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ぴあサポマガジンvol.7「あなたの知らない駒場祭」


はじめに

 11月となり、早いもので2023年も残すところ2か月程度となりました。しかしながら、そんな記述で読者の皆様に寂しい思いを抱かせる意図は筆者には毛頭ございません。むしろ、読者の皆様に高揚感を抱いていただきたいと考え、この記事を執筆致します。
 長い前置きはさておいて、11月と言えば、東京大学関係者の多くがお待ちかねの行事がありますね。そう、「駒場祭」です。駒場祭とは、毎年11月下旬頃、東京大学駒場キャンパスにて行われる東京大学の学祭の1つです。最近数年間は、新型コロナウイルス感染症の影響により、駒場キャンパスでの来場者の入構が禁止あるいは制限されてきましたが、新型コロナウイルス流行前には、毎年平均して、2日間でのべ10万人が来場する大規模なイベントとなっておりました。
 そんな駒場祭の開催を間近に控えた今回は、駒場祭の歴史や魅力について、思う存分紹介させていただきたいと思います!

駒場祭はいつ、どのようにして始まったのか?(駒場祭の起源)
 

 駒場祭は、第2次世界大戦前、旧制第一高校時代に行われてきた「紀念祭」というイベントに由来します。旧制第一高校は現在の東京大学教養学部前期課程の前身にあたる学校で、主に、東京帝国大学をはじめとする帝国大学に進学する学生が所属する学校でした。紀念祭自体は、旧制第一高校の学校祭ではなく、旧制第一高校の寮を中心に行われていた寮祭でした。
 第2次世界大戦終結後、1949年に新制東京大学が発足し、教養学部が新設されると、駒場キャンパスでも学祭を実施しようとする気運が学生の間で生じ、翌1950年、「駒場祭」として学祭の開催が実現しました。ここに今に至る、五月祭と並ぶ東京大学の学祭の一つ、駒場祭の歴史が始まったのです。


駒場際の歩み

 誕生間もない1950年代頃の駒場祭は、紀念祭の伝統を引き継いでいました。紀念祭時代から行われていた「寮デコ」(駒場寮に装飾を施す行事)、「仮装行列」(仮装して渋谷まで練り歩く行事)といった企画が行われていました。今から半世紀以上前の駒場祭の雰囲気を、現代に生きる者として味わってみたく感じます。
 1960年代に入り学生運動が活発になると、駒場祭も学生運動の社会的な影響を受けました。展示の内容も社会派企画が増加し、日米安全保障条約に関する談義をしながらコーヒーを飲む「安保」喫茶という喫茶店が模擬店として開かれるなどしていました。東京大学本郷キャンパスにて安田講堂事件が発生した1968年には、駒場キャンパスにある教養学部において、学生が無期限ストライキに入り、駒場祭委員会は大学側からの公認を得ないまま自主管理という形式で駒場祭を開催することとなりました。このように、1960年代の駒場祭は、当時の日本社会の政治的混乱の影響を直に受け、混沌としつつも、開催自体途絶えることなく次の時代へ継続することとなったのです。
 学生運動が落ち着いた1970年代から1980年代にかけて、駒場祭は大衆化が進んだと言われています。前述の「安保」喫茶のように、模擬店企画拡大の傾向は1960年代頃から見られましたが、1970年代になり模擬店企画が本格的に増加しました。模擬店のみならず、演劇の企画も活発に行われるようになったのもこの時期でした。現在も駒場キャンパスに残っている「駒場小劇場」にて、文三劇場と呼ばれる文科三類の学生中心の演劇が活発に実施されるようになりました。このような歴史的事実を通じて、「駒場小劇場」というなじみ深さを感じる学生が多い場所の歴史と息づかいを感じますね。
 時代は昭和から平成に入った1990年代から2000年前後にかけて、駒場祭はそれ以前と大きく性格を変えるようになりました。それまで駒場祭委員会の収入源は駒場祭に参加する団体から徴収する参加費とパンフレットに掲載する企業が納入する広告収入でした。主たる収入源は後者でした。しかし、1990年代前半、バブル景気が崩壊すると、企業からの広告収入が減少するようになり、駒場祭委員会の財政が打撃を受けるようになりました。そこで、駒場祭委員会は、参加団体からの参加費の徴収というそれまでの運用を改め、新入生が入学時一律に運営費を納入するという仕組みが導入されました。こうして、学生一人一人が駒場祭の運営に関与しているという自覚が強化され、駒場祭は「一部の有志による行事」から「大半の新入生が参加する行事」へと性格を変えることとなったのです。
 21世紀に入り、駒場祭は2023年現在に至る新たな取り組みを開始するようになりました。企画の参加登録が紙媒体による登録からウェブシステムによる登録に変化したのもこの時期です。ホームページやTwitter(現、X)の運用もこの時期に始まりました。現在、自明だと思われているウェブシステムを用いた参加登録やホームページの運用がこの時期に始まったという起源を知ることも感慨深いものがありますね。
 2020年に新型コロナウイルス感染症の感染が拡大すると、駒場祭もその影響を数年間にわたって受けました。2020年度、2021年度、2年連続で駒場祭はオンライン形式となりました。イベント参加希望者が駒場キャンパスに来場することはなく、一部のイベント主催者のみ駒場キャンパスにて運営しているイベントをzoom等のビデオ会議システムを通じてオンラインで配信し、イベント参加希望者は配信されたイベントに参加するという形が取られました。昨年度、2022年度の駒場祭は史上初のハイブリッド開催となりました。対面では入構制限を設けて、対面で駒場キャンパスに赴けない人々に対してはオンラインで企画に参加できるような運用を採りました。オンライン開催やハイブリッド開催という駒場祭史上初の取り組みが2020年度から2022年度までの3回にわたって行われました。様々な物理的制限を伴ったことは事実ですが、オンライン開催とすることにより遠方の人々のイベントへの参加が容易になるといったメリットも生じました。
 今年度、2023年度の駒場祭は4年ぶりに駒場キャンパスにて開催されることとなります。今年度の駒場祭ではどのような物語が刻まれるか、楽しみですね。そして、時代と共に移ろい変化してきた駒場祭が、今後どのような変化を遂げてゆくのか、私たちの目で見届けて参りましょう!

