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イメージを体現するには~ことば、身体、学びを読んで~

子どもたちへの運動指導は、オノマトペや模倣(動物や物質)を用いるのが効果的であると考えています。

近頃は、大人たちを対象にしても効果的なのではと思い、コーチングやティーチングに活用にしています。


「サー・タンッ・パッ・トン」


これ、どんな運動のオノマトペであるかわかりますか?





正解は、跳び箱の開脚跳びです。
サーっと助走し、タンッと踏み切る。
パッと手を着いたらトンっと降りる。



開脚跳びをしたことのある人、見たことのある人ならばイメージしやすいのではないでしょうか?


では、運動過程を文字起こしするとどうなるか。


跳び箱に向かって走り、踏切台を両足で踏み切って手を跳び箱に着きながら開脚し、降りる瞬間に脚を揃えて着地する。


分からなくはないですね。
しかし、詳細が足りないので肉付けしましょう。


跳び箱に向かって「激突しないくらいの丁度良い速さで」走り、両足で「強過ぎずかつ前方斜めへ跳び上がれるように」踏み切って手を「パーにして叩きつけるのではなくカラダを支えるように」着きながら「跳び箱にぶつからないように」開脚し、降りる瞬間に脚を揃えて「軽く」着地する。


何ともややこしいです。


運動は細分化すればするほど要素が増え、体現するのが難しくなります。

「サー・タンッ・パッ・トン」
は加減や動作を端的に表したオノマトペとして機能し、運動の理解を早めているのではないでしょうか。


かと言って何もかもをオノマトペで表したり、相手の経験知にない模倣を取り出して与えても伝わりません。


常々考えているのは「この人にとって、どの言葉を使えば伝わるか」です。



私がランニング指導でよく使う表現は

「空き缶を潰すように上から脚を落とす」
「ゴム鞠になったように弾む」
「宙から糸に吊るされているようにゆるませる」
「つむじから尻の穴にかけて一本の串を刺されているかのように姿勢を保つ」
「地面が動いており、その上をただ弾むように」

etc.

これはカラダの動かし方・保ち方を何かに置き換えた表現です。

「スーッ」
「タンッ」
「ポンッ」

などのオノマトペは、運動から感じられるイメージを表したものになります。

共通して、私は軽さや柔らかさを持った感じを走りで表現させたいのだとを客観的に見て取れます。


「つむじから尻の穴にかけての一本の"串"」

これを串ではなく、"棒"に変えたら、皆さんならどうイメージを持たれるでしょうか?

私は、やや硬く動きが制限されたものに感じるのです。

"串"を選択した理由は
居酒屋で焼き鳥をシェアするときに、串を回して肉を外す
その経験から「芯として機能しているが、いくらか自由が効くもの」
として適用できると考えるからです。


けれど、居酒屋に親しみのない子どもたちにも伝わるのでしょうか?
もちろん、焼き鳥を食べたことくらいはあるでしょうが、考慮する必要はありそうです。


オノマトペも同様です。

走ることを指導する際、接地した瞬間に「ポンッ」と弾むようにと伝えることがありますが、これにも色々なシチュエーションが考えられます。

・コルクを抜く音
・肩を叩く音
・ポップコーンが弾ける音

など、物が落ちて跳ね返る以外の方が多い擬音かもしれません。


こちらが言葉にしやすい
=相手がわかりやすい、イメージしやすい

とはならないと念頭に置かねばなりません。


私は走ることを指導しているのですが、至極単純な動作だけど、最も難しいと考えているのが
もも上げ です。

もも上げ、皆さんならどう表現しますか?
また、どのように解釈してもも上げをしていますか?

正解はないと思うのですが、
この解釈の別れ目が「走りの感じ」の差を大きく生んでいると考えています。


他者が動きで感じたことや表現したものを否定し、矯正するのは避けるべきであり、
体現したことや言葉にしたことをそのままに受け止め、新たな表現方法を提案するのが指導者の使命であると考えます。

そのために動きや感じを表現する語彙やイメージを豊富に持つことが、我々には求められると思います。


つまるところ、イメージを体現するには
・様々な現象を見・触り・体験する
・その感じを言葉にしてみる
が不可欠であると考えます。
そこから続くのが、獲得した表現をカラダの動作に置き換えてみるといった作業です。

走るという身一つの単純動作でも、無限に表現の仕方があると思うと、面白いですね。

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