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慣れるより習え

今日のBGM

「はーい、持ち上げてー。そのまま30秒キープですよー」

インストラクターの指示に従って、よっこらせと持ち上げる。
わたしは普段鍛えているから、ふふんチョロいチョロいと思っていた。だが、徐々に筋肉がぷるぷるしてくる。

「はーい、あと10秒です。10、9、8……」

あと10秒? 30秒もたっていないのに、このつらさは何だ。つらすぎる。

「いいですね。皆さん楽勝のようですので、さらに10秒頑張りましょう。10、9、8……」

勝手に10秒追加される。楽勝なんかじゃない! しかし、ここであきらめるのはくやしい。こらえる。

「はい、ゆるめましょう」

ひゅるるーと息を吐き出す。10秒追加されたときは、死ぬかと思った。変な汗が出てくる。
こんなに衰えているとは思わなかった。毎日鍛えているのに。ショックだ。

「最近は長時間のパソコンやスマホで、若くても顔がたるんでいるひとが結構多いんですよ」

先だって、顔ヨガという顔の筋肉を鍛える講座を受けた。
戸棚を整理していたら、歴代の免許証が出てきたので並べてみたら、見たくない現実を見てしまった。
シワは、ごまかそうと思えば化粧やなんかで多少はごまかせるけれど、顔のたるみはそうはいかない。よく知らないが、その手のクリニックで切ったり吊ったりしないとたるみは解消できないんじゃないだろうか。

ずらりと並んだ免許証を見てたるみの危機感を覚えたわたしは、顔ヨガの本を買って読んだ。そして、お風呂に入りながら、表情筋のトレーニングをしてきた。いや、したつもりだった。インストラクターからリアルに手ほどきを受けると、自分はまったくもってできていなかったことにあわわとなる。

「上の歯を真ん中から左右4本、合計8本見せてニッコリしてくださいねー。アイドルの微笑みと言って、アイドルが写真を撮られるときにする笑顔です。一番かわいく見える笑顔ですよ」
顔ヨガのインストラクターはそう言うが、かわいく見える笑顔を30秒やるだけでも、わたしの顔はへとへとだった。口の周りの筋肉が痛い。

ふーん、歯を見せて笑うのが一番かわいい笑顔なんだ。
いつの頃からか、わたしは口を開けて笑わなくなった。
幼稚園のときの写真を見返すと、えらく屈託なく笑っている。
成長するにつれて、照れもあるのか、カメラを意識するとあまり笑わなくなってくる。それでも友達とキャッキャ言っているときの写真は、ちゃんと正しく笑っている。

きょうだいだったか、クラスメートだったか、だれに言われたのかすら覚えていないけれど、「笑うと口がでかい」と言われたことがあった。
そのひと言で、わたしは口をあけて笑わなくなった。たぶん中学2、3年生の頃だ。
それ以来、どうやったら口をあけずに笑えるかを研究した。そのおかげで、でかい口をあけずに笑えるスキルを習得するとともに、わたしの表情筋は急速に衰えていったと思われる。

四捨五入すれば五十になる歳であれば、衰えているのはしょうがない。それなりに受け入れられる。でも、イヤだけど。
それよりも、ちゃんとトレーニングしていたつもりが、まったくできていなかったことに、さらなるショックを受ける。毎日毎日わたしはお風呂の中で、あまり効果のないことをしてきたということだ。

本を読んだだけでは適切な加減がわからない。怠け者のわたしはつい楽な方へと流れてしまう。
回数をこなすことが重要になってしまい、気づかないうちに楽な方法にアレンジしてしまい、10回できたとか1分できたとか言って満足していた。

ガイドブックだけを読んでも、旅行はできない。だからひとはガイドブックを携えて旅に出る。
でも、ガイドブックだけに頼っていたら、行けなかったところや見られなかったものや食べられなかったものがあったかもしれない。
地元のひとやそこの出身のひとと縁があったら、安くてどのネタも新鮮なお寿司屋さんとか、言葉も出ないくらい美しい夕日が見られる場所とか、立派な市役所が建った裏話とかを教えてくれるかもしれない。

文字の情報ももちろんたいせつだし、そこから得た情報を自分のものにするための練習やその他の行動なしには、何も身につかないと思う。
でも、時には生身の人間に教わったり話を聞いたりすると、より効果的な方法とかコツなんかがわかることがある。すとんと腑に落ちるものがあることもある。

自分でコツコツやるのもいいけれど、ちょっとひとの教えや助言が入ると、その努力はよりよい形で成就するのかもしれないなーと思った今日のこの記事は、アイドルの微笑みで書いてます。ニカッ。





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