※個人の感想です(H)

ブンゲイファイトクラブHグループの感想

量産型魔法少女
個人的にこういう話は好物。『だれからも愛される魔法少女のちから』というのがこの作品の核心ではないかと思った。『あきらめとして、彼女はわたしを養い続ける』という辺りなど、しおちゃんはお母さんに嫉妬しているが、もう結婚などは諦めているというように思える。そして主人公のわたしはそんなお母さんとしおちゃんを見て、誰かに愛されないといけないと思っており、それがしおちゃんの求める『ほんとうの魔法のちから』なのではないだろうか。それがどれだけかなしく、みじめな道のりだったとしても、だ。私は主人公の作る音楽が、ゆくゆくは誰からも愛されるような魔法になればいいなと思った。

PADS
タイトルは猫の肉球のことだろう。面白い発想だと思ったけど、隕石落下に人間は何もしないのかという疑問も持った。猫との思い出がとてもリアルで、猫を飼った人にしか分からないことだなと、温かい気持ちになった。

voice(s)
現実で進行していることと、頭の中で想起される会話(声)が同列に書かれていて、とても前衛的な作品だと思う。一人称主人公の台詞は地の文で、他の人の台詞は実際の声と頭の中の声の区別がないのに、現実に進行していることと、過去の出来事がちゃんと分かるのは、すごい技術力だと思った。最後のたたみかけるように押し寄せる声の波は、頭の中に木霊する、映画やドラマの演出のようにイメージできて、断片的な声の連続なのに、聴覚だけでなく視覚的な映像まで想像できた。育児という社会的な問題提起が含まれるテーマに、この演出はとてもマッチしていて、鋭く刺さるものを感じた。

ワイルドピッチ
お互いに意識し合っていて、表に出さずにやり過ごそうとするけれど、うまくできないみたいな青春の感じがとてもいい。三人称の視点がふわふわと教室の中と窓の外を行き来するのも、キャッチボールになっているように感じて面白い。個人的には野ぶたは世代なので懐かしくて、あの頃の教室を想起させた。

盗まれた碑文
歴史ファンタジーのミステリーみたいな雰囲気が魅力的。世界の表裏という要素をメビウスの輪に例えて語られていて、私の読解力の問題と思うが、あまり納得感はなかった。『コの字に回り込むように掘り、石灰石の壁を削っていく』というところは、はじめ部屋の壁を削っているのかと思ったが、石碑を削らないと意味がなさそうで、石灰石とは石碑の大理石部分のことだろうかと思い、しかしそうすると石灰石を削って大理石が出てくるという表現になる。状況が少し分かりにくく感じた。王によって盗まれた(と感じた?)碑文が自ら逃げたのだ、ということだと思ったが、神聖文字の力に対する伏線があればもっと納得感があったような気がする。主人公のヨアートに対して王の名前が月の火というのが気になったので、ヨアートで調べるとヒスイ空というマヤ・キリグア王朝の王様の名前が出てきた。ヒスイ、火水、曜日の並びとみて、月火と私は妄想していたが、この辺りがモデルなのだろうか。


 やはりvoice(s)が強いように思うが、私の好みでいうなら量産型魔法少女かな、悩ましい。今日で40作品の感想をなんとか書き終えた。感想を書くことでより深く楽しく読めたし、物語の構成や設定の発想力など、学ぶことも多かったと思う。そして私は読むのが遅い。

最後まで読んで下さって、ありがとうございます。 サポートは必要ございません。 また、記事を読んで貰えたら嬉しいです!