速読とは。~クラリスかモンターグ夫人か~
最近「読書術」とか「速読法」とか「暗記法」って題名の自己啓発本やビジネス書が平積みされている光景を目にする事が増えてきていませんか?
私の行き着けの本屋さんはみんなそうなっています。
正直思ってしまいます。「なんだかなぁ」と
最近のビジネス書における読書の位置付けは
「急速に変化する時代に対応し、成功をおさめるための情報入手ツール」
というのが一般的なようです。
AIや5Gインフラの登場で世界は急速に変わっているのは事実で、世間の常識や旧態依然とした価値観がラディカルなまでに破壊されていく今、出来うる限り
「誰よりも速く」「誰よりも大量に」情報と知識を持つべきである。
そしてそれ故に本を速く読み、読んだことを正確かつたくさん覚えておけるのは重要である。
だいたいどの本にも同じような前置きがが書かれています。
今日の自己啓発本やビジネス書に散見されるようになったこの前置きは確かに事実なのでしょうが、それでも私はこうした意見を悲しく思ってしまいます。
本、というのは幸福や絶望、失敗と成功、心の中の闇と光に家族の形、恋愛模様、青春がもたらす葛藤に、年老いたものの孤独の目線と若さゆえのもどかしさ。
そうした太古の昔から変わらぬ「人生の本質」というテーマを、物語におとしこんで、情感たっぷりに私達に伝えてくれるものじゃありませんか。
読者側は、そうした物語に潜むテーマを読み取ろうと苦心したり、
作者が普遍的なテーマを描くあたってどのような工夫を凝らしたのか…例えば描かれているのは高校生のどこにでもあるような恋愛模様なのに心が入れ替わる話になってたりとか、
家族愛というテーマを描いているのに物語自体は壮大な宇宙戦争だったりとか…そういう作者の創意工夫を楽しんだり
日常の何気ない描写を、自分には思い付かないような言葉と想像を絶する文才を持って表現した、色鮮やかな文章を味わったり…
本というのは本来、高速で一気に読んで情報を仕入れて自分を社会的に高めたらそれで終わり、なんてものじゃないと思うのです。
映像でも声でもない。単なる文字情報から人間の心と、壮大な世界と、人生の理を解くテーマを伝え、描き出そうとする作者の情熱を感じながらじっくりと描かれる世界に没入し、時に登場人物に自分を重ねたりしながら楽しむものだと思うのです。
私は高速に大量に読みまくって知恵をつけるためという本の使い方を別段、否定はしません。本をどのように扱い活かすかは本を持つ人それぞれの自由ですし、
人間は千差万別。忙しくて本を読む時間がとれないから速読をするという方もいらっしゃるでしょうし、単に速読方が自分にあっていたという方もいらっしゃるでしょうから
それ自体は決して悪いものとは思いません。ただし、
速読や大量に読むことが、まるで絶対的に正しく、成功するためにみんなが絶対やるべき事であり、
子供の内から訓練すべきであり、本とは教養をつけ競争社会で成功するためのツールであるかのように
大々的に訴える今のムーブメントは悪いものだと断言出来ます。
「勝ち組はこうしてる」とか「年収○○の人はこう読んでる」とか
「あの有名人は年間1000冊読んでる」とかセンセーショナルなキャッチコピーで煽りまくって、読書術を身につけるべきだと強く主張してますよね。
そうしなければ今の時代について行けないとも。
いや知らんがな。
なんでもかんでも社会で成功するためのツール扱い、生活の細部に至るまで全部有効活用しようとしてくる自己啓発の本棚はとうとう私たちの社会から、
「本をゆっくり楽しむ時間」さえ奪おうとしています。
でもそうじゃないと思うのです。
本ってもっと浸って揺蕩って読み取って、自分の心の中で線香花火のように弾ける言葉の調べと
それを生み出す作者の文才に舌鼓を打つものでしょう?
なんならただ読んで、あー面白かった って思うだけでも良いんです。
本との向き合い方は人それぞれで良いのです
なのに最近はやれ速く読めだのたくさん読めだのこう暗記しろだのうんたらかんたらだの…
みんなこうすべき!こうなるべき!ってキャッチーなワードで特定の価値観だけをさも最善のやり方のように推し進めてくる今の流れは、私たちから自由を奪うもののように思えてなりません。
それと、見も蓋もないお話なのですが、実は私も救いを求めて、その昔気が狂ったように大量の自己啓発やビジネス書を読んでいたことが在りまして
500冊くらい読んだあとに気づいたのですがどの本も似たり寄ったりのことしか書いていないのですよ。
理系の学生が既存の実験を使用サンプルだけかえてさも新規のアイデアのように語るのよりひどいレベルです。
もっと言うと人生をよりよく生きる方法について書いた本とか、人間の本質に迫る!なんて売り文句の本に書いてあることなんて
マルクス・アウレリウスが1900年以上前に書いた「自省録」や、孔子の「論語」に書いてあることの焼き増しですからね。
そういう本の著者に限って「本を年間1000冊読む」だの
「速読術の教室を運営」だの紹介されてるのですが
あなた一体今まで何を読んできたんだスカポンタンって話ですよべらぼうめ
もちろん論語や、自省録で語られていることを
現代のトラブルに置き換えて今を生きる人にわかりやすく伝えるという意味では啓発本も無駄じゃないのですが
最近はなんだか特定の価値観や、成功する人生こそ素晴らしいみたいな「考えの押し付け」みたいになってるので無駄です、読んでも息苦しいだけです。
という訳で親愛なる皆様。
本くらい好きに読もうぜ~~!!!!ひゃっほう~~~!!!
以上です。
タイトルの「クラリスとモンターグ夫人」ですが、
レイブラッド ベリ著作の「華氏451度」の登場人物です。
高速化する時代への皮肉になっています。
面白いので是非✨ べるもっとでした。
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