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「3日でつくる演劇ワークショップ」にてインプロを行ってきました

今年のゴールデンウィークは栃木にて3日間のインプロワークショップ&発表会をファシリテートしてきました。これはトッコ演劇工房「3日でつくる演劇ワークショップ」の一企画として行われたものです。僕が3日でつくる演劇ワークショップに行くのは6年ぶり3度目で、前回の様子はインプロ漫画『プレイフル』の題材にもなっています。

この企画はいつも素敵な時間となるのですが、今回もまた素晴らしい時間となりました。帰りの電車に揺られながら、簡単なレポートにまとめようと思います。

2つのヴィジョンと1つのチャレンジ

ワークショップ&発表会に臨むにあたって、僕は「演劇って楽しい!」「自分には素晴らしい力がある!」という2つのヴィジョンを掲げました。ここで言うヴィジョンとは「ワークショップが終わったときに参加者がどうなっていてほしいか」を描くものです。

3日でつくる演劇ワークショップの参加者の多くは高校生です。そして僕は基本的に自分よりも若い世代のほうが豊かな才能を持っていると考えています。だから彼ら彼女らを「インプロ」という枠にはめるのではなく、インプロを通してその才能を引き出していきたいと思いました。

また、ファシリテーターとしては「関係性をファシリテートする」をチャレンジとしました。今回のワークショップでは関係性に目を向け、関係性の声を聴き、それを実現するためにインプロゲームをやってみよう、と考えました。

1日目午前:アイスブレイクと安全に表現できる場作り

1日目の午前はアイスブレイクから始めました。当初は自己紹介から始めようと考えていましたが、若い子たちがまだだいぶソワソワしていることから、いきなり自己紹介から始めるのはハードルが高いと考え、フルーツバスケットから始めました。(インプロワークショップの特徴はワークショップ自体も即興性が高いことで、「今ここ」の状態をとても大事にしています。)その後小グループで自己紹介をしたり、名前を覚えるようなゲームをすることで、アイスブレイクをしていきました。

そして安全に表現できる場作りへと進んでいきました。インプロには台本がないため、それぞれが自分のアイデアを出し合っていく必要があります。また、インプロでは「考えたことを表現する」ではなく、「考えるより前に表現する」ことを大事にしています(そのような状態を「Spontaneous」と呼んでいます)。そのため、普通に求められる安全な場よりも、さらに安全な場が必要とされます。午前中はそのような場をみんなで勇気を出しあって作っていく時間としました。何人かの参加者たちはこの時点ですでに殻を破りはじめ、それがワークショップの推進力となっていました。

1日目午後:失敗をオープンにすること・シーンの体験・ステータス

1日目の午後は安全な場作りの続きとして失敗をオープンにすることを扱い(詳細は省きますが、めちゃくちゃ盛り上がった)、シーンの体験へと進みました。

3日でつくる演劇ワークショップには最終日に発表会があります。そのため、早い段階で舞台の上でシーン(短い即興劇)を作ることを体験してもらいました。

なお、発表会に向けては、僕はファシリテーターというよりも、演出家として考えていました。この企画の一番の難しさは、ワークショップの学びとショーとしての面白さを両立させることであり、それが僕の仕事だと捉えていました。

シーンの設定は「公演のベンチに誰かが座っている。そこに誰かが入ってくる」だけを決めて、あとは自由としました。これはインプロの中でもかなり自由度の高い設定ですが、今回のワークショップでは「参加者たちが自分たちでシーンを生み出していく」ことを大事にしていたため、このようなスタートにしました。

とはいえ、いきなり自分たちだけでシーンを作るのは非常に難易度が高いものです。そこで、ゴールは「お互いの名前を呼び合う」こととしし、それ以外の部分は僕がディレクター(即興演出家)としてサポートしていきました。

シーンは思いのほかうまくいく部分もあれば、やはり難しい部分もありました。ここからのワークショップは、ここで見えてきた良い部分を伸ばし、難しい部分を解決するために進めていきました。

