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【#14】同級生と同居ラブコメですが、一番好きなキャラは刑期三年執行猶予なしの親父です【飛び降りようとしている女子高生を助けたらどうなるのか?】

 群雄割拠、空前絶後の同居ラブコメブームである。
 ヒロインと主人公が同居する。たったそれだけのあまりにも狭い席を多数のラブコメで取り合っているものだから、もはや拾う程度ではフックとして成立せず、むしろ拾うことぐらいすることだろう。下着シーンの挿絵と同じぐらいあって当然で、大人が女子高生を拾うどころか高校生が高校生を拾うし、親の借金のカタで拾われるし、500円の借金のカタで拾う。もはやたまたま見つけた良い形をした木の枝ぐらいの拾われ方をされている。「たまたま拾った良い形の木の枝を欲しがる女の子と、対価として一緒に住んでもらうことになりました」。ありそう。
 そして今回紹介するラブコメも、拾って同居する系ラブコメである。

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 飛び降りようとしている女子高生を助けたらどうなるのか?
【岸馬きらく】

 どうなるのか? って言われたら、警察に保護してもらいに行く。と答えるしかない気がする本作は、youtube漫画のノベライズ作品である。youtube漫画のノベライズも最近増えてきたよね。だいたいここかフェルミのどちらかな気がする。

 youtube漫画、てっきり紙媒体の漫画になりました! みたいなそういうものになると思ってたけど小説になる方が多い。ところでyoutube漫画ノベライズコミカライズは存在するのだろうか。ややこしいな。

 「……彼女が欲しい」
 気がつけばそんな言葉を口にしていた。(1巻 P.4)

 気がついたら彼女が欲しいな……という気持ちになっていたバイトで生活費を稼ぎ、家賃補助と学費免除のある特待生を維持し続けている苦学生である主人公は、ある日、自殺しようとしていた女の子を見つける。体中に痣があり、生きてる意味がないと言い張る女の子を家に連れ帰り、彼女になって欲しい。と告げる。
 そこから始まるいちゃいちゃ甘々同居ラブコメ――! というのが本作の売りだろう。

 しかし、そこに関しては今回のnoteでは言及しない。他のAmazonレビューとかツイッター感想を眺めていてくれ。あと1巻と2巻、シリーズを通しての話をするので、1巻最後の話とかもする。「このnoteを読めば、本を読まなくても問題はない!」みたいなレビューにはしないように気をつけるけれども、まっさらな状態で本を読みたいという場合は、読んでからまたここに来てくれ。そして僕と「ラストの挿絵が収監されている父親に面会しに行くところなの、やっぱりおかしいよな?」と話をしよう。

 そう、どうして僕がこの小説でnoteを書こうと思ったのかと言えば、このラブコメには暴力が存在するからである。どうして甘々同居ラブコメに暴力が? そりゃあ飛び降りようとしているからだよ。

 忘れてはならないんだけど、この小説のフックとして存在しているのは「体が痣だらけの女の子が飛び降りようとしている」という要素だ。つまるところ、今作のヒロインは『飛び降り自殺を企てている』。まさか人類、学校の帰り道に「今日は自殺でもしてみよっかな~~」って気持ちになって飛び降りなんてしないだろう。そういうキャラクターも僕はかなり好きなんだけど、今作のヒロインはそういうキャラではない。

「す、いませ……」
「だから、謝ってすむ話じゃねえって言ってんだろうが!!」
 腹をサッカーボールのように蹴り飛ばされる。
 ズシンという芯まで響く衝撃に、初白の全身が痙攣する。(1巻 p.237)

 どんな行動にも、それをやるだけの理由が存在する。このヒロインが飛び降りを企てたことにももちろんそれだけの理由がある。それは父親からの家庭内暴力である。上にあるのは親父が娘の腹にサッカーボールキックしているところ。頬をパァン! と叩くとかじゃあなくて、全力で蹴っている。この後うずくまる娘を踵で何度も踏みつけてくる。そりゃあ娘の全身に痣ができるはずだよ。個人的には未遂で終わったものの、娘の舌に根性焼きしようとしているところが一番好き。

