【SS】チンアナゴ栽培キット

東急ハンズなどのおもちゃコーナーには、よく変な栽培キットが置いてある。
枝豆やサボテン栽培キット、卵の殻で育てる栽培キットなど…。
どれも童心をくすぐるもので、かわいいパッケージに相まってついつい買ってしまいがちだ。
今日は一段と変わったパッケージを見つけた。

チンアナゴ栽培キット。

え〜っと…。
チンアナゴって…あの海に住んでる細長い生物だよね？
チンアナゴを栽培するってどういうことなんだろう。
こちらの戸惑いも気にせず、パッケージの可愛いチンアナゴの絵が微笑みかけてくる。

まあいいや。買ってみるか。

帰ってきて早速植えてみることにした。
説明書によると、特殊なチンアナゴのタマゴを付属の植木鉢に植える仕組みのようだ。
タマゴが種にしか見えない。

とりあえず植えてみよう。

植木鉢に付属の砂を入れ、種をばら撒く。
水やりは1日1度でいいらしい。
ひたひたになるくらい水をやって今日は寝る事にした。

翌朝。特に変化はない。そう急ぐものでもないだろう。
水やりだけして様子見だ。

特に変化が感じられないまま3日が過ぎた。
「これはハズレ商品だったんだろうか。まあチンアナゴが生えてくるわけないか…」と思い始めた矢先の朝。
いつもどおり水やりをしようとすると、そこには…

にょきっ。

チンアナゴだ。前に水族館で見た時よりは多少短いが、どこからどう見てもチンアナゴである。
こちらの姿を認めると、ビックリして砂の中に引っ込んでしまった。
それでもじっと見ていると、そろそろと姿を現す。

少しすると慣れたのか、ゆらゆら揺れていた。
戸惑いながらも水をあげたら嬉しそうだった。

次の日。

にょきにょき。

増えている。今度はオレンジの縞模様、ニシキアナゴだ。
更に、チンアナゴらしからぬ不思議な見た目のやつも生えていた。
ウサギのような耳がある。

昨日生えたチンアナゴも、隣で元気にゆらゆら揺れている。昨日より心なしかサイズが大きくなったように思える。

不思議な3匹のチンアナゴ達は、ときに引っ込んだりゆったりと揺れている。
わけがわからない。でも可愛いからいっか。

ゆらゆら〜。

いつもどおり水を大量にあげて、仕事に出かけた。

ーーー

チンアナゴの日ということで、何か急に思いついたので勢いで書いてみました。オチは特にないです。
私は無類のチンアナゴ好きですが、本当にこんな栽培キットがあったら嬉しいですね。
水中で暮らす必要のない、植物のような不思議なチンアナゴのショートストーリーでした。