見出し画像

【#11】摩羅でもイチモツでもペニスでもなくちんちん【お前の彼女は二階で茹で死に】

 Vtuberを名乗っていることから分かるように、実は僕もYouTubeチャンネルというものを持っていて、動画で本の紹介をしていた時期もあった。

 けれども、動画というものはいちいちつくるのが面倒くさくて時間もかかるから、動画ではなくこうして文字で紹介するようになった。文字の方が早く書けるからたくさんの本を紹介できるな! とか考えていたけれども、前回のnoteが8月のものだから、そんなことはなかったな。
 さて、今回紹介する本だが、これはそのYouTube時代に紹介した本の一つだ。当時の動画を見直したら音量が小さくて笑っちゃったので、新しく紹介し直すことにした。リブート版ってやつだな。


 そんなわけで、今回紹介する本は動画のサムネから分かる通り、この本だ。

ダウンロード

お前の彼女は二階で茹で死に
【白井智之】

 見てくれよこの黄色と赤のテカテカ表紙。めちゃくちゃ体に悪そうじゃん。実際、体に悪い不健康食品みてーな小説だぞ。不健康な食い物ほど美味いよな!

 ノエルの肌の色がまわりと違うのも、手の指が四本しかないのも、もとをただせば母親のせいなのに、身勝手な物言いだと腹が立った。母親が交通事故で脊髄を損傷し、腐ったハムみたいな臭いを漂わせて死んでからも、その思いは変わらない。(単行本:P6)
松本ガリは海パンみたいな器具を穿いていた。貞操帯に似ているが、中央からゴムのホースが延びている。アリクイにちんちんを吸われたみたいな格好だ。ホースは天井を伝ってアルミ製の筐体につながっていた。(単行本:P119)

 白井智之は特殊条件ミステリの作家だ。デビュー作では「自分のクローンをつくって食べる食人工場」、東京結合人間では「相手のケツの穴から体内に侵入して合体し、目が四つ、手足が四本ある身長三メートルの結合人間となり子孫を残す世界」だったりする。「おやすみ人面瘡」と「少女を殺す100の方法」と「そして誰も死ななかった」と「名探偵のはらわた」に関しては自分で調べろ。ところでみんな、白井智之のどのタイトルが一番好き? 僕は「少女を殺す100の方法」だな。
 ゆえにこのミステリにも特殊条件があるわけで、この小説においての特殊条件は「ミミズ人間」、「アブラ人間」、「トカゲ人間」、「水腫れの猿という名の見世物小屋」だ。

 ミミズ人間というのは、生まれつき肌が赤紫色で横縞のついた、さながらミミズと人間のハーフみてえな見てくれになっている人のことで、指が四本あって、手から粘液を出して壁や天井に張りつくことができる。
 アブラ人間というのは、本名松本ガリって言って、ちんちんから美味い油が出てくるべとべと病という病気にかかってる男だ。ちんちんにチューブをつけられて、そこから油を回収されている。男が好きで、見かけると「べべべべべべ!」と大声を上げて喜びのダンスを踊るんだ。トカゲ人間と見世物小屋に関しては以下省略。そこは自分で確かめてくれ。


 そしてもう一つ。
 全体を覆う大事な「特殊条件」がある。

 母か姉か妹。
 膨らんだキンタマに溜まった精液をぶちまけれるのは、三人のうち一人だけ。はたして誰を選ぶべきだろうか?
 悩ましすぎる問いに苛立ち、ノエルは舌を打った。(単行本:P14)
 ノエルは迷いに迷った挙句、一方の少女の後を追い、強姦した。(単行本:P88)
「その可能性もあるというだけです。いまのはあくまで、一年と三か月前にレイプされたのが長女のユリさんだった場合の推理です」(単行本:P68)

 白井智之は多重推理(どれも真実味がある複数の推理)を展開するタイプのミステリ作家なのだが、今回の『お前の彼女は二階で茹で死に』は「誰が強姦されたかによって、事件の犯人が変わる」という多重推理が展開されている。性格わり~~~~!