1日目の最後はステータスと変化について扱いました。これもまただいぶ盛り上がったのですが、詳細は省きます。(インプロにおけるステータスの扱い方については『プレイフル』を読むとだいぶ様子が分かります。)

2日目午前:Yes, andについて(あとインプロソングも)

2日目午前は主に「Yes, and」について扱いました。Yes, andとはインプロの基本的なテクニックであると同時にマインドで、パートナーのアイデアを受け入れ(Yes)そこに積み重ねていくこと(and)です。

前日のシーンの様子を見て、Yes, andを取り入れるとシーンが良くなり、なによりも楽しめるだろうと思いました。そこで、Yes, andに関わるゲームやシーンをいくつか提案しました。その予想は大当たりし、ワークショップは大盛りあがりとなりました。

また、この日は即興でピアノが弾けるミュージシャンの方がいたため、インプロソング(即興で歌うこと)にも少し触れました。(こちらも詳細は省略。)

2日目午後:再びシーンの体験・間を使ったシーン・感情を使ったシーン

2日目の午後は、再び舞台でシーンをすることにチャレンジしました。午前中のYes, andを取り入れたペアワークの様子がとても良かったため、「それを舞台(人前)でもできるか?」がポイントとなりました。

結果から言えば、「舞台で同じように楽しむのは難しいね~」ということが分かりました(笑)ペアワークでやっているときは人の目が無いため、夢中で楽しめる。しかし、舞台の上に立つと人の目が気になり、変な自分になってしまう。ここがインプロの難しく面白いところです。

この日のシーンでは、「間を取ること」を恐れている様子が強く見られました。そしてそのことがプレイヤーを焦らせ、パートナーを受け入れられなかったり、ネガティブになっているように見えました。そこで、次は「間を使ったシーン」にチャレンジしました。

これは人によって得手不得手はあったものの、総じて良い効果を発揮していました。「これまで即興では間をすごく怖がっていたけれど、間をとっても大丈夫だということが分かった」という感想があったのが印象的です。

この日はその後も自分の感情を使ったシーンにもチャレンジし、インプロのやり方や捉え方を広げていきました。参加者の中にはインプロの経験者もいましたが、「こんなインプロもあるんだ!」とインプロの可能性にワクワクしている様子が見られました。

また、この日はオーストラリアのインプロバイザー、パティ・スタイルズの言葉「ルールをツールに」を伝えました。Yes, andにしても、間を取ることにしても、感情を使うことにしても、それを「ルール」にしてしまってはインプロが不自由になります。これらはあくまでも「ツール(道具)」であり、使いたい時に使えるものです。そしてツールをどのように使うか/使わないかが個性となるのだと思います。

今回のワークショップはかなり進みが早かったこともあり、様々なツールを種を蒔くように渡していく時間だったと思います。そしてそれをどのように使い、花を咲かせるかは参加者の自由としました。僕はこの時点で3日目の発表会が楽しみになっていました。

3日目午前:インプロで大事なことを再確認

3日目の午前は、もう新しいツールを渡すのではなく、インプロで大事なことを再確認する時間としました。検閲をするのではなく、Spontaneousに。そして相手にいい時間を与える(Give your partner a good time)ことを大事に。

これらの考え方は初日の時点で伝えていましたが、1周(2周?)まわってより深く伝わる時間になったと感じています。

3日目午後:そして本番とふりかえり

3日目の午後はいよいよ本番でした。場当たりをして、すぐに開場時間となりました。「客入れ中の過ごし方は自由。自分にとって心地いい過ごし方をしよう」と伝えましたが、何人かの出演者たちは客入れ中から舞台の上で遊び始めていました。そこには「緊張を紛らわす」という目的もあったかもしれませんが、これから始まる舞台の自由さも表現していました。

