UXデザインと相性のいい現場・悪い現場
ユーザーに使ってもらうもの・手にとってもらうものをつくる上で、重要で、有効なことも多いUXデザインですが、現場の状況によっては、使わない方が良いことがあります。
1.相性のいい現場
いくつかの現場を経験してきて、下記4項目が当てはまる現場は、UXデザインと相性がいいな、と思っています。
①ユーザーについて知ろうという意欲が強い
②メンバー全員で対話をしながら進められるまとまった時間をある程度取る事ができる。
③社内政治に左右されない
④企画やプロジェクトの初期段階であり、結果を反映できる
インサイト(本質的要求)を洞察するためには、ユーザーと向き合うことが重要です。どんなにユーザーのことを知っているつもりでも、調査をしてみると、まったく予想していなかったことが見えてきます。
そういったものを引き出すためには、ユーザーについて知ろうというマインドと、チームメンバーのそれぞれの立場からフラットに意見を出し合える環境が必要です。
UXデザインの授業の一部にファシリテーションが含まれることがあるのも、環境づくりがとても重要だからです。
また、UXデザインは"問い"のデザインです。ユーザーについて深く掘り下げていくうちに、「つくるべきはコレではなかった」というように、そもそもの大前提が覆ったりします。もう機能要件や仕様が確定し設計も済んでしまっているタイミングで大前提が覆ったら悲劇です。UXデザイン部分はお蔵入りさせ「つくるべきはコレではなかった」と思いながら開発を進めるか、かなり初期まで戻ってやり直すかの二択になります。後者を選択するのは、かなりの覚悟(と根回し)が必要ですので、前者を選択するケースが多いのではないかと思います。
そういったことを踏まえると、サービスやプロダクトに反映できるタイミングでUXデザインを行える現場は相性がいいと言えます。
2.相性の悪い現場
逆に、個人的に、下記があてはまる現場は相性が悪いと思うので、可能であれば他の手段を推します。
①Web(というログが取りやすい媒体)なのに定量データを取っていない
②顧客(ユーザー)のことを知り尽くしていると思っている
③結果のみクイックに欲しい
④欲しい結論の後ろ盾が欲しい
⑤もうつくるものが決まっていて、プロジェクトが走り出している
①Web(というログが取りやすい媒体)なのに定量データを取っていないは、既存サービスや既存事業での話です。が、「まずはユーザー調査」もあながち間違いではありません。
ただ、UXデザインでは質的データを主に使います。「なぜそういう行動を取ったか」など利用文脈の深掘りをしていくことになります。
いきなり質的調査から始めてしまうと、フタを開けたら、かなりのレアなユーザーだった、レアな課題だった、ということもありえますし、そもそもレアなのか、多いケースなのかの判断もつきません。
予算や時間を無尽蔵に使えるのであれば良いですが、仕事の場合は予算や〆切があります。お金や時間に制約がある以上、ある程度調査する方向のあたりをつけた方が効率的です。
Webはログがとりやすい媒体です。また、ユーザーインタビューなどに比べ、タグを仕込むのは時間もお金もそれほどかかりませんから、サービスの中にWebサイトやアプリが含まれる場合、まずは調査の方向性の検討材料として、ログをとっていなかったり、活用していない場合は、まずログを取ってみることをお勧めします。
よくあるケースとレアケースが判別できれば、絞って調査ができますし、両方調査をして比較して、差分や共通点から示唆を得るということもできます。
②の「顧客(ユーザー)のことを知り尽くしていると思っている」現場で相性があまりよくないと感じるのは、バイアスが強く働くからです。また、新たにユーザー調査を行うことが無駄だと思っているケースもあり、社内にある仮説ありきでアウトプットを求められます。実際に直近まで調査・分析をたくさん行ってきた会社で、使える調査結果あれば良いのですが、そうでない場合、的外れのデザインをしてしまうことになります。
さらに、ユーザーについて知っている内容やユーザー像がバラバラの場合や、チームメンバー全員に共有されていない場合もあります。目線が揃っていないと、いざ何かを作ろうと思っても意見がまとまらず時間は経てども先に進めず、期日だけが迫ってくるという事態に陥りがちです。
③「結果のみクイックに欲しい」という現場がなぜ相性が悪いか、という話ですが、要約された結果だけ受け取ると、うわべだけの理解になりがちになるからです。
そもそも、ユーザーについて考え、洞察することがUXデザインでは一番重要です。ペルソナ 、カスタマージャーニーマップは作成したとしても、あくまでも、たくさん考え、議論し、洞察したものを、人軸や時間軸でまとめたものです。実際にこれらのツール記載されるのは、一部だけで、議論そのものに比べれば、情報量が圧倒的に少ないです。
モノにしろ、サービスにしろ、実際にデザインする際には、たくさんのインプットが必要です。うわべだけの理解でも、なんとかしてしまう器用な人もいるかもしれませんが、議論に参加していない分、言葉尻だけを見て、本質がブレていくというリスクが出てきます。
④「欲しい結論の後ろ盾が欲しい」というケースは、しばしば見かけます。
定性データから明らかにしたユーザーの課題を解決するのが本来のUXデザインです。
基本的な話ですが、調査データで大事なのは、信憑性です。好きなように改善されたデータでは、調査データとして意味がありません。
結論の後ろ盾が欲しいだけの場合、調査段階で誘導して質問をして調査結果を歪めたり、欲しかった結論と違う結果が出て、せっかく行った調査をにぎり潰すなんて行動を取る人も出てきます。
調査の時間もお金も、モチベーションも無駄になってしまいますので、結論ありきの場合はUXデザインと非常に相性が悪いと思います。
⑤の「もうつくるものが決まっていて、プロジェクトが走り出している」に関しては、相性のいい現場のところで述べています。せっかく手間隙かけてデザインしたユーザー体験が使われないままお蔵入りするのは、④と似ています。
最後に
忘れてはいけないのは、UXデザインは目的やゴールを達成するための手段のひとつにすぎないということです。
「UXデザインをする」こと自体が目的やゴールになっては、本末転倒ですので、状況を見極めた上で、向いていないと思ったら、潔くほかの手段へ変更することも、時には重要です。
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