで良いのです。

最近の世界情勢に詳しくなかった方は、一度調べてみてください。

いつもより、少し近くに争いの悲惨さを感じられるかもしれません。


こんなことを考えていると、なんだか自分はアイがノートに死者数を書き留めていたのを理解出来るような気がします。


また、本作ではもう一つ大きな要素があります。

それは「性」の問題です。

ある時、アイの親友ミナが、自分が女性を好きでいることをアイに告白します。


自分自身は、今は"性の多様性"について理解があると思っています。

ですがそれは、これまでそう言った悩みを抱えた人が周りにいなかったから言えることかもしれません。

仮に、自分の今の友人がその告白をしてきたら。

「差別なんてしない」

そんなことは誰だって言えます。

しかし、相手はこちらの反応や細かい言動一つでそうは思わないのかもしれません。

本当に自分が"理解"してあげられるのか。
自分で知りたいことの一つでもあります。

今後周りにそんな不安や悩みを抱えた方が現れたら、本当の意味での共感は出来なくても、話しを聞いてあげられるくらいではいたいと思う今日この頃です。

ちなみに、「この世界にアイは存在しません」
この言葉は、実際の現場でクラスにその名前の生徒が居たら教師は絶対に口にしない言葉だと思います。
「そこまで気を使う?」と思うかもしれませんが、最近は至る所に地雷があって難しいんですよね。


○最後に
 

最初はもっと軽い話かと思っていましたが、本作の内容は中々重めです。

ただ、こんな状況だからこそ、皆さんに読んで欲しいと思います。

是非。


○著者について

・西加奈子(ニシ カナコ)

1977年、テヘラン生まれ。カイロ・大阪育ち。
2004年、『あおい』でデビュー。
2007年に『通天閣』で織田作之助賞、
2013年に『ふくわらい』で河合隼雄賞受賞。
2015年に『サラバ!』で直木三十五賞受賞。
ほか著書に『さくら』『きいろいゾウ』『円卓』
『漁港の肉子ちゃん』『舞台』『ふる』『まく子』、
絵本に『きいろいゾウ』『めだまとやぎ』『きみはうみ』など多数。

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