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tacica 8th album「singularity」レビュー             〜"singularity"は特異点となり得るか〜

気がつけばリリースから早くも1週間が過ぎてしまった。聴けば聴くほど深みが出てくる。イヤホンが耳から離れないのだ。1日中聴いていても飽きない。いつしか日常の中に溶け込んでいた。
そんなこんなで、漸く書き始める。
 

曲目

  1. Dignity

  2. 冒険衝動

  3. BROWN

  4. stars

  5. space folk

  6. Rooftop Hymn

  7. デッドエンド

  8. アロン

  9. GLOW

  10. ダンス 

  11. ねじろ

  12. 人間讃歌 

※太字は新曲。  
※CDは7月10日から始まるツアーの物販にて販売される。(後日ネット通販でも販売)

レビュー

singularityとは特異点という意味である。
視聴会の際にGt.Vo.猪狩氏が、「ここ数年の状況下においての環境での制作や事務所の独立など変わらざるを得なかった、だから特異点という名前にした」というような意味合いを語っていた。 
tacicaはこのような状況の中においても、コンスタントにライブやイベントを行なってきた。勿論、中止や延期になったライブも多くあるが、リベンジも行なっていた。その中で猪狩氏はtacicaとしてではなく、猪狩翔一として弾き語りのライブをいくつか行なってきた。その中で披露されていた楽曲のいくつかが今回のアルバムに盛り込まれている。その為、リリース前にも関わらず知っているという曲もあった。

しかし、Ba.小西氏をはじめとしたバンドのアレンジが加わり、全く別の曲のように生まれ変わっているのである。
1曲目のDignityもまさにそのひとつである。3分強の曲であるが歌自体は1分30秒程で終わり、鍵盤をメインに後奏が鳴り響いている。
2曲目冒険衝動は既発の曲であるが、小西氏のベースが光るイントロが追加されている。ライブの際によく演奏していたもので、Dignityからの余韻を感じさせるようで尚且つ、歌が始まるまでの高揚感が湧き上がってくる仕上がりになっている。
続く3曲目BROWNも冒険衝動から繋がっているかのように歪んだ音が鳴り響く。歌詞はtacicaらしい生きていくことのフレーズが光る。

歩ける ほら大丈夫 多分

BROWN

"頑張れ"とか"絶対出来る"とかそういう断言、断定した言葉ではなく"多分"などという曖昧な言葉を使い、寄り添ってくれるように演奏するtacicaが好きだ。

4曲目starsも既発曲である。鍵盤がメインになっている壮大なイメージの曲。やっぱり猪狩氏の声は唯一無二と思える曲。イントロなしで、猪狩氏の歌声が入ってくるspace folk。発売前にも関わらず、2020年に東名阪で行われたアコースティックライブのタイトルになっていた。ウィンドチャイムも入り、お洒落さを醸し出す。

折り返し地点に入るのがRooftop Hymn。「屋上の讃歌」ということになるが、その名の通りスタジオの屋上で撮ったという曲。子供の声、カラスの声、車の音などの環境音がそのまま入っている。
次のデッドエンドは6月1日に先行リリース&MV公開された曲。視聴会の時に、「タイトルこそ"行き止まり"だけど、こういう状況で暗い曲はいいかな」と語り、鼓舞するような曲。MVを見た多くの方は恐らくこのロケ地を探して、歩きたくなること間違いなし。
8曲目アロン。トリッキーな構成で初聴では驚いた。ライブで聴くのが楽しみ。アロンは"alone"から来ているそう。
9曲目GLOW。今回のアルバムの中では割と暗めな印象の曲。最後の声が重なる部分は"Mr."やFool's Gold"を彷彿とさせる。

しっとりとしたアコースティックギターと珍しい女性コーラス入るのはダンス。この曲も元々弾き語りで何度も演奏していた曲。こちらのコーラスは何と橋本絵莉子。ステイホーム時に作った際に歌を入れて貰ったそう。だからこそtacicaとして出すことに抵抗感があったようなのだが、小西氏からお墨付きをいただき、tacicaとして出すことになった曲。ちなみにお子さんも参加しているそうです。
続いてねじろ。既発曲。昨年、延期に延期を重ねて開催された結成15周年ライブ「象牙の塔」で初披露された曲。

どうやら息するにも 金がいるみたい    
                      どうやら何は無くとも 息はするみたい

ねじろ

これ程までにストレートな歌詞はあっただろうか、と思うくらい心を揺さぶるような歌詞。プロデューサーである野村陽一郎氏は「この詩は猪狩君にしか書けない」と絶賛。

ラストを飾るのは人間讃歌

枯れた花の名を思い出すだろうか       消毒液の匂いで 

人間讃歌

ここ数年の状況を表すようなフレーズが不思議と自然に馴染んでいる。マイナスなイメージが多い近年の状況下で歌われるtacicaによる讃歌。バラードな雰囲気であるが、サイケデリックな面も。ちなみにRooftop Hymnで歌われている一節はこの曲から。

総合的に

前作"panta rhei"から約3年振りのアルバム。あの時から状況は大きく変わった。マイナスなイメージが溢れる毎日。色々なことが制限され、思うように動けなかったことも多くあった。それでもtacicaはこのアルバムを作り上げてくれた。
tacicaは"生きること"をテーマにしている。
特に今回のアルバムは全人類が同じような目に合ったといっても過言ではない、この経験からか今までよりも共感出来ること、ストレートで明るい曲が多い印象。なので、ノンタイアップなアルバムではあるが、tacicaを初めて聴くという方にもオススメできるアルバムなのではないかと思う。

tacicaにとって"特異点"となり得るアルバムを聴いた皆様の"特異点"にもなり得るのではないか。

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