 この小説の構成は「ミミズの成年、ノエルが女を強姦する(その時、複数のターゲットがいて、ノエルはどれを選ぶべきか迷いながら舌を打つ)」→「妹が自殺した悪徳警官ヒコボシが『赤ん坊が食肉性のミミズ(これは普通のミミズ)に食われた溺死事件』『肛門に尻子玉を入れる新宗教の信者が毒殺事件』などの事件を捜査する」→「容疑者の中にはノエルの被害者たちがいる」→「悪徳警官が監禁している女子高生名探偵が事件を多重解決する」といったものだ。

 さらっと説明したけど、悪徳警官である主人公、ヒコボシは事件を解決するために『女子高生名探偵』マホマホを家に監禁しているぞ。

 ヒコボシは乾麺を砕くと、陰毛みたいな形の破片をマホマホの口に押し込み、電気ケトルの熱湯を喉へ流し込んだ。
「ほれ、みーちゃんのおしっこだぞ」
 マホマホがバネ仕掛けみたいに上半身を起こし、カーペットに熱湯を吐いた。ゲホゲホと咽せながら肩を震わせる。ヒコボシが電気ケトルで脳天を殴ると、マホマホは毛布に顔を押しつけて蹲った。(単行本:P50~51)

 「ヒコボシは頷いて顔を向かい合わせた。」ぐらいの繋ぎの文的ノリで電気ケトルで脳天を殴る。イカすノリだぜ。
 ちょっと待てよ。どうして悪徳警官は女子高生名探偵を監禁してるんだ? 確かに白井智之の小説において名探偵は監禁されているところがデフォであることは確かなんだけど、そういうノリなんかな? と思いかねないけれども、ちゃんと理由がある。ヒコボシには自殺した妹がいて、その自殺の原因となったやつらを刑務所にぶちこんでやりてえと思ってるんだ。そのために、女子高生名探偵を監禁して電気ケトルで脳天を殴ってるんだな。脳天を殴る必要性はあるのか??? 僕はあると嬉しい……。
 ヒコボシが捜査する事件にはその「刑務所にぶちこんでやりてえ奴ら」が関わっている。ここまで来ればもう分かるな?
 強姦魔の犯罪によって推理の内容が変わる多重推理で、容疑者の中には「刑務所にぶちこんでやりてえ奴ら」が関わっている。
 つまり『ヒコボシにとって都合の良い推理を採用する』ミステリなんだ。

 ノエルによる強姦事件とヒコボシの妹が自殺した犯人。そしてそれとは特に関わるわけではないんだけど監禁されている女子高生名探偵。その三つが交わるときに一体なにができあがるのかといえば『愉快痛快不快不健康極まる本格ミステリ』なんだ。
 いや、ここまで突飛な設定ばっか説明しておいて非常に申し訳ないんだが、この小説はミステリ小説なわけで、肝心のミステリに対しては『お前の彼女は二階で茹で死に』は非常に素直なんだ。真面目で素直で正統派な多重推理とロジックを見せつけてくる。こんな突飛なのに、ロジックを聞いたときに「わ、なるほど!!」って「その手があったか!!」となれる小説もなかなか珍しいぜ。正統派本格ミステリだけど、たまたま手がかりが強姦とミミズ人間なだけなんだ。嫌なたまたまだな。

 そんなわけで、『お前の彼女は二階で茹で死に』。
 正統派本格ミステリが読みたい。なんか突飛な設定のミステリがたまには読みたい。ノリが摩羅でもイチモツでもペニスでもなく「ちんちん」な小説が読みてえ気分になったときにピッタリな小説だ。
 僕はこの小説の下腹部についての描写が「ちんちん」であることが非常に気に入ってるんだ。着飾ってなくて原色テカテカテラテラ小説だってことを示してる一言だぜ。



ここから先は投げ銭用。課金をしたところで読めるのは「お金ありがと!」とちょっとした一言だけだ。課金をするだけ損なのでそれよりも小説や漫画を買って読め。

ここから先は

111字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?