「浜田島」と、田島照久の“裏・信藤三雄”的デザイン[2009・7〜8]

7月×日

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イラストの仕事では何度もお世話になっている北村範史さんの展示「スカート」を観に、早稲田のLIFTへ。いつものシルエット画をモノクロで描いた作品が並ぶ。いつも思うが、モビールや机など小道具をフルに利用した展示空間の構成がすごく上手い。ただ作品を生み出すのではなく、それがどう飾られるかまで意識を及ばせていくからこうなるのだろう、と勝手に想像する。

あとからギャラリーにやってきた北村さんと地下で少しビールを飲みながら話す。モノクロで描いた理由や、知人の話など。長い付き合いになるが今回初めて原画を一点購入させてもらった。

7月×日
新宿のコニカミノルタプラザで「THE BOOM20周年記念写真展〜宮沢和史、地球をつなぐ旅」なる催しが開かれているのをたまたま知る。展示は、宮沢和史がツアーで訪れた先で撮影した写真と、彼のライブに同行する機会の多い写真家・仁礼博さんと中川正子さんによる写真と、二部屋に分かれていた。申し訳ないがプロの二人の写真が蛇足に思えてしまうほど、宮沢和史の旅の写真が自然体で良かった。昔、ブラジルや異国の土地は彼にとって探求とか吸収の場だったのかもしれないが、写真を見る限り、いまはどの場所も日本のいろんな地方と同じように“ふるさと”なんだろうな。

7月×日
原宿のGYREとVACANTで開かれる、日本初の大がかりなアートブック/ZINEの展示即売会として話題のイベント「ZINE’S MATE, TOKYO ART BOOK FAIR 2009」に行く。最初に行ったGYREの方はギャラリーや出版社などの大きめの団体が出展しており、第二会場のVACANTはアマチュア〜個人による出展が中心。3日間の中日の土曜日だったからか、とにかくどちらも混雑していて、まともに作品を吟味できる状態ではなかった。特にVACANTの方は通路が狭く、移動すらままならない。上のリンク先の写真で見られる木の棒に小冊子をはさむ展示方法も、一見してどういうZINEが展示されているのかわかりにくく、什器の前に多くの人が群がって離れない要因にもなっているように感じられた。あれでは本がかわいそう。昔ミニコミを発行していたことがあるので、こういった自費出版の試みには常に関心を持ち続けているけど、近年のブームを通して見たZINEの印象は「ミニコミー編集=ZINE」といった感じで、稚拙なところばかりが目に付いてしまう。結局この日はギャラリー360°のブースで、珍しいユニクロのホンマタカシTシャツ(WAVE柄)だけを購入。

7月×日
シリーズで担当しているロックバンドの第二弾アルバムの打ち合わせが終わった後、横浜へ。まずは、横浜美術館アートギャラリーの「柳宗理展」。柳宗理といえばまずインテリアや食器のデザインが頭に浮かぶが、駅や公園などの公共物のデザインも美しく可愛かった(Wikipediaにも写真が)。

そしてこの日のお目当ての赤レンガ倉庫「浜田島」へ。「浜田島」は、アートディレクター田島照久がこれまでに手がけた浜田省吾のアルバムやツアーのグラフィックを(一部リメイクしつつ)一挙に公開する大規模な展覧会。浜田省吾自体はどちらかといえば長渕やスプリングスティーンにも通じる熱いキャラクターだと思うが、彼を支えてきた田島さんのグラフィックは一貫してクール。Helveticaをはじめとする欧文書体を多用した手法は80年代の王道であり、一見対極に位置するようなピチカート・ファイヴや渋谷系のデザインとも意外と共通する部分が多く、裏・信藤三雄的な味わいがある、というのが発見だった。CG映像の「ON THE ROAD」ツアートラックも、どことなくグルビ的といえなくもない……。熱烈な浜省ファンの人たちに田島さんの作品がどのように届いていたかは知る由もないが、これだけのハイレベルなグラフィックを常に浴び続けてきた浜田省吾のファンは幸せだと心から思う。ちなみに田島さんは「攻殻機動隊」のパッケージ等も手がけるいまだ現役。圧倒的な迫力の図録と、大判のタオルを買って帰る。タオルは写真柄で、オープンカーにひとり乗る浜省を引きで捉えた写真の下にHelvetica Condencedで「SHOW ME YOUR WAY, I’M A J.BOY.」。

7月×日
凸版印刷のあるビルのP&Pギャラリー(飯田橋)で「GRAPHIC TRIAL 2009」という展示を見る。秋田寛、植原亮輔、佐野研二郎、八木克人の4人のアートディレクターによる印刷実験はユニークだが、一時期の竹尾ペーパーショウと同じく凝りすぎていて(ぼくレベルの)実戦にはあまり役に立たなそう。

