国と47都道府県のEV政策を調べて分かった、日本のEV政策の「盲点」
大学院生として電気自動車(EV)普及を研究する中で私は、
国・自治体のEV政策について調べるのが大変なこと、
そして、そのことがEV普及を遅らせかねないことを実感しました。
そこで、開設したのが「EV政策・補助金まとめ」
国と47都道県のEV政策を体系的にまとめたサイトです。
先日、ついに 47都道府県のEV政策を網羅 しました!
ここまで調べる中で見えてきたのは、地方自治体のEV政策の面白さと、そして政策の「盲点」。
この記事では、自分が感じた日本のEV政策の「盲点」を3つに分けて説明します。
1.補助金依存で良いのか?
日本の地方自治体のEV政策のほとんどは、以下の3種類に分けられます。
EVを購入する際の補助金
EV用充電器を設置する際の補助金
自治体の率先導入(公用車EV、役所のEV充電器設置)
3つのうち2つは補助金。自治体の率先導入は「政策」と言えるのかもやや微妙ということで、
自治体のEV政策は補助金に大きく依存していることがわかるでしょう。
しかし、補助金はシンプルなようで課題が多い政策であり、
「決して依存してはいけない」政策だと考えられます。例えば以下のような課題があります。
課題1:費用対効果
EVへの補助金には、確かに効果があります。
EVへの経済インセンティブがEV普及に貢献したという研究結果も蓄積しています。
しかし、決して費用対効果の優れている政策とは言えません。
Sheldonらの研究では、EV補助金の費用対効果は悪く、
「CO2を1トンに削減するために使われる補助金の額は、CO2による温暖化で社会にもたらされる損害の額を上回る」と推定されました。
もっとも、費用対効果の推定値は、様々なパラメータに左右されますし、
EVの性能が向上したり、充電器が普及して、EVが自律的に普及するまでの「つなぎ」や、
日本の自動車メーカーにEVを作らせることで、自動車メーカーがEV化に対処できなくなるリスクを減らす「産業政策」として見るなら、
多少費用対効果が悪くても良いのでしょうが、
EV補助金が費用対効果が悪い可能性が高く、恒久的に続けるべきではない政策であることには留意が必要でしょう。
課題2:衡平性
もう一つの課題は、EV補助金の格差に関する問題です。
例えば、日本で一番EV補助金が手厚いのは東京都で、その効果で都のEV普及率は断トツで日本一なのですが、
見方を変えれば、それは必ずしも良いことではありません。
というのは、(多摩・離島以外の)東京都で車を購入する層に低所得者層はほとんどいない、と考えられるからです。
逆に言えば、年数百億円の都の税金が、補助金という形で中上流以上の世帯に流れている、ということ。
この問題を意識してか、
都は 840万円以上の高級車の場合には補助金を0.8倍にする措置 を講じていますが、それでも不十分かもしれません。
例えば、カリフォルニア州では、低所得者層の多い地区へ集中的にEV補助金を交付することが検討されています
日本の自治体で同様な政策は見たことはありません(若年層にのみ補助金が手厚い福井県が若干近いかもしれません)
今後は格差の視点を考慮したEV政策が重要になるはずでしょう。
2.停電時にEVを役立てるには?
地方自治体がEVを推進しているのは「環境に良いから」だけではありません。
むしろ、「EVが『動く蓄電池』として防災に役立つから」という理由の方が大きいでしょう。
確かに、リーフなど大半の国産EVは、EVから電気を供給することも可能で、
実際に活躍した例も多く、停電時、避難所等の電力源の役割も期待されています。
ただし、EVを防災に活かすには平時の入念な準備が必要だということも忘れてはいけません。
Q.EVから電気をどう受け取るか?