今なお語り継がれる駒場祭キャッチコピー


 
ここでは、今なお語り継がれる歴代駒場祭キャッチコピーの中からとりわけ紹介したいキャッチコピーを、筆者の独断と偏見に基づき2個、紹介します!(なお、この2個の並びは決してランキング形式とはなっておりません。)あくまで筆者の独断と偏見に基づくものですので、なぜこのキャッチコピーが選択されていないのかといった点はどうかご容赦くださいませ。

①ヒト ヒト コマバサイ ヒト(1983年、第34回駒場祭)
 「ヒト」という語から想起するものは人それぞれ異なるのではないでしょうか。「ヒト」を仮に「人」と解釈するとして、来場者の「ヒト」で溢れる駒場祭、多くの学生の「人(ヒト)々」によって準備されてきた駒場祭といった解釈が可能ではないでしょうか。また、「ヒト」を「人」以外の語で解釈する場合、様々な行事が行われている駒場キャンパスの「日と(ヒト)」日の間を縫うように開催日が設定された駒場祭(流石に強引な解釈ですね)、「火(=燃えさかるような情熱により駒場祭が実行されることの比喩)と 非(=非日常)と 駒場祭 人(=駒場祭に関わった全ての人)」というような、様々な解釈が想起されるのではないでしょうか。
 また、「ヒト」という同音語を複数重ねることによって生み出される独特のリズムも、このキャッチコピーを魅力的なものにしていると思われます。
 多様な解釈に開けた語と独特なリズムが、このキャッチコピーの受け取り方を各人各様なものとしています。ひいては、そのような受け取り方の多様性を認めるキャッチコピー自体が駒場祭の多様性の象徴となっているとさえ言えるかもしれません。

②コマパズル(2008年、第59回駒場祭)
 筆者はこのキャッチコピーに取り立てて惹かれました。客観的な根拠がないため筆者の勝手な思い込みであるかもしれませんが、この短いフレーズの中に様々な技巧やメッセージを読み取れるように思われるからです。
 まず、根本的な技巧として「駒場(こまば)」と「パズル」を掛け合わせた上で、「駒場(こまば)」の「ば」を「パ」に変換して「コマパズル」という1つのフレーズに仕上げたことに魅力を感じます。
 次に、「コマパズル」というキャッチコピー自体、分解できる単語として「コマ」と「パズル」という2単語を選択した点に作成者の独創性を感じます。「コマ」は文字通り「駒場」の「駒」かもしれませんし、あるいは遊び道具としての「駒」、はたまた大学生であれば比較的連想しやすい授業の時限を表わす「コマ」かもしれません。そのような人それぞれ想起する「コマ」が「パズル」のように複雑に組み合わせられる状況は容易に想像できるのではないでしょうか。そして、その状況が、①にも通ずる点ですが、駒場祭の多様性、多面的性格を表出させるように思われます。
 このキャッチコピーは、2単語の掛け合わせという技巧及びそれぞれの単語の選択という点に作成者の創意工夫が感じ取れるキャッチコピーとなっています!

むすびにかえて-駒場祭参加のススメ


 
駒場祭は時代と共にその性格を変化させながら、その本質は維持されてきたように見受けられます。その本質とは、学生が主体であるからこそ、多くの学生にとってその後永く記憶に残る行事になるという点です。駒場祭を経験した東京大学卒業生の中で、駒場祭に際してメッセージを寄稿するなどのことを行う点がそのことの証左になっていると思われます。
 そんな駒場祭に直接足を運ぶことで、本マガジンという筆者の拙文だけでは伝わらない駒場祭の魅力や息づかい、雰囲気を読者の皆様お一人お一人で感じていただけますと、本マガジン執筆の目的は達成されたと言えるでしょう!

【参考書籍・WEBサイト】
キミの東大「東大ことはじめ 知っておきたい基本情報 駒場祭・五月祭」2021年4月7日(2022年11月最終更新)〈https://kimino.ct.u-tokyo.ac.jp/kotohajime/campus-festival/
五月祭の歴史・駒場祭の歴史 - YouTube〈https://www.youtube.com/@user-zl2xi9bu8u
駒場祭情報館〈https://komasai.info/
駒場祭情報館「駒場祭史」〈https://komasai.info/category/history/
駒場祭情報館「第71回駒場祭企画(70周年記念企画)」〈https://komasai.info/71history/
駒場祭テーマ一覧〈https://komasai.info/theme/theme-of-komaba-festival/
東大新聞オンライン「駒場祭が見た70年 伝統ある学園祭の歴史を振り返る」2019年11月20日〈https://www.todaishimbun.org/komabasai70years20191120/
東大新聞オンライン「【サークル奮闘記】10万5000人が来場するイベントを100人で運営! ~ 駒場祭委員会」2014年4月15日〈https://www.todaishimbun.org/komasaiiinkai/

【筆者紹介】
・法学部第1類(法学総合コーズ)3年
・汁のない麺類(焼きそば、汁なし担々麺、まぜそば、油そば)をこよなく愛する麺人です。今年の駒場祭でも、そのような麺類を実食できる模擬店が出店されないか、密かに楽しみにしております。

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