《YURIは世界共通語》6AM合同会社の藤代あゆみさんに「百合文化の海外事情」を聞いてみた【インタビュー企画 #6】
サムネ提供: 6AM合同会社
取材・構成: 銀糸鳥(@DeeperthanLies)
日本の百合文化は、世界でどのように受容されているのだろうか。藤代あゆみ氏へのインタビューはそんな興味から始まった。
国際唎酒師・日本酒学講師・酒匠・焼酎唎酒師の四つの資格を持つ「日本酒オタクのあゆみせんせい」。そんな肩書きからは想像もつかないが、藤代氏は百合文化にまつわる複数のWebサイトを共同運営し、国境を越えて百合文化を広める活動・事業に取り組む篤志家でもある。
ファンコミュニティサイト「YURI HUB」では、百合作品の翻訳から配信、ファンとのコミュニケーションなどを手掛け、百合専門メディア「THE YURI TIMES」では、英語版の百合漫画の情報のまとめや、作家へのインタビュー記事など、英語圏のファンに向けて確かな情報を発信している。
さらに「タイGL.com」では、GLドラマ「GAP the series」の原作小説『ギャップ・ピンクセオリー』(チャオプラノイ著)の日本語訳を配信。書籍化クラウドファンディングは開始50分で100%を達成、現時点で300%を超える支援を受けている。日本の百合を世界に発信するだけでなく、今注目される「タイGL」の魅力を日本国内に向けて発信中だ。
昨年から「6AM 合同会社」を立ち上げ、経営者として活動する藤代氏。百合との出会いから現在の活動に至るまで、その知られざる軌跡を聞いた。
藤代あゆみ
平成元年、東京生まれ。世界に10人しかいない、国際唎酒師・日本酒学講師・酒匠・焼酎唎酒師。海外勤務の経験を生かし、世界20カ国以上の人に向けて日本酒の素晴らしさを広めつつ、百合漫画の魅力を伝える筋金入りのオタクとしても活躍中。著書に『推し英語入門』(アルク)、『日本酒オタクのほろ酔い英語』(アルクEJ新書【電子書籍】)がある。
百合との出会いは"雲の上"
―― まずは、藤代先生の百合との出会いについて教えてください。
たぶん2018年じゃないかなと思います。当時はシンガポールを拠点に仕事をしていて、行き帰りの飛行機では漫画を読んだり、動画を見ることが多かったんですよ。もともと高校生のときに生徒会役員だったので、「生徒会の子の話がある、懐かしいな」と思って、たまたま見たアニメが百合でした。
―― それまでは「百合」という単語も知らなかったんですか?
単語は知っていたんですけど、当時はまったくオタクじゃなかったし、私、パリピだったんですよ。
―― パ、パリピ…?
海外にもいたし、とにかく英語コンテンツが生活の全てで、外国のものばっかり見ていました。でも、飛行機で百合アニメを見て、百合って面白いなと思って。2019年頃にはもう百合にどっぷりでした。
百合以外のお仕事も
―― 普段は日本酒関連の仕事もされているんですよね。
そうですね。執筆のお仕事が目立ちますが、国際唎酒師としての活動もしています。もともと貿易関連の仕事をしていたので、その過程で日本酒の資格を取得しました。
―― 貿易関連の仕事というのは?
日本各地の名産品を海外で広める仕事です。モノが動くので、輸出入にはじまり、物流や営業、マーケティング、広報、なんでもやりました。その時にやっぱり、国際唎酒師の資格を持っていると自分が何者かを説明しやすいので、取得してよかったです。
―― 現在は百合のお仕事もされていると思うのですが、それぞれの仕事のバランスはどうなっているのでしょうか?
バランスかぁ…。気持ち的には百合が99.99%くらいですけど、実際のところはそれぞれ同じくらいの割合でやっていますかね。
犬井あゆ先生との出会いは「百合カフェ」
―― 「THE YURI TIMES」「YURI HUB」「タイGL.com」の三つのサイトを運営されています。
「YURI HUB」と「タイGL.com」は企業同士の契約や、作家さんとの契約に関わるので、法人化しています。もう一つの「THE YURI TIMES」は事業としてはやらずに、趣味のサイトとして運営していますね。
―― 「THE YURI TIMES」はいつ頃から始められたのでしょうか?
2019年ですね。私とビジネスパートナーの2人で百合関連のメディアサイトとして立ち上げて、公式で英語版が出ている百合作品のリストを作ってたりしていました。だけど、しばらくしたらリスト化し終わっちゃって。200作品くらいだったかな。
―― 意外と少ないですね。
そうなんですよ。もうリスト化し終わっちゃったから、発信することが無くなっちゃったな、と思ったんです。だけど、同人作品ならまだある、という話になって。百合カフェで知り合った作家さんたちと話をしているうちに、作品を翻訳させていただけることになり、2020年末に立ち上げたのが「YURI HUB」でした。
―― それぞれの先生とはどのようにして知り合われたのでしょうか?
私、「百合カフェ anochor」の店長、ちびこさんと20歳の頃から飲み友達だったんですよ。さっきも言ったとおり2018年に百合にハマったんですけど、それまでちびこさんはただのお酒おごってくれる人だと思っていて(笑)
「anchor」が百合カフェになるときに、犬井先生が店舗の準備を手伝いに来ていたんです。「どうしてこんな有名な百合漫画家さんがここにいるの!?」と、初めは緊張していたんですけど…。準備をしているうちに仲良くなり、そこから、他の先生とも仲良くさせていただくようになりました。
急成長するタイGL市場
―― 「THE YURI TIMES」「YURI HUB」に続き、昨年7月には「タイGL.com」を立ち上げています。
2021年くらいから、日本でも一緒に何かしようね、という話はタイ側としていたんです。だけど結局、YURI HUBや、2022年に出版した単著の『推し英語入門』(アルク)が忙しかったりして、去年になってしまいました。
―― タイに注目したのはどういうきっかけは何でしたか?
ある日突然、タイにある百合専門の出版社「lily house.」の担当者さんから「犬井あゆ先生の作品をタイ語にしたいです」と連絡が来たんですよ。そこから彼女たちと交渉して、いろいろ計画していくことになりました。
―― 「lily house.」というのはどういう会社なんですか?
現地の作家さんの漫画を出版したり、日本の漫画をタイ語に翻訳したりしている会社ですね。書店でもあり、タイの百合好きで知らない人はいないほど有名です。創業されたのが2020年で、社員の人たちも20代の子たちが中心で若い。私たちはタイ語翻訳の窓口として、作家さんにお声がけをしている形です。
―― 現地の作家さんは、どういった百合作品を描かれているのですか?
何でもありますよ。学生もあるし、社会人もあるし、歳の差もあるし、それこそR18のモノもある。ただ、日本より小説の割合が多い気はします。
―― 小説の方が多いんですね。
韓国とか中国とかもちょっと似ているんですけど、タイって、ネームを描く人、イラストを描く人、ストーリーを考える人というのが全て分業制になっていることも多いんですよ。だから、小説家さんが小説を書いたあとに、コミカライズとかも自分で発注できちゃうんですよね。もうコミカライズ専門の漫画家さんみたいな方がいて。
―― 日本とはコミカライズに対する感覚が全然違う。
そうですね。分業制の場合だと、作業がすごく早いし、作品もどんどん出る。「lily house.」さんは始めた当初200タイトルだったのが、一昨年が500で、昨年は800を超えたと聞いています。逆に言うと、日本の漫画家さんは全部自分でやるから凄いと思いますよ。
翻訳者のプラットフォームを作りたい
―― 「タイGL.com」の開設にあわせて、「6AM 合同会社」を法人として立ち上げられています。
会社を作りたいという話は前から言っていたんですけど、一昨年の4月くらいから本格的に取り組みはじめ、昨年6月に設立しました。それまで翻訳の仕事をしてくれていたYukikoという社員がいるんですけど、彼女にも前いた会社をやめてもらって。入社したその週に、さっそくGLドラマ「GAP the series」の日本イベントに取材に行ってもらいました(笑)
―― まさに究極のOJTですね(笑) 社員さんは何人くらいいるんですか?
従業員は2名ですが、フリーランスの方にも手伝っていただいているので、コアで動いているのは10人くらいです。「YURI HUB」や「タイGL.com」ではたくさんの作品を取り扱いさせていただいているので、プロジェクト単位の登録で数えると50人は超えています。会社は、中学一年生の頃からずっと親友で、現在はビジネスパートナーになった子と設立していて、日本人はほとんどいないですね。
―― 日本人の方が少ないんですね。
そうですね。イギリス、アメリカ、カナダ、フィリピン…。世界中にバラバラに人がいて、皆さん日本の百合文化に詳しい人たちです。だから、私がすごいんじゃなくて、それこそYukikoとか、私の周りの人がすごいから、こういった活動をすることができています。
―― 一流の作家さんから作品を預けてもらえるくらい、実力のある方が関わられているのですね。
そう思っていただけたら嬉しいです。だけど、それだけの技術があるのに、漫画の翻訳をする人はほとんどプロでやっていないんですよ。プロとしてやれるぐらいの技術を持っているのに、仕事が無いから、海賊版で無断翻訳をしているんです。
でも、私はお金を払って仕事にしてあげれえば、無断でやる意味がなくなると思ったので、足を洗ってもらっています。
―― 無断翻訳の背景には、漫画翻訳の市場が整備されていないという経済な事情もあるわけですね。
一言では片付けられない、難しい問題ですよね。だからこそ、私たちはビジネスに対してはシビアで行きたいと思っています。翻訳者などの人たちにちゃんとお金を払えるシステムにしないと、結局、海賊版と同じことになるからです。最終的に巡りめぐって、作家さんに還元されないと意味が無いと思っています。
―― 海外でも作品が売れるようになれば、作家さんにとっての利益にもなる。
そういうことです。日本の人口の10倍くらい英語話者人口がいることはもちろん、英語にするだけで、他の言語に翻訳されるチャンスも一気に広がります。色々な言語に翻訳されれば、一つの作品が世界中の読者に読んでもらえる、楽しんでもらえるんです。
―― マイナージャンルでそういう稼ぎ方ができるようになると、未来が明るくなりますね。
将来的には、翻訳者になりたい人たちをイチから育成できる仕組みのようなものを作ろうとしています。いったんプラットフォームさえ作ってしまえば、無断でやる人を限りなく減らすことに繋がると思います。私たちは「6AM 合同会社」のビジネスを通じて、すべての人が豊かに楽しめる未来も作りたいと考えています。
あなたにとって百合とは?
―― そろそろ終了のお時間になりました。最後に恒例の質問をして、インタビューを締めたいと思います。
はい。
―― それではお聞きします。藤代先生にとって、百合とは何ですか?
私にとって百合は「世界平和」です。
―― なるほど。あれ、百合カフェanchor の店長さんからも、同じ答えを聞いたような気が…。
いやだって、私が「世界平和」って社長のゆっこさんに言ったのを店長さんが聞いて、という話ですからね。私が本家です(笑)
―― ああ、なるほど(笑)
なぜ、百合が世界平和かというと、百合という共通の好きなものを通じて、みんなが仲良くなれるからです。言葉が違っても、国や地域、肌の色が違っても、百合が好きって言ったら急に友だちになれるんですよ。
―― 仲良くなれば、いっしょに事業もできる。
タイもそうだし、シンガポールもそうだし。イギリス、アメリカ、カナダ、フィリピン…これだけの国で、外国人を含めて、バラバラの文化と価値観の中でやっているわけですから、やはり好きなものが一緒というのは大きいです。
―― 藤代先生のお仕事は、まさに平和貢献活動なのかもしれませんね。
百合のおかげです。何度も言うように、私一人がすごいんじゃなくて、困ったら助けてくれる人が周りにいるだけなんですけどね。これからも感謝の気持ちを伝えていきながら、みんなと頑張りたいと思っています!
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