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鈴木拡樹さんを通して感じる舞台の力


Sparkle最新号が「舞台の力」をテーマに特集を組み、その巻頭に鈴木拡樹さんを持って来たというのを見た時、さらにその写真が劇場を背景に撮影されたものだと知った時、もう既にこのnoteのタイトル通りの「力」を感じたように思う。

私が初めて鈴木さんを生で観たのは舞台弱虫ペダルで、この弱虫ペダルという作品こそ「生の迫力」を体感させられるもはや唯一無二と言っても過言ではない演劇作品だ。
役者さんたちが目の前で自転車競技レースに挑み、汗や涙を流しながらペダルを漕ぐ。休憩なしの3時間、本物のスポーツ観戦さながらに舞台上の選手たちを応援するような気持ちで見守る。鈴木さんは荒北靖友というライバル校の元ヤンな曲者キャラを演じており、それまで持っていた穏やかなイメージ(戦国鍋TVの森蘭丸に起因する)とは真逆の印象に驚いた。獰猛な「飢えた野獣」の中に、実は根はいいやつで仲間思いという一面も持ち合わせたキャラクター設定を実に見事に演じ抜いたと感じたし、それは鈴木さんが「常に役柄の人物に寄り添いたい、その人物の一番の理解者でありたい」と役作りをしている結果だというのを、後に知った。憑依させるでもない、なりきるのでもない、その芝居の作り方に惹かれ、鈴木さんのファンになるのと同時に演劇はもちろんのこと「2.5次元」の奥深さや「力」に魅力を感じ、あらゆる作品を観てきて今日に至っている。「原作には愛を持って接したほうがいい」というのは鈴木さんの言葉だが、個人的にここ数年の舞台化作品には大前提として原作へのリスペクトがあり、役者さんからは演じるキャラクターへの愛を感じる部分がとても大きく思える。
舞台弱虫ペダルを観る以前は私の中で「2.5次元」に対してどこか斜に構えた部分が少しあったように思う。(もっとも、舞台弱虫ペダルは「2.5次元」という言葉が浸透するよりも前からの作品であり、定着と共に代表作としてあげられるようになった面もあるが)例えば制作サイドが女性客に向けて「イケメンたちが君たちの好きな二次元キャラをやっていたら飛びつくでしょ」と狙ってきているような気さえしていた。実際そういう人も中にはいるかもしれないが、インタビューを読んでみたりするともっと情熱を持った人や思い入れが強い人の方が多い印象を受けた。それ以上に生で観た時の感動と衝撃がそれまでの考えを覆すほどだったように思う。当初は軽視していたのにも関わらずここまで入れ込んでしまうほどになったのも、やっぱり舞台の持つ力だと思わざるを得ない。

そういった流れの中で改めて原作力の強さや2.5次元作品の浸透力を思い知らされたのは、やはり刀剣乱舞シリーズに他ならない。ミュージカル版とストレートプレイ版を同時進行で展開していくというのも前代未聞であり、それがネルケプランニングとマーベラスといういわば2.5次元作品の双頭ともいえる企業によるもので、当時は本当に驚いた。
蓋を開けてみれば、ミュージカル版はミュージカルとの二部構成で刀剣男士がオリジナルの衣装に身を包み歌って踊るライブもあり、好評を博したし紅白出場にまで至った。ストレートプレイ版も重厚な物語設定や展開、後述するが殺陣の迫力などで人気を集め、ミュはミュのステはステの良さをそれぞれ伸ばし元々原作に対してファンが持っていた熱量をさらに高めたように思える。これもまた「舞台の力」だ。
私はミュージカル版(刀ミュ)も大好きなのだが、ここでは鈴木さんメインで話を進めたいためストレートプレイ版舞台刀剣乱舞(以降刀ステ)に関して書いていく。
初めにキャスト発表があった時の衝撃をいまだに忘れられない。三日月宗近が鈴木さんでさらに主演、その他メインキャストも観たことがあるかもしくは名前をよく聞く人ばかり。個人的には荒牧さんは他作品で観た剣舞が凄まじく綺麗だったのを覚えており、これを機に一気に人気が出そうだと思ったのを覚えている(実際刀ステ以降のご活躍は皆様の知るところだ)。それまで刀剣乱舞のブームは知りつつも手を出してこなかった私はすぐに原作ゲームを始めた。ゲームを進めていくうちに原作にはストーリーらしいストーリーは無いというのもわかり、どういう舞台作品になるんだろうとワクワクして迎えた観劇初日。ど肝を抜かれた。どの刀剣男士も「本物」だったからだ。殺陣は刀種ごとに変えてあるというのを後に知ったが、それこそ「本物の刀剣男士」と思わせる理由の一つだったんだと思う。このnoteは鈴木さんファンが書いているものなのでとにかく彼のことを褒めちぎる内容になってしまい申し訳ないのだが、とにかく鈴木さんの殺陣が凄かった。それまで殺陣を特別上手いと思ったことは実はあまりなかったのだが、刀ステ以降の鈴木さんはとにかく凄い。舞台刀剣乱舞虚伝燃ゆる本能寺においては、終盤、三日月の窮地を救った山姥切に対して「ずいぶん煤けた太陽だ」というエモいセリフが放たれるシーンがあるのだが、その直前の十体ほどの時間遡行軍を三日月だけで捌く場面。ここが、人ではない刀剣男士が「刀としての戦い」をまさに魅せる箇所である。よくよく観ていると、「目より先に刀身が敵をとらえ斬り、それに合わせて目が敵を捉え、身体がついていく」かのような動きをしている。円盤を持っている方、日テレプラスで観る方、最近発売したVR版を購入した方、その辺りが私のおすすめポイントです。よろしくお願いします。
余談だが、刀ステ以降の鈴木さんの殺陣の技術向上度には目を見張るものがある。今でこそ「殺陣が上手い」というのは鈴木さんの代名詞にもなっているほどだが、その成長を追って実感できたのはファン冥利に尽きることだった。劇団☆新感線「髑髏城の七人Season月-下弦の月-」の天魔王と「舞台どろろ」の百鬼丸を特に勧めたい。百鬼丸は殺陣の手数が1000手を越えたという伝説級のもので、弱虫ペダル以来の生の迫力を殺陣から感じた舞台でもあった。両手が刀になっている義手状態から、生身の腕を取り戻し刀を持つ状態になりリーチが変わったりなどしてとても見応えがある。