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 ちなみにこのお父さんは原作であるyoutube漫画には登場しない。原作動画は自殺志願の女とひたすらにいちゃつくラブコメが展開されていて、家庭内暴力親父は小説版になって急に登場する。そんなサプライズがあるか?
 という話があったのだろうか、あるいは2巻が発売されるためなのか、8月27日に家庭内暴力親父が登場する動画が公開された。もっとも、家庭内暴力親父であることは明かされず、ただの野球部の監督として登場する。親父の本性がでてくるのはこの後なので、3巻が発売された場合、家庭内暴力親父がyoutubeに解き放たれることになる。本当にやるのか。それとも何事もなかったかのように2巻の話に飛ぶのだろうか。気になるところだ。

 元プロ野球選手現野球部監督にして、家庭内暴力を振るう親父。という存在を同居ラブコメの中に出現させてしまった本作。本当にこれでいいのか? と思うところはかなりあるが、2巻が「親にネグレクトされて、家族愛というものを味わって育つことができなかった母親が、娘に愛される。家族に愛されている。ということを理解することができず、同じようにネグレクトをしてしまう」という悲しい話なので、もしかしたらこの小説が「いちゃいちゃ同居ラブコメ」として認識すること自体間違っているのかもしれない。

 ちなみに2巻において、ヒロインの父親である家庭内暴力親父の初公判が行われ、実刑三年、執行猶予なしの判決を受けたことが明かされる。控訴はしないらしい。イヤだよ、ヒロインの父親の初公判の話が出てくるラブコメ。この話の主人公とヒロインはわりと結婚を視野に入れているタイプのラブコメカップルなんだけど、結婚式の時、出所した親父が祝ってくれるのだろうか。確かにふたりが出会ったのは親父のおかげではあるんだけど(親父が家庭内暴力を振るわなければ、フックの状態が完成せず、ふたりは出会うことも同居することもなかったため)。そんなの結婚式に呼ばれないだろう。と言われかねないが、親父自身、今は反省しているし娘は親父のことを憎めていないので呼ばれる可能性があります。この小説はわりと「みんなが幸せになる」をテーマにしているところがあるので。親父が過剰防衛で殺した急に湧いたチンピラとか野球部監督親父が捕まったことで甲子園の夢が絶たれた野球部のことは忘れましょう。

 まあ、それはそれとしてだ。
 2巻のネグレクトの話は僕は結構気に入っていて、家庭環境とか愛情とか、本当は幸せになれるはずの環境が揃っているはずなのに、すれ違ったり、それを知らなかったりしたせいで享受することができないでいたけれども、ちゃんと向かい合うことで家族との愛情を確認することができた。その流れは結構気に入っている。親に監視カメラで自室を撮影されていた母親にたいして、娘の隠し撮り動画を見せるのはわりとノンデリ案件ではあるが知らなかったので仕方ない。衝突事故だ。
 親父の家庭内暴力や、実刑判決三年。あるいはネグレクトされて育った母親の家族再築話など、そういう点はかなり面白いんだけど、ここを褒めれば褒めるほど、主人公とヒロインの同居ラブコメパートが要らないのではないか。疑似家族もの要らなかったのではないか。1巻の最後は「母親にどれだけ最高の彼女を手に入れたかを自慢する手紙を送り、母親が悶絶する」というものになっているが、家庭内暴力親父が出てきたあとにそんな普通に、この小説は同居ラブコメですアピールをしても遅いのではないか。と思うところは多々あるが、周りの感想を見る限り、二人のいちゃいちゃで悶絶している人も多いので、それでいいのではないだろうか。僕は主人公の親友である野球部員が心配です。3巻は彼がずっと告白し続けていた女の子と付き合う話だそうです。1巻2巻から想像できねえ。

 そんなわけで「飛び降りようとしている女子高生を助けたらどうなるのか?」。暴力が好きで同居ラブコメ系を読んでみたかったんだよな~って思っている人にはオススメだ。みんなで親父の実刑判決を電話で聞こう。





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