ノイズキャンセリング

階段を上るとハチ公前広場。
渋谷の夜は、今日もたくさんの人と安っぽい光で彩られている。

少女は首にかけていたヘッドホンを耳に装着した。
音の世界に逃げ込むために。

少女の居場所はヘッドホンの向こう側にしかなかった。

スクランブル交差点。
様々な人々が行き交っている。
少女にとって無数の人々は、意志を持たない傀儡か、電灯に群がる蛾のようなものでしかなかった。

ヘッドホンをしているのにザワザワとしたノイズが混ざってきた。

音量を上げる。これでもかというほどの爆音。
鼓膜には悪いが、もっと音の世界と一体になりたい。
自分が現実世界からふっと消えてしまえばいいのに。

そんなとりとめもない事を考えながら、伏し目がちで歩く。たまに男が話しかけてきたが全て無視した。

ごみごみと入り組んだセンター街を早歩きで進む。ショートヘアがリズムに合わせてサラサラと小気味よく揺れた。

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