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『チュウリップの幻術』(宮沢賢治)

「ええ、全く立派です。赤い花は風で動いている時よりもじっとしている時のほうがいいようですね。」
「そうです。そうです。そして一寸あいつをごらんなさい。ね。そら、その黄いろの隣りのあいつです。」
「あの小さな白いのですか。」
「そうです、あれは此処では一番大切なのです。まあしばらくじっと見詰めてごらんなさい。どうです、形のいいことは一等でしょう。」
 洋傘直しはしばらくその花に見入ります。そしてだまってしまいます。
(本文より)

2月の上旬にチューリップの鉢を買ってきました。花屋にいるときは緑の蕾ばかりだったのが、翌日の朝から少しづつ、花びらを開いていきました。3日も経つと、上の画像のようにふっくらと開いていき、このままではすぐ散ってしまうのではないかと心配になりましたが、夕方になるとまたシュッと閉じ、翌朝にまた開く、ということを繰り替えしています。そうして白い部分と赤色だった部分に分かれていた花がだんだんと混じり合い、美しいピンク色へ。2月も終わりになった今でも咲き誇っていて、美しくあり続ける姿にチューリップの強い意志のようなものを感じます。

この物語の登場人物は主に二人で、農園に訪れた洋傘直し(ここではハサミ研ぎを受け持ちました)と農園の園丁(えんてい/=庭師)です。園丁の育てた小さな白いチュウリップから涌きあがる幻想の光の酒に二人が酩酊してしまうというというあらすじで、昔読んだ時には「・・・ファンタジー?」とあまりピンときませんでした。今回我が家にきたチューリップの動向を眺めていると、光に反応して開き、あるいは閉じている動きに、「人間をも酔わせてしまうチューリップ」という設定が見事だと思わず頷いた次第です。

春は、そこかしこに花々の幻想が溢れています。桜しかり、野の花すらも小さな可憐な姿で人間たちにうきうきする気持ちを沸き起こらせることでしょう。花々たちの幻術は、ひとつひとつが小さいながらも、この春の間に身近に見つけることができるかもしれませんね。

3月の賢治コースは『チュウリップの幻術』です。
※表記は「チューリップ」ではなく「チュウリップ」となっています。
ミキハウス絵本にはまだないので、偕成社の絵本を携えてお待ちしています。

3月のオンラインレッスン スケジュール
※3月の豊洲教室でも扱う予定です。

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