キース・ジョンストン『Impro for Storytellers』について僕が知っていること
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キース・ジョンストン『Impro for Storytellers』について僕が知っていること

内海隆雄

今週から『Impro for Storytellers』ワークショップが始まる。このワークショップはキース・ジョンストンの『Impro for Storytellers』を読み、実践するワークショップである。それにあたって、『Impro for Storytellers』とは何なのかについて少しまとめておこう。

『Impro for Storytellers』はキース・ジョンストン(Keith Johnstone)の第二の著書である。日本語にも翻訳されている第一の著書『Impro』がインプロの思想的な面を主に扱っているとしたら、『Impro for Storytellers』はより具体的な方法を主に扱っている。実際、『Impro for Storytellers』はワークショップの書き起こし部分がとても多い。

とはいえ、キース・ジョンストンのインプロは思想と方法が表裏一体であるため、ただのマニュアル本にはなっていない。僕はそれがこの本の面白さだと思う。(同時に、分かりづらさでもあるのだが。これについては後述。)

『Impro for Storytellers』の構成

『Impro for Storytellers』を開いてみると、その奇妙な構成に気づくと思う。『Impro for Storytellers』という題名でありながら、第一章はあまり関係のないシアタースポーツ(Theatresports)の解説から始まるからだ。

これは時代の要請によって書かれたものだと思う。キース・ジョンストンは今でこそ「インプロの父」として理解されているが、昔は「シアタースポーツの開発者」として理解されている面が大きかった。それほどシアタースポーツが行われている時代があった。(日本にインプロが入ってきたときも、「インプロが入ってきた」ではなく「シアタースポーツが入ってきた」という認識だったようだ。)

題名の通りインプロにおけるストーリテリングについて知りたいのであれば、第五章の「Impro for Storytellers」から読み始めたほうがおすすめである。今回のワークショップも第五章から始める。また、キース・ジョンストンのフォーマットであるシアタースポーツマエストロゴリラシアターの解説については、現在ではそれぞれ本が出ているのでそちらを読んだほうがまとまっていると思う。

『Impro for Storytellers』の読み方

さて、この『Impro for Storytellers』だが、英語が(というか文章が)分かりづらいというのがこの本を読んだ人たちの一般的な認識である。

『Impro for Storytellers』が分かりづらい理由には、キース・ジョンストンが(多くのイギリス人がそうであるように)皮肉屋であることもあるが、そもそもキース・ジョンストンのインプロが「逆説的(Paradoxical)」であることも大いに影響していると思う。

キース・ジョンストンのインプロでは、「こうしなさい」と言うことはあまりない。初心者に対してはそういうアドバイスをすることもあるが、キース本人が「初心者へのアドバイスを鵜呑みにしないように」と注意するくらい、「こうすればよい」というものはない。

それよりも、「多くの人はこうする(それがストーリーを止めている)」という言い方をする。そしてそれをやめれば起こるべきことは自然と起こると信じている。キース・ジョンストンは若い頃から東洋思想に傾倒していて、そのインプロは禅のような世界観を持っている。

だから『Impro for Storytellers』に書かれている例の多くは、悪い(ストーリーを止めている)例だったりする。例えば、第五章の「Action and Interaction」の項には次のような例がある。

Blatant refusals to be altered may occur in scene after scene (and the
laughter at the thwarting will reinforce the behaviour).
- Oh no! I shot you!
- Lucky you were firing blanks.
Or:
- The kitchen's on fire!
- [Bored voice] Yes. I started i t . . .
変化に対する露骨な拒否が次から次へと起こるかもしれない。(そしてその拒絶に対して笑いが起きることでその行動は強化される。)
「撃ったぞ!」
「空砲で良かったね」
あるいは、
「キッチンが燃えてる!」
「私がやったんだ。。。」

「笑いが起こる」と書いてあることから、一見すると良い例として書かれているのかと誤解しやすいが、実際にはストーリーを止める例として書かれている。そしてここでは便宜上「良い」「悪い」と書いているが、キース・ジョンストンはこれについて「良い」とも「悪い」とも言わないので、どのように受け取ったらよいのか分からないことが多い。

これは一般的な考え方からすると、ある種のもどかしさを感じるかもしれない。「結局、どうすればいいのかを知りたい」と思う人もいるかもしれない。しかし、先にも書いたとおりキース・ジョンストンのインプロは「それをやめれば起こるべきことは自然と起こる」である。

このような具合だから、多くの人にとって『Impro for Storytellers』は分かりづらいものだと思う。しかしその「分かりづらさ」を理解することがキース・ジョンストンのインプロを理解することでもあると思う。それはまるで禅を学んでいくようなプロセスである。

僕が大学生のときにゼミの仲間と『Impro for Storytellers』を読んだときは一筋縄ではいかなかった。今回もきっと一筋縄ではいかないだろう。その試行錯誤の旅を楽しんでいければと思う。そこに豊かな学びがあったりするのだから。

今週のワークショップの参加者枠は定員になりましたが、見学はまだまだ受け付けています。ご興味ある方はどうぞお申し込みください。一緒に試行錯誤の旅を楽しんでいきましょう。


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内海隆雄

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内海隆雄
株式会社フィアレスCEO/インプロアカデミー代表/群馬大学非常勤講師。インプロ(即興演劇)を通して、人や組織の可能性を引き出す仕事をしています。全国各地で200回を超えるパフォーマンス、1000回を超えるワークショップ経験があります。