政府による現金給付は得策か~ヘリコプターマネーの是非~

現金給付は消費を刺激するか

現在コロナウィルスの対応から、アメリカのトランプ大統領は2020年だけで8000億ドル(約84兆円)規模の大型減税を提案した(同大統領の中間選挙前のばら撒きの可能性も否定できないが)。日本でも、新型コロナ経