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「待ち」の美学〜改札前、いかに”クール”に佇むか〜

一日の中にはいろいろな「時間」があります。
食べる時間、移動する時間、授業を受ける時間、友人と話す時間、読書する時間、そして寝る時間・・・
この中で最も退屈な「時間」はなんでしょうか。

私にとってそれは「待つ時間」です。共感してくれる人も多いと思います。

「待つ時間」、それは無限にも思えるほど長いものです。
その時間、私はいつもこんなことを考えています。


ーいかに”クール”に待つか。


"クール"に待つこと、それは読んで字の如く、カッコよく待つということです。“クール”にゴールなどありません。つまりこれは、終わりなき不断の闘いなのです。

ここで最も重要になるのが、何をして待つか。

想像してみてください。

あなたはもうすぐ恋人になりそうな友人との待ち合わせに向かっている。新宿での乗り換えを失敗し、5分ほど遅れてしまった。もうすぐ恋人になりそうな友人にその旨を伝え、あなたは走る。華麗にパスモをタッチする。人混みの向こうに、もうすぐ恋人になりそうな友人の姿が見える。あなたは高鳴る気持ちを抑え、呼吸を整える。もうすぐ恋人になりそうな友人まで10m、5m、4m、3m…。2mまで近づいてあなたはハッとする。彼/彼女の右手にはiphoneが握られていたのであるー


Nope. Nooooooooope!
即帰りましょう。私が許可します。スマホを弄って待つなんて、なんて情趣を解さない人なんだろう!

スマホがダメな理由、それはスマホが「人と繋がるための道具」だからです。待ち時間にスマホを弄るということは、あなたが私のことを考えている(かもしれない)時間に、私はあなた以外の人のことを考えている、というポーズなのです。これではあまりに不誠実。”クール”は常に誠実さと同居しています。

大事なことなので繰り返します。
“クール”は、誠実さの隣にある。


では、何をして待てばいいのか。

答えはズバリ「本と音楽」です。

本は良いです。クールだから。ただ夢中になりすぎるのはやめましょう。本に夢中になると、人って大体猫背になってしまいます。猫背はクールではありません。もうすでに数回読んでいて、表紙の装丁がイケてるものを選びましょう。姿勢を正して、流し見するくらいが丁度良いです。思い出して。今は「読書する時間」ではなく、クールに「待つ時間」です。

本を読むのも相手以外のものについて考えることになるんじゃないかって?
大丈夫、本を読むことから想像されるのはスマホと違って、固有名詞を持った人間ではありません。
彼氏/彼女が本を読んでいて浮気を疑う人はいないでしょう?
(優しいあなた、苦し紛れの例えから察してくださいね。)

もうすでに数回読んでいて、表紙の装丁がイケてる本が準備できたら、次は音楽です。

耳を塞ぎ音楽を聴くことで、世界をある程度閉じることができます。これにより声のかけにくさが生まれますね。あなたにお待たせというべく息を吸うその刹那、相手は緊張するわけです。

もうすぐ恋人になりそうな友人はいつもと違った空気の中であなたを見る、あなたの見え方が変わる。あなたのことをいつもよりしっかり見つめるわけだ。あなたはクールに佇んでいる。もうすぐ恋人になりそうな友人はあなたの姿を脳裏に焼き付ける。

・・・どうです、何かが始まる予感、しませんか!こうしたドラマを自分に課すことで、”クール”にストイックになることができます。

選曲も重要です。止めた瞬間に曲名を見られてしまうかもしれませんから。あいみょんやOfficial髭男dismなど、今流行りのJ-POPはやめておきましょう。ちょっと恥ずかしくなっちゃいます。ただ、相手も知っている曲の方が盛り上がりますよね。滑り出しは好調の方がいいに決まってます。

ミーハー感なく、盛り上がる・・・

答えは『90年代ヒットソング』です。大体の答えって自分の生まれた時代にあるんですよね恐ろしいことに。
米米CLUBや山崎まさよし、TRFにPUFFY・・・『田園』聴いてる人とか、私だったらすごい惹かれちゃいます。超アツくて超クールじゃないですか?

それからポジショニングにも気を配りましょう。キオスクやNewDaysの前では雰囲気が出ないから避けること。鉄板は柱ですね。所在なさげに柱に寄りかかる、これが最もクールです。

本よし、音楽よし、ポジショニングよし。
これで今あなたは最高にクールです。


こんなことを考えていたら、なんてびっくり、あんなに長かった待ち時間があっというま! ほら、もうすぐ恋人になりそうな友人がやって来ますよ。急いでスマホをしまって!

最後に最高にクールな今日のあなたに応援の意を込めて一言。


ーみんなここにいる、愛はどこへもいかない。


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このnoteは、東京大学文学部小林真理ゼミが
「わたしと遊び」をテーマに書いたリレーエッセイ第9回です。

筆者紹介_笹原



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