銀座に移動し、ギンザ・グラフィック・ギャラリーの「2009 ADC展」へ。ものすごい既視感と閉塞感。いつもと同じ顔ぶれのアートディレクターが、いつもと同じクライアントの仕事をして、それを互いに褒め合っているような図が目に浮かぶ。これだけ広告不況、出版不況といわれる中で、アートディレクターの仕事が数年前までと同じ水準をキープし続ける、なんてことはまずあり得ないはず。すでに不況の影響は新人・中堅レベルには出てきているような印象があるし、来年以降のADCがいろんな意味で気になる。

7月×日
表参道のRAT HOLE GALLERYで荒木経惟「POLART 6000」。女、花、ネコ、食べ物などテーマに沿ったポラロイドが、正方形や長方形のマトリックスに並べられた作品。写真自体もさることながら、そのセレクトが面白い。時事性も取り入れられていて、撮影の時期の新聞記事の写真がさりげなく紛れていたりする。忌野清志郎の死亡記事を含む花の作品は、清志郎当人に捧げられたものらしい。草なぎ剛の記事も何点か入っていて笑った。例の事件もあと数年すれば、あの人のいい笑顔の奥にきっと消え去ってしまうだろうけど、この年、草なぎ君は酔っぱらって赤坂の公園で全裸で騒いで現行犯逮捕されたのだ、ということを写真を見ながら改めて肝に銘じた。いじりまたべえ。
 

8月×日
COWBOOKSのリトルプレスフェア、結局何も買わず、Paul Smith SPACE GALLERY「田名網敬一+ピート・ファウラー 夢の帝国」へ。観る前は意外なコラボレーションと思っていたが、実際観てみると案外そうでもなく、田名網さんのカラーでねじ伏せたという印象も。

8月×日
出勤の途中、lamfrommのマーク・ボスウィック展「anna rose’ if handed down」へ。ポラロイド一枚で、こんなにきれいで広がりある世界を作り出せるってどういうことだろう。忙しくなってしまい、結局4会場のうち行けたのはここだけ。残念。写真集『not in fashion』でがまんしよう。

8月×日
初めて行く勝どきの、バタフライ・ストロークの事務所に併設されたギャラリー、@btfの佐内正史写真展「EVA NOS」を観に行く。全く予備知識を仕入れずに行ったので、写真を見て心の中でひと言「ああ、パチンコか……」。佐内さんがパチンコCRエヴァンゲリオンの前に座って、弾を打ちながらシャッターを押し続けたという対照シリーズの写真集からの展示。会場に届いていた花輪の主が、押尾先生の事件に関わっているという噂の人物だったことが気になったくらいで、特に感慨はなかった。

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勝どきから銀座まで運動がてら橋を渡って歩き、gggで開かれている「LAST SHOW 細谷巖アートディレクション展」へ。雑誌「ブレーン」もデザイナーが変わってしまい、細谷さんの仕事に直接触れる機会も少なくなってしまった。新作のグラフィック作品に添えられた明朝体がやけに格好良くみえて、家に帰って調べてみたら、誰でも知っている小塚明朝だった。こういうのが粋なフォントの使い方なんだろうな。今回の新作を収めた図録「LAST SHOW」とggg Booksの作品集を買って帰る。細谷さんの仕事はいつもシンプルですっきりしていて好きだ。

8月×日
HBギャラリーにちょっと寄った後、近くのFRAMeWORKで開かれている北村範史「球根 2009」展へ。階段入口で待ち構える球根の巨大な姿にビックリ。レディースのブティックが会場ということで、一通り観て何も買わずにすばやく帰ってしまった…。

8月×日
表参道でのミーティングの前に大急ぎで、大丸ミュージアム・東京のいもとようこ絵本原画展を観に行く。新沢としひこさんの別冊の仕事が縁で誘われた保育雑誌のリニューアルデザインのコンペに勝ち、来年度から表紙と内容の一部を担当させてもらえることになったのだが、その表紙イラストがいもとようこさんなのだった。たくさんの絵本の原画をページ順に並べた、見ごたえのある展示で、中でも日本の南の離島にしか生息していないくろうさぎの子育てのようすを描いた『とんとんとんのこもりうた』は、ぼく自身の子育ての思い出と重なってなんともいえない感動が胸に迫った。急ぎ足で、じっくりとすべての作品を見終えてから、その保育雑誌のミーティングへと向かった。

――2010秋以降の展覧会ツイートを、こちらのハッシュタグ #gbiyori に残しています。

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