【#10】短い話は読む速度が遅い僕にもとても優しい【短編紹介】
十本目だ。
実際のところは番外編もあるわけで、十一本なんだけれども、ナンバリングは#10だから、十本目だ。
十本も書いていると結構な時期が過ぎるわけで、その間に、YouTubeの動画投稿は止まって、パソコンは新調して、喋らなくなるVが増えて、V文化への興味がどんどんと下がっていく。最近はもうすっかりVの配信も見なくなってしまって、活動場所がnoteとTwitterだけになっちまった。
そんなわけで改めて自己紹介。
ラノベ作家の右腕が千切れてそこから生えてきた、人類の神秘系Vtuber、うつぶせくんだよ~。
まあ。そんなこんなでnoteもとうとう十本に到達したわけで、今回はいつもと違う感じで紹介しようかなーーーーーー!!!! って思ったわけで、今回は『短編』を紹介しようかな。
いや、短編を「個々」に紹介したことって、そういえばあんまりなかったなって思ってな。今回はそんな感じで!
宇宙サメ戦争【田中啓文】(NOVA 2019年秋号 収録)
僕のデザイン元がサメであることをすっかり忘れている人も多いだろう。
そんな理由でまず紹介するのは田中啓文の宇宙サメ戦争だ。
人類は陸上の覇者であり、サメは海中の覇者だ。人間とサメが地球の、そして宇宙の覇者として決着をつけねばならぬ日が来るのは当然のことだろう。(本文:P119)
だそうだ。
人類とジンルイミナゴロシ人(腕が五十本あり、ひとつひとつにビームライフル、破壊銃、マシンガン、拳銃、チェンソーなどの武器を持っている。タコみたいな頭部には『悲願・人類皆殺し』という模様が生まれつき自然に浮き出ている)による宇宙戦争は泥沼化していた。銀河平和条約に基づき、使用が禁止されていた兵器の使用が認められ、強制的な停戦が決定しても、地球にそれを通知することができない。
困った人類はブラックホールを用いた移動により、通知を届けようと目論んだのだが、結果として時空の乱れによって人類の祖となる哺乳類が”黒い板”によって知性を得るところまで戻ってしまった。哺乳類はその場にたまたまいたメガロドンに食われてしまい、モノリスはメガロドンに知性を与える。こうして「人間が覇者となった世界」と「サメが覇者となった世界」が誕生し、どちらが正史となるかの戦争が始まったんだ。
ジンルイミナゴロシ人の存在価値? 出オチだよ。そんな感じで、田中啓文らしい駄洒落がひたすら散りばめられた本作は、モノリスとか出ているところから分かる通り、2001のパロと言ってもいいだろう。いいのか? いや、よく分かんねえけど……。僕はやっぱり、最初は人類とジンルイミナゴロシ人が最初は仲良くやっていて、しかしそれは見せかけで、ジンルイミナゴロシ人は人類を皆殺しにするつもりで、それに気づいた人類が「まさかジンルイミナゴロシ人が人類を皆殺しにするつもりだったとは……」と悲しむ様子が一番好きかな。『悲願・人類皆殺し』って頭にあるだろ!
オラン・ペンデクの復讐【香山滋】(海鰻荘奇談 収録)
ゴジラ原作者の短編だ。ゴジラって原作があったんだな。そりゃそうか。いかなる作品にも創作者がいるわけだもんな。
オラン・ペンデクっていうのは、インドネシアのスマトラ島に住んでいるとされる未確認生物――いわゆる、UMAだ。二足歩行するオランウータンみたいな見た目をしているとされている。
本作は、そのオラン・ペンデクを捕獲した。という記者会見から始まる。
この短編のオラン・ペンデクは有毛ではなく、頭部に薄い灰色の毛が生えてて、尻尾はなく、額には紅バラ型の赤あざがあり、骨格は人間に似てて、もしかしたら人間かも知んねえなぁ。みたいな扱いをされている。
オラン・ペンデクを捕獲したらしい博士は、明らかに人だなってことで「第四の人類『ホモ・ピテオクス』」という名をつけることにした。しかし、捕獲していたオラン・ペンデクは凶暴性を発揮し、助手を爪で粉砕(ぶっ殺)して逃げだしてしまった。おいおいおい待ってくれと後を追いかけた博士は「第五の人類『オラン・ペッテ』」を見つけてしまったのだ!
欲張りだな!
そんなわけでオランウータンみたいな新人類を見つけたら今度は口腔内に鰓がある新人類を見つけちゃった博士の会見。突如ミイラ化し、怪死を遂げた博士。そこから明かされる事実とは! と言った伝奇的ミステリとなっているぞ
首なし【小林恭三】(百舌魔先生のアトリエ 収録)
俺、本当にその父親の息子か? と疑問に思った息子に対し、バカおっしゃい! あなたはこの父の子ですよ。ほら見てごらん。そっくりでしょ! とレジン漬けにされた生首を出して説得してくる母親の回想から始まる。なにしてんのこの母ちゃん……。
世の父親を失った子供のたいていはレジン漬けの本物の顔など持っておらず、ただ薄汚れた写真のみを便りに父親の顔を覚えているのに比べたら、あなたは相当に幸せなのですよ。(本編:P52)
嫌だよ。家に死んだ親父の生首が保存されてる方が。
さて、どうして親父はレジン漬けになってしまったのか。親父は金持ちの母ちゃんの家で働く書生の身分だった。ある日、家が火事になり、安全なところに逃げだそうとした二人だったが、天窓が割れ、襲いかかってきたのだ。結果としては二人とも助かった。しかし親父は、顎の先と右耳の上あたりを結ぶ線から上が、すっぱりと無くなっていたんだ。あっさりと言ってしまうと、『首から上がなくなった』。そして、その状態で、生きていたんだ。奇跡的に頸動脈がすぐ焦げて止血され、脳幹は残ってて、右耳の三半規管が残っているから立って歩いて呼吸することができるのだ。喉頭蓋も残ってるから、首の穴からご飯や水分を流し込むこともできるぞ。良かったな親父! 死んだ方が幸せなやつだよ……。
ちなみに息子は親父が首なしになってからの子供だ。産めるの!?
三丁目が戦争です【筒井康隆】(筒井康隆全童話・三丁目が戦争です 収録)
三丁目には団地と住宅街があり、公園がある。住宅街の女の子たちは強くて、公園でいつも偉そうにしている。それに怒った団地の男の子たちは反旗を翻そうとしたら引っかかれてしまって、そのひっかき傷に怒ったお母さんが住宅街の女の子を公園から追い出し、それに怒った住宅街のお母さんが団地は貧乏だと罵り父親は怒りお母さんたちは子供たちに命令して住宅街にかんしゃく玉を投げつけ……とまあ、皆でヒートアップして最終的に包丁やライフルや爆弾が飛び交う大戦争へと発展していく。筒井康隆のナンセンスドタバタコメディだ。もちろん血も出るし腕も千切れるし人は死ぬし目玉が宙を舞うぞ!
煙突館の実験的殺人【周木律】(謎の館へようこそ 白 収録)
新本格30周年記念で書かれたアンソロジーで、テーマは館。
館ミステリと言えば見取り図でどれだけ楽しませてくれるかを勝負するようなジャンルだと思っている。
そういう点で言うと、周木律の『煙突館の実験的殺人』は館ミステリらしいバカミスと言えるだろう。
政府所管の実験施設、通称『煙突館』に閉じ込められた八人の男女。この中では異端分子を解析するための人間行動実験プログラムが行われていた。次々と発生する「事件」を解決することにより、この館から脱出できると言われた男女は、目測で数十メートルある煙突のてっぺんでゆらゆらと揺れている首つり死体、談話室で眠ってしまった間に皆の前で窒息死した死体、ハッチで閉じられた部屋の中で窒息している死体の謎を解く。見取り図によって解明されるトリックはかなり大味なトリックで僕はメチャクチャ好きなやつだ。
東京ねこさんぽ【野崎まど】(野崎まど劇場 笑 収録)
これは非常に紹介が難しいやつ。
理由としては単純明快で、そもそも文字がほとんどないから。文章よりも写真の方が多い小説ってなんだろうね。猫写真家のおじさんが必死になって猫を撮ろうとするんだけど、猫を撮るのがめちゃくちゃヘタなので「気のせいかな?」「いたんですよここに」「ここに猫がいたという気配は通じると思います」「椿が綺麗ですね」って、どんどん心が折れていく様子が描かれている。あとまったく猫が写っていない写真が並んでいる。確かに猫はいそうだけど確実に写っていない。かわいそうにね。
日本人じゃねえなら【平山夢明】(暗くて静かでロックな娘 収録)
救いのない話って好き? 僕はぶっちゃけ嫌い……。物語の中でぐらい幸せでいてほしい……。
それでもあえて、救いのない話を紹介するとするならばこれかな。
なにかと「お前、日本人か?」と尋ねられる世界で、ギャンブルをしながらその日暮らしをしている、多分便所の床にへばりついている千円を必死に引き剥がしそうな平山夢明小説でよく見るタイプの主人公は、ある日、喧嘩をしてボロボロになったところをテツオとチハルという子供たちに助けられ、ケガが治るまで、一緒に暮らすようになるんだ。ちなみにテツオとチハルは親に棄てられていて、日本人じゃあない。
なによりまずいのは俺はふたりといるのがつくづく楽しくなっていた。ずっと居たくなっていたんだな。そんなのは叶うはずのない望みであって、俺のような薄莫迦の脳味噌でも、どうかしてるぞと告げていた。俺は自分のなかで日に日に大きくなる〈温かいなにか〉が怖ろしかった。(文庫版:P35)
そんな感じにズルズルと子供たちとの生活を続けていたんだが、酒をたらふく飲んでうたた寝をしていた主人公の背中を叩く誰かの手により、その生活は終わりを告げる。
嫌なやつが嫌な目にあう。というよりは、ダメな人間が、ダメだから悲しい目にあう。みたいなそんな話で、読み終わったとき、すごく虚しくなったことを覚えてる。
最後に【ニール・ゲイマン】(壊れやすいもの 収録)
短編。と名乗るのだから、短ければ短いほど短編は短編らしくなる。
そういう言い回しで言うと、ニールゲイマンの「最後に」は1ページの短編だ。聖書を締めくくるように、神が人類に世界を与える話だ。
服を着ていることに気づいた男女が服を脱いで善悪の区別を忘れていき、蛇が四本の強靱な脚で堂々と庭から去っていき、姿は想像するにめちゃくちゃ面白い。
そんなわけで以上七作。
神がサメに世界を与える話で始まり、神が人類に世界を与える話で終わる。
短編ってやつは、短くて、文庫本でも四個五個詰め込めるからお得感があっていいよな。皆も色んな短編読もうな! じゃ!
でも短編って再録も結構多くて、「一個読んだことあるけど三つ読んだことないな……」と思ったときの買うかどうか迷う感はどうにかしてほしいなって思うよ(文句が多い!!)
ここから先は投げ銭用。課金をしたところで読めるのは「お金ありがと!」とちょっとした一言だけだ。課金をするだけ損なのでそれよりも小説や漫画を買って読め。
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