入口近辺は混んでいるのに、奥に行けば行くほど空いている[2016・6~]

ここ数年は小さなギャラリーだけでなく、美術館にも足を運ぶことが多くなりました。そこで何度も経験した「美術展あるある」として、

『入口近辺は混んでいるのに、奥に行けば行くほど空いている。』

というのがあります。

メディアで話題になっている大規模な美術展に行くと、入口から入ってすぐの人だかりに驚かされることが多いです。人の列もなかなか前に進まず、やきもきすることもしばしば。でも第二室、第三室……と奥に進むにつれて次第に混雑が解消され、後半の部屋になるとあんなに凄かった行列も見当たらず、絵の前に誰もいない場所も出てきたりして、最後の方はゆっくりと鑑賞できるようになります。人が急にいなくなるわけではないし、どういうことだろう……と不思議に思っていたのですが、何度目かに美術館を訪れたとき、理由が少しわかった気がしました。

日本人は真面目なので、作品のみならず、冒頭のごあいさつや各章の説明文、作品に付けられた注釈までも、きっと律儀にすべてを受け止めようとするのだと思います。入口付近の人の流れが遅いのは、作品そのものよりも、説明文や注釈を読むことに多くの時間が割かれるから。そして展示が先に進むにつれ、最初と同じペースで真剣に見続けることに少しずつ飽きてしまうのではないかと推測しています。

ある時期からぼくは、説明文や注釈の前を(混雑状況に応じて)読まずに素通りしてしまい、そのぶんの時間を作品そのものとじっくり向かい合うことに費やそうと決めました。気になる箇所の説明は、あとから戻って行列の背後から見るようにしています。説明文は大抵、販売されている図録にも同じ文章が収録済みなので、休憩用の椅子に備え付けられたサンプルで読んだり、買えば家でじっくり何度でも読み返すことも可能です。

言葉はただの一面的な情報にすぎませんが、作品そのものに込められた絵の具の筆致や背後にある作家の思考は、観る人をどこまでも遠い世界へとトリップさせてくれるのだと気付いてから、作品と向かい合うことがより楽しみになりました。


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