見出し画像

『猫の事務所』(宮沢賢治)

*2023年2月朗読教室テキスト ビギナー②
*著者 宮沢賢治

ですからかま猫はほかの猫には嫌はれます。けれどもこの事務所では、何せ事務長が黒猫なもんですから、このかま猫も、あたり前ならいくら勉強ができても、とても書記なんかになれない筈のを、四十人の中からえらびだされたのです。(中略)
かま猫は、何とかみんなによく思はれようといろいろ工夫をしましたが、どうもかへつていけませんでした。

「かま猫」とは、三毛猫やトラ猫みたいに猫の種を表す言葉ではありません。夜、かまどの中に入って眠る癖があるために、いつも身体が煤で真っ黒になっていて、なんだか狸のような猫のことをみんながそう呼ぶのです。風貌は狸でも、仕事がとてもよくできたので書記に選ばれ、気持ちの良くみんなの役に立つお仕事をしていました。
けれどもそんな気持ちのよい日々は長く続きません。かま猫を妬んだ他の猫たちが嫌がらせをしてきます。大好きな仕事を取り上げられ、みんな(自分をとりなしてくれた事務長にも)に口を聞いてもらえなくなったかま猫は職場でしくしく泣いてしまいます。

この物語が最後に迎えた結末は、「(猫たちより大きな存在と思われる)獅子の命令により第六事務所が廃止になってしまう」でした。物語の登場人物たちに自分たちで解決する道を与えず、皆が欲しがる場所を丸ごと奪ったのです。昔話のコブ取り爺さんでは、良いお爺さんは宝物を手にし、悪いお爺さんだけが痛い目にあう結末ですが、『猫の事務所』ではかま猫も自分の大切な場所を失うことになります。教訓物語のようにも見えたその結末は、もしかすると「解決する術はない」ということを示唆しているようにも思えます。

2023年2月のテキストは、宮沢賢治の作品の中では珍しく、ちょっと現実にありそうな物語を選びました。朗読だけではなく、物語から読み取るあれやこれやも一緒にお話できたらと思います。

2月のスケジュール

#朗読 #朗読教室ウツクシキ
#宮沢賢治 #猫の事務所


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?