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ブルーシートの海原を【東京のりもの散歩~いちょうマークの車窓から13】

 恩賜上野動物園は1882年に開園した日本最初の動物園である。東京ドーム3個分の広さを誇る園内では、東園駅と西園駅とをモノレールが結んでいる(東園と西園間は徒歩移動も可能)。上野動物園モノレール……正式名称上野懸垂線は、1957年に開業した、鉄道事業法に基づく日本最初の営業用モノレールであり、交通局が運営している。
 JR上野駅の公園口から徒歩5分ほどで動物園の表門に到着。ジャイアントパンダやゾウ、ニホンザルなどの獣舎を横目に進んでいくと、モノレール東園駅が見えてくる。自動券売機できっぷを購入して係員に渡し、車両に乗り込む。なお、上野懸垂線では交通系ICカードや都営まるごと切符は使用できないので注意が必要である。
 始発から終点までは約300m。乗車時間わずか90秒の路線ながら、混雑時には長時間待つこともあるらしい。キリンやシマウマなどが描かれたカラフルな2両編成の車両は、懸垂式ゆえに空中を浮遊するような非現実感がある。「歩ける距離」と言ってしまえば身もふたもないが、正直なところ、多少並んでも乗りたい、気分の高揚する乗り物である。
 モノレールは東園駅を発車し、急なカーブをなぞりながら森林をかきわけるように進んでいく。路線と並行する左壁面には動物のイラストが描かれていて楽しい。そして公道(動物園通り)をまたぎ、西園に入ると、眼下には工事現場が広がっている。
 ところどころをブルーシートで覆われたその場所は、「パンダのふるさとゾーン」(仮称)として整備中とのことである。都の公式サイトによると、ジャイアントパンダの「よりよい飼育環境」「種の保存」「展示方法の改善」のため、「現在は東園にある施設を西園の旧子ども動物園跡地に移転し、飼育環境や展示方法を改善した新しい展示施設としていく予定」で、2020年の3月頃の完成を目指しているそうである。
 オリンピック開催を前にパンダの展示施設が一新され、今後はその上空をモノレールが浮遊するようになる、と思いきや、上野懸垂線は車両の経年劣化のため本年10月末日の運行をもって運休することが発表されている。今後については、車両の更新の有無を含め、都民の意見をうかがいながら検討していくとのこと。個人的な気持ちだが、ブルーシートの海原を眺めながら、「このモノレールに明るい未来を」と思った。答えが出るのは数年後。 

※都政新報(2019年5月10日号) 都政新報社の許可を得て転載