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無性愛者とは&アセクとの違い

こんにちは! へんぷくです。

前回のnoteでは、「無性愛」の定義には世界的に幅があることをお伝えしました。おさらいしますと、
・①:異性にも同性にも性的魅力を感じない
・②:異性にも同性にも恋愛的魅力を感じない
・※:異性にも同性にもその他の魅力を感じない
ことを引っくるめて「無性愛」、そのような性質を1つでも持つ人を「無性愛者」と言うのでした。
(※人間的魅力などはここでは考えません、あくまで「ライクではなくラブとして感じる魅力」の範囲内の話です。性的・恋愛的以外にどのような魅力があるとするかは資料によってまちまちなため、このような表記とさせていただきます)

とはいえ、「無性愛(者)」とだけ書いてあったらどの意味で使っていることが多い、という傾向があるのは確かです。
この記事では、無性愛者コミュニティでは無性愛のどの側面が重視されているか、そして意味を見分けるコツや誤解を招かない言い換え方をご紹介したいと思います。
長文になりますが、お付き合いいただけましたら幸いです!

「恋愛的魅力」以前

さて、「①:性的魅力」「②:恋愛的魅力」「※:その他の魅力」と3つを対等に書きましたが、実は「恋愛的魅力romantic attraction」というのは意外に新しい概念です。「無性愛」「無性愛者」は2000年代にasexualの訳語として作られましたが、当時の英語圏では「性的魅力sexual attraction」以外の魅力はあまり認識されていませんでした。①②※の横並びではなく、「①:性的魅力を感じるかどうか」だけで指向が判断されていたわけです。

この時期の定義を採用するなら、
・「異性にも同性にも指向が向かない」ことを「asexual無性愛
と呼ぶことになります。
すでに主流から外れている定義ですが、日本では今でも「広義の無性愛」と言えばこの意味で通じます。

日本定義

一方で日本には「恋愛感情」の概念を重視する文化があり、英語圏では区別されずにasexualとされる人に「恋愛感情はある人」と「恋愛感情もない人」がいることが早くから指摘されていました。そしてこの2種類を分けて考えるほうが日本人の感覚になじんだのでしょうか、日本では次第に
・「恋愛感情はあるが性的魅力は感じない」ことを「非性愛
・「恋愛感情がなく性的魅力も感じない」ことを「(狭義の)無性愛
と呼び分けるようになりました。
「無性愛」と対比して「非性愛」か「広義の無性愛」が出てくる文脈でしたら、この意味で使われていると考えてよいでしょう。
なおこの定義を採用していても「恋愛感情がある人は無性愛者ではない」と思っている人は少なく、非性愛者も前述の「広義の無性愛者」には含まれるとの認識が一般的です。

日本特有の概念「恋愛感情」を基準とする定義なので厳密には英訳できないのですが、ややこしいことにこの意味の「無性愛」には引き続きasexual(読みは後述)、「非性愛」にはnonsexualノンセクシュアルノンセクシャルノンセク)という英語風の別名が存在します。

欧米定義

日本から遅れること数年、英語圏でもようやく「恋をする・しない」の違いが認識されはじめます。
それまでの英語圏では、恋は感情というより「他人と交際したいかどうか」のことだと理解されていたため、意識的な選択であって指向ではないという理屈が優勢でした。そんな中で恋を説明するために作られた言葉が「恋愛的魅力」です。

「性的魅力を感じる性別が指向であるのと同じように、恋愛的魅力を感じる性別も指向である」という視点の発明により、従来のasexualは
・「性的にasexual」
・「恋愛的にasexual」
などへ細分化されるようになりました。
そして今の英語圏では「性的にasexual」、すなわち
・「異性にも同性にも性的魅力を感じない」ことを「asexual
と略すことが定着しています。

性的SEXUAL」と「性別SEXUAL」をかけた英語ならではの略称なので厳密には日本語訳できないのですが(むりやり訳せば「無性性愛」)、これまたややこしいことにこの意味のasexualを引き続き無性愛と訳す人もいます。

またこの定義は英語圏の主流ではあるものの、全ての英語話者が採用しているわけではありません。最近の当事者アンケートでも、異性にも同性にも恋愛的魅力を感じていないことを何と自認しているかという質問におよそ1/3が「asexual」などsexual系の単語を回答しています(Aro Census 2020)。

まとめ

各用語の意味を一言でまとめなければならないとしたら、
・「異性にも同性にも指向のどれかが向かない」ことを「広義の無性愛
・「異性にも同性にも恋愛感情と性的魅力を感じない」ことを「(狭義の)無性愛
・「異性にも同性にも性的魅力を感じない」ことを「asexual
と説明するのが無難です(ただし「無性愛」の意味でasexual・「asexual」の意味で無性愛を使うこともしばしば見られます)。

しかし「異性愛」「同性愛」「両性愛」を厳密に定義できないのと同様に、「無性愛」という言葉にも複数の意味合いが重なりあっています。どのニュアンスを捉えて「無性愛」「asexual」と表現しているのかは、定義により文脈によりさまざまです。どの用法がどの程度正しいかという基準は誰にも示せませんし、その必要もないでしょう。ご自分にとってより適切な表現を選べばよく、また他人に押しつけることも慎みたいですね。

asexualの発音

性的用語としてのasexualは歴史が浅く、発音が確定していません。「性器のない」などを意味する生物学用語としては「eisékʃuəl」、カタカナで書くと「エイセクシュアル」が近いかもしれません。

じゃあasexualをカタカナで表記するときもそちらに寄せたほうがいいのでは……と気になるかもしれませんが、英語圏ではあまり使われない発音が日本語として定着するのはよくあることです。

たとえば、homoは英語で「ホモ」ではなく「ホーモ」です。
grayは「グレー」ではなく「グレイ」です。
romanticは「ロマンティック」ではなく「ロウマンティク」です。
labelは「ラベル」ではなく「レイベル」です。

カタカナ英語が英語として通じないのはよくあることだし、そもそも本場の発音も意味もブレがあるのだから、合わせようと神経質になる必要はないんじゃないかな? というのが、発音議論に対する個人的なスタンスです。

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