嶋本麻利沙写真展「because there is light」と、偶然とは思えない出会い[2008・11〜12]

11月×日
代々木八幡のラムフロムで、瀧本幹也写真展「Iceland」を観る。11月に入って予定日より早く娘が誕生し、病院の付き添いや産後のフォローのため、ゆっくり外出することもままならなかった。あらかじめ覚悟はしていたので、先月はちょっと多めに観ておいたのだ。こんな中でも嬉しいことに仕事の依頼があり、きょうはそのためのネタ探しも兼ねて立ち寄った。アイスランドの荒涼とした山肌の風景。もっと広い場所で見てみたかった気も。

11月×日
数年振りに作品をリリースする男性ミュージシャンのアルバムデザインに向けて、いただいたデモ音源を聴きながらイメージを浮かべてみる。音を聴いて最初に見えたのは、白くてぼんやりした、何が映っているのかはっきりしない風景だった。雪とかガラスとか?……。数日前から写真をメインにヒントになりそうな資料を探している。きょうは原宿から程近いリトルモア地下で開かれる、野村佐紀子写真展「夜間飛行」へ。全ての光景が暗闇の中に深く沈んでいる。明るさ、白さの対極にある写真。写真とは何かをはっきりと写すもの、という考えが彼女の作品を見ると根底から覆されてしまう。それがまた作者自身の心の中を同時に写しているようで面白い。

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原宿から表参道をあてどなく歩く。渋谷でやっている田名網敬一展に行く前に、スパイラルレコーズにちょっと寄り道。いつもの習慣でディスプレイの下に置いてあるフライヤーを順番に取っていくと、一枚のはがきに手が止まった。皺のところが薄く影になった白いシーツの写真が印刷されている。こ、これは……まさに数日前から頭に浮かんでいたイメージそのものの写真ではないか。裏面のお知らせによると、さっき通り過ぎた表参道ヒルズの地下でその写真家の個展が開催中だというのでさっそく戻って行ってみることに。嶋本麻利沙写真展「because there is light」。会場はイデアフレイムスという雑貨店の一角にあった。展覧会の名前も被写体の風景も、生まれたばかりの娘に縁があったりして偶然とは思えない。はがきに印刷されていたシーツの写真が大きく引きのばされて展示してあった。ほかの写真も光のとらえ方が絶妙で色もきれい。本人とは話せなかったが、販売されていた写真集にもイメージに近い写真がいくつかあったので、買うことにした。今週のプレゼンミーティングに持って行こう。

歩いて渋谷に出て、NANZUKA UNDERGROUNDの田名網敬一個展『COLORFUL』へ。60年代から70年代、時代の寵児だった頃の作品を集めた展示。アニメーションが懐かしい。昔、Kiiiiiiiの付き添いで京都造形芸術大学に行ったとき、学長だった田名網さんと15分ほど雑談したことがある。15分が5時間にも10時間にも感じられるような濃い時間だった(ほとんどが「……」だったような気もするが)。

11月×日

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アルバムのデザインを嶋本麻利沙さんの写真で進めることが決まり、ミーティングの翌日ふたたび個展へ。今度はちゃんとお話しでき、仕事についてのOKもいただく。

 
12月×日

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表参道のスパイラルで「DO MORE WITH LESS-デザインサイエンスが育んだ THE NORTH FACEの40年-」を観る。40周年を迎えたアウトドアメーカーTHE NORTH FACEの歴史を辿る企画。展示構成はグルーヴィジョンズで、なるほどと納得。歴代の雑誌広告のスクラップも時代の流れを感じさせた。すべてリンク先にある特設サイトで見ることができる。

そのあと、ピンポイントギャラリーの樋上公実子『チョコレータひめ』原画展へ。樋上さんは友だちの友だちにあたるイラストレーターで、その友だちがお話を書いた同名の絵本を上梓したばかり。お菓子の店テオブロマのパッケージをずっと担当していて、ぼくもよく贈り物に愛用している。甘いものが大好きなので、甘いお菓子が大好きなお姫様が主人公という今回の仕事は、きっと天職みたいなものだったろう。甘い物を記録した食日記「甘味偏愛記」のネタに家の近所の洋菓子屋で買ったチョコレートを差し入れ。

12月×日
12月は観たい展示がたくさんあったのに、娘と過ごすのに忙しくほとんどスルーしてしまった。それでも目黒区美術館の石内都「ひろしま/ヨコスカ」だけはどうしても観ておきたかった。石内さんはぼくが勝手に思い込んでいたよりもずっとキャリアの長い人で、森山大道や同時代の写真家と同様、ジャーナリスティックでありながら独特の目線を持っている。初期の朽ち果てたヨコスカや東京のバラックを収めた作品から、傷のシリーズ、母の遺品、原爆の遺品……に至るまで、正視できないものを冷静に見つめる姿勢がずっと変わっていない。そこに不思議な優しさを感じるのは何故だろう。最後の「ひろしま」のシリーズ、これだけでもひとつの会場で観たいくらいだった。ZEIT-PHOTO SALONも見ておくべきだった。

12月×日
吉祥寺での仕事の帰りに、にじ画廊にちょっと立ち寄る。天明幸子個展『easygoing』をやっていた。毒のない可愛いイラスト。子どもってよくこういう表情をする。少々尻すぼみだったが、これで今年の展覧会も見納め。

――2010秋以降の展覧会ツイートを、こちらのハッシュタグ #gbiyori に残しています。

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