話を刀ステに戻す。先日Sparke公式さんが「刀ステ無料配信は祝祭のようだった」と記し、とても共感していた。刀ミュの一挙配信も含め、自粛期間の中で毎日夜8時に画面に向かい、SNSで感想を読みながら皆で楽しむ時間は至福だった。初めて刀ステに触れた人も多く、艦これおじさんと呼ばれる男性たちの感想や、家族みんなでハマったという人たちを筆頭とした中で刀ステの鬱展開ともいえる構成への新鮮な嘆きの声を聞けたりして楽しかった(悪)。
そういった刀ステ初見の人たちが多く来てくれた理由としては映画刀剣乱舞という作品がヒットしたのも大きい。映画は舞台よりもチケット代が遥かに安く、気軽に観に行ける。時間も100分とコンパクトだ。何より映画刀剣乱舞にもまた監督やスタッフからの並々ならぬこだわりがあり、それこそ役者に限らずあらゆる関係者陣が愛を持って接してくださっていた故のあの出来だと思わされる。もし身の回りに2.5次元を観たことがないという人がいたら、舞台の円盤を貸したりするのもいいが、映画刀剣乱舞の円盤を観せたほうが話が早い気すらする。ちょうどリバイバル上映が始まった映画館もあるのでいいタイミングだ。

観劇というのはとてもハードルが高い娯楽だと思っている。チケット代は高いし劇場へ行き2時間ほどじっと座って集中して観なければいけないし、マナーにも気を使う。それでも作品を観ながらいろんな感情を味わったり、観終わってカーテンコールで役者さんたちに拍手を送る瞬間を楽しんだり、帰路に着きながら余韻に浸ったりと、鈴木さんの言葉を借りるならば「チケット代を払っているのでプライスレスとは言えないのかもしれないけど、求めている以上のものを演劇からもらう」ことができる趣味でもあると思う。
これを読んでくださった方の中にまだ舞台を生で観たことが無いという人がいれば、是非劇場に足を運んでみて欲しいと切に思う。「この世の中が元気になったときは皆さんを劇場でお待ちします」と鈴木さんも言っている。
鈴木さんは、以前から「2.5次元は演劇を初めて知るのにいい登竜門になる」「日本のアニメカルチャーのように海外から評価される日本の演劇ジャンルの中の一つにしたい」と発信し続けている。今のご時世だからこそ、そんな前向きな言葉を支えに乗り越えていきたいと思う。夏に予定されていたアルキメデスの大戦という主演舞台が全公演中止になり、壇上にいる彼を観られる機会が減ってしまった。だが、きっとまた幕は上がる。拍手を送れる日が来る。
Sparkle vol.41掲載の劇場を背景にした鈴木さんの姿に、そんないつかの未来を見せてもらえた気がした。

長くなり恐縮であるが、以上が「私が鈴木拡樹さんを通して舞台の力を感じたこと」になる。また演劇を楽しめる世の中になれば、その「舞台の力」は増すだろうという確信がある。
最後に鈴木さんのインタビューより引用して終わろうと思う。

「いち早く全ての演劇が戻ってくるように、僕も願っています。僕も頑張って行きますので、共に頑張りましょう。」

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

#鈴木拡樹 #Sparkle41 #舞台の力

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