【ショートショート】染まるふたり(300字)
「地平線に夕日が沈むのが見たい。そういう場所に住みたいなぁ」
君がいつものワガママを言う。
僕らは、この街で一番夕日がよく見える歩道橋の真ん中にいる。
「そうだね」
僕はいつもの返事をする。
そうしているうちに夕日はビルの谷間に沈んでいった。
「また沈むとこ、最後まで見られなかったね」
君が言う。
「そうだね」
僕が答える。
手をつないで歩道橋の階段を一歩一歩と降りていく。
君は気付いているだろうか。
夕日がどこに沈んでも、ぼくにとっては君とのこんな時間がずっとずっと続くことが唯一の希望だってことを。
君も僕も、世界のすべてを赤く染めて、今日も夕日は沈んでいった。
夕日よ。どうかまた明日も、君と僕とを真っ赤に染めてくれ。
イラスト:フリー素材模写
END
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