そして本番が始まってからはあっという間でした。本番はランダムに選ばれたふたりずつが、「誰かが座っている。そこに誰かが入ってくる」という1日目よりも更に自由なスタートで始めるというものでした。しかし出演者のみんなは、そんな未知に対して勇気を持って飛び込んでいきました。

ショーの中で印象的だったのは「誰かが必要になったらすぐに出てくる」ことでした。喫茶店でオーダーをすればすぐに返事がやってきて、宇宙人を呼べばすぐにその集団がやってきて、信者を呼べばすぐにまたその集団がやってきていました。このようなチームへの信頼感があるからこそ、出演者は未知へと飛び込めたのだと思います。

呼ばれたらすぐに出てくる宇宙人たち

この日の発表は、これまでの中でも圧倒的にいいものとなりました。思わず「本番に強いなぁ……」とつぶやきたくなるほど、それぞれの勇気、ひらめき、そしてチームとしての信頼感が発揮されていました。

もちろんインプロに完成はないので、もっともっとよくなる可能性はあります。しかし、ひとまずこの日出せるものとしては満点だったと思います。僕はディレクター席に座りながら、とても良いショーを見ることができました。

ショーが終わったあとはじっくりとふりかえりを行いました。初日はソワソワしていた子たちが、しっかりと自分の言葉で語っている姿を見て、人の可能性を感じる時間となりました。そして改めて、それを引き出すインプロの力も感じました。

そして別れを惜しみつつ解散し、夢のような3日間は終わりとなりました。あとはそれぞれがこの学びを胸に日常に戻っていくのでしょう。

ファシリテーターとしてのふりかえりとこれから

さて、今回は「演劇って楽しい!」「自分には素晴らしい力がある!」という2つのヴィジョンを掲げましたが、これらは達成されたでしょうか?本当のところは参加者に聞いてみないと分からないところではありますが、少なくとも外から見ているぶんには達成されたように思います。

しかしその過程は直線ではありませんでした。殻を破る時もあれば、壁にぶつかる時もあって、紆余曲折しながら最終的になんとかたどり着いた、という感覚です。しかしだからこそ「ワークショップ」だったとも感じています。直線的にたどり着いてしまうのであれば、それはワークショップではなく講座です。

また、「関係性をファシリテートする」というチャレンジに関しても、紆余曲折を経て最終的に達成できたと感じています。ワークショップは初日からいい雰囲気で進んではいましたが、2日目までは「どこかまだ遠慮があるなぁ」と感じていました。

ふりかえってみると、ヴィジョンにしてもチャレンジにしても、最終的に達成できた理由は「舞台に立つ」ことが大きかったと思います。僕はまだインプロを学ぶ上で舞台に立つことの意味をうまく言語化できていないのですが、そこには僕が思っている以上に大きな力があるようです。

また、これはトッコさんとも話していたことですが、「3日間」という期間が絶妙だったと感じています。2日間ではここまで到達できなかったし、4日間になると全参加の参加者を集めるのが難しくなります。

思えば、僕はこれまで毎週のワークショップや、2日間のワークショップは企画してきましたが、3日間のワークショップはほとんど企画してきませんでした。今後はそういうワークショップを企画してもいいのかもしれない、と考えています。(また、今回のように講師として呼ばれることもウェルカムなので、ご興味ある方はお声がけください!)

それから最後に伝えたいのは、この企画は多くの方々の助けによって実現されたということです。まずはトッコさんを始めとするトッコ演劇工房に関わるみなさん、素晴らしくサポートしてくれたアシスタントのゆうゆ、参加者でありつつさりげなくいい雰囲気を作ってくれた大人のみなさん、そして勇気を持って参加してくれた学生のみなさん、発表会を温かく見守って頂いたお客さん、これら全ての方の協力で作られた時間だと思っています。関わってくれた全ての人に感謝を。ありがとうございます。

さて、そろそろ東京が近づいてきました。3日でつくる演劇ワークショップはひとまずおしまいですが、インプロの探究は続いていきます。

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内海隆雄
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