【#5】5分間だけ時間をくれ。そしたらSFがお前を左ジャブで細かく殴り続けるから【5分間SF】
最近、長編シリーズを読むことができなくなっている。
新刊で一巻目から読んでる本だったら新刊が出るたびに買って読んでるから、必ずしもそういうわけではないんだが――いや待てよ、裏世界ピクニックの三巻発売週に買ってまだ読んでねえな――必ずしも。そういうわけでも。ないんだが。長編シリーズを読むテンションが落ちている。
面白そうだなと思っても、最新刊が14巻だったりすると「来世(同じ作者の新シリーズ)でまた会おうぜ!」って気持ちになる。そういう長編シリーズを抱えてる人は中々新シリーズ出さないので大体忘れる。
もちろんこう言うつもりは毛頭ないんだけど『めだかボックス』と『症年症女』全巻セット、どっちが取りやすいかと言えば症年症女だと思う。そして最後の展開に謎に『好き』を感じてもらえば幸いだ。すげえ、裏社会あるぜ! みたいなことずっとやってきたのにそんなことは大人の事情で子供である僕らには関係ねえぜ! で突っ切っちゃった! ただの西尾だ! 好き!(西尾維新病に感染している本体から千切れた右腕なので同じく感染している)
……三巻のレビュー見たら思いのほか酷評が多くて悲しくなってしまった。僕は毎月連載楽しみにしてたぐらい好きです!(憤慨) 最後のオチもなんだかんだで好きです! というかかなり好きです! 世界がどう回転していて社会がどう動いているのかなんて結局僕らには関係がなくて、僕らは目の前の事象に目を向けて手を動かすことで手一杯なんです! 読んで!(リンクを貼る用意をする)
いや、違う違う。症年症女の話をしたいわけじゃあない。したいけど。今回紹介したい本は違うんだ。
つまり僕は最近、長編を読むことができなくなっていて、単巻ものが好きになっているという話だ。
さらに言えば単巻ものよりも短編集めいたものの方が好きだ。短編も、長いものよりも短いものが良い。ショートショートと言うんだっけか? 最近は五分で読み終われることをタイトルから醸しだしてる本が大人気だ。みんな僕と同じなのかな? 本を読む時間が殆どないんだよ。って諭されたら悲しくて泣いちゃうから諭さないでね。
そんなわけで今回紹介する本は五分で読めちゃう本だ。
5分間SF。作者は草上仁さん。
今回が初めましてな作者さんだ。読み終えたあと、作者について調べてみたら『異形コレクションの常連寄稿者』と出て「また出たな! 異形コレクション!!」って身構えたりもしたな(気に入った作者について調べると大体出てくるワードなんだ、異形コレクション)。
名は体を表すというべきか。この小説(短編集)に収録されている短編はどれもこれも短い。大体15ページもない。「おや、この短編は少し長い気がするなあ」って思ったのが17ページだったりした。17ページと言えばみんな大好き清涼院流水の『カー二バル・イヴ』だと氷姫宮幽弥が「犯罪オリンピックというものが開催されるなんていう噂がある。恐ろしくリアリティのない冗談みたいな言葉だが、どこか惹きよせられる感じがあるなあ」とか思っている頃合いである。そんな短さだから、全十六編もある大ボリュームにも関わらず、本はとても薄い。どれぐらい薄いかと言うとこれぐらい薄い。
なんと自立できないのである!
これには短編を欲している僕の心も満面の笑みを浮かべるしかない。
恐ろしく短い短編。
詰め込めれる情報もそこまで多くない。
つまり一発勝負となることが多い。世界が二転三転して日常を過ごして物語とは関係ない脱線をして「ははーん、きみ。続刊前提で書かれたキャラだろ」みたいなキャラを書く暇なんてない。なにせ15ページだ。そこに書いてある一文字は範馬勇次郎によって握りつぶされ圧縮された石炭のような輝きを秘めている。少なくとも紹介する本よりも先に別の本の話をし始めるようなこの紹介記事の一文字とは重みが違う。一文字一文字がダイヤモンドなのである。
さて。
こんな風に紹介してみると「もしかしてこの本、ものすごい読書力を求められる本なの?」と警戒されてしまうかもしれない。軽そうなタイトルで釣りに来た悪しき質量の塊だと思われてしまうかもしれない。しかし安心してほしい。そんなものではない。
最初にとっかかりがあり、次にこの話で重要になるガジェットの話になり、それの特性について全て語り、最後には「語られている情報の中で起きる」逆転が発生する。シンプルな構成だ。
「生煙草」という短編を例にしよう。
煙草を吸っている男を見て顔を歪める人がいる。
嫌煙家かと思いきや、実は男が吸っているのは煙草ではなく「シガー」という保護異生物リストに入れられている「生きている葉っぱ」だったんだ。目もなく口もなく、光合成で生きている。ただ一日に三センチは動くから「動物」として分類されている。「シガー」は火をつけると煙草みたいな煙が出てその煙にはアッパー系の弱い覚醒効果があることが認められている。まあつまり煙草だな。人はシガーにはテレパシーを発する機能があることから、知性のある生き物だと言われ保護しようとされていて、男のように煙草の代わりに吸うことはあんまりよろしくない。しかし男は『シガーを保護したいのなら、むしろ吸った方が良い』と主張するんだ。それはどうして?
という話の流れを「はい、今煙草を吸っている人がいますね?」「この煙草は実は生きている葉っぱなんですよ」「この葉っぱが生息している星を説明しますね」「生態はこんな感じです」「理解しましたね?」「では話を回転させます」とひとつひとつ順序立てて書いているんだ。だからとても分かりやすいし、ページ数も短いから『説明されてたけど忘れてた』みたいな事態も起きえない。読み終わったあと、僕は「しょ、小説を書くのがうまい……!!」ってひっくり返っちゃったよ。ニール・ゲイマンの「壊れやすいもの」を読んだときもそうだったけど、短編って露骨に作者の力を見せつけられたりするから恐いよね……
そんなわけで『5分間SF』
草上仁という作者の力を存分に見せつけられて叩きつけられる小説だ。右ストレート一発KOというよりは細かなパンチで体にじわりじわりとダメージを与えてくるタイプというか、野球だとホームランではなくヒット連発で得点を稼ぐタイプというか、ド派手な戦い方ではなく気づいたら耳たぶを切り取ってくる好々爺みたいな。そんな感じ。こわっ!
そんな気分を味わいたい。そんな人にはお勧めだ。
それじゃあ、またな!
ところで草上仁作品を他にも読みたいなって思ってAmazon検索したら大体中古しかなかったんだけどそういうことなの????
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