大半のEVでは、社内の100V電源コンセントを使えば、1500Wの以内の電気を取り出すことができます。
1500Wがあれば、大半の家電を動かすことができ、
一部屋のエアコンをかろうじて動かすこともできます。
逆に言えば、それ以上のことはできません。
またコンセントの数は1、2個なので、複数の家電の同時利用は難しいです。
避難所の電気を供給するにはやや力不足。
出力を上げるには、外部給電器や充放電設備(V2H)が必要です。
しかし、外部給電器は補助金を含めて50万円程度、充放電設備は機器代も高く(100万以上)、配線工事も必要だという欠点があります。
それを各避難所で用意するのは簡単なことではありませんが、
EVは災害時にフル活用するには準備が必要なのです。
Q.停電が長期化したら?
また、EVはあくまで、電気を貯めているだけだということを忘れては行けません。
他のライフラインよりも電気は復旧が早い性質がありますが、
停電が長期化した場合には、EVに貯めている電気がなくなってしまう可能性があります。
しかし、そのリスクに対処したEV政策はほとんど見たことがありません。
神戸市のEV防災
そんな中で、EVを防災に組み込むための取り組みを本格的に進めている自治体の一つです。
コストを抑えてEVを防災に活用するために、神戸市では「外部給電・神戸モデル」と称し、
充放電設備を導入する代わりに、各避難所であらかじめ簡易な電気工事を行うことで、
災害時にEVからの電気を避難所で利用する取り組みを進めています。
さらに、停電の長期化への備えもあります。
災害時でもごみ焼却による自立発電が可能な港島クリーンセンター(港島CC)を拠点にしつつ、
港島CCでEVを充電し、そのEVで避難所に電気を供給、不足すればまた充電に向かう(必要なEVは自動車メーカーとの災害連携協定で確保)。
この「災害時給電サイクル」によって、避難所で最低限の電気が使える状態を維持するのが神戸市の計画です。
3.3年後のEV政策を想像できるか?
EV普及に積極的な自治体は、2030年までの普及目標を掲げています。
例えば、東京都は、2030年までに、新車のうちの半分を、電気自動車等(ZEV)にする目標を立てています。
しかし、基本的にEV普及に楽観的な私ですら、この目標が達成できるかどうかは疑問に思っています。
確かに、EV購入時や、EV充電器設置時の東京都独自の補助金は非常に手厚く、
EVや充電器の数をとにかく増やす「普及初期」の政策として、よく機能していると思います。
問題なのは、数年後の政策が不透明だということ。
当然ながら、EV一台あたりの補助金が同じなら、EVが普及すればするほど必要な予算額は膨張します。
それに応じてこれらの補助金は減らされていくのでしょうか?
それとも可能な限り維持していくのでしょうか?
それとも、EV普及を促す別の政策が導入されているのでしょうか?
例えば、イギリスやカナダやカリフォルニア州では、一定以上の割合の電気自動車等(ZEV)の販売を、自動車メーカーに求める規制を導入・強化していく予定です。
このような政策や、それに匹敵する強力な政策が今後東京都でも導入されるのでしょうか?
それとも、一部のディーゼル車を東京から駆逐したように、段階的に燃費の悪い車に乗り入れ規制をかけるのでしょうか?
多くの自治体で、ある程度EVが普及した後(例:新車EV率が10~20%を超えたとき)のEV政策を明らかにしておらず、
それがEV普及の見通しを不透明にしています。
まとめ
国や地方自治体は、一般に知られている以上に様々な政策を用意して、EV普及を後押ししています。
その詳細は、自分のサイト でチェックしてほしいですが、
一方で、これからの改善が期待される部分もあります。
補助金制度の改善
災害時のEV活用のための備え
今後のEV政策の見通しの明確化
もちろん、これらを実行する際には、様々な困難があるでしょう。
しかし、良くも悪くも日本はEV普及後進国。
普及で先行している欧米で、どのような政策が行われ、どんな結果をもたらしたのかを知ることができる「有利な立場」にあります。
私も今後、EV政策・補助金まとめ で海外の政策を紹介していきたいと思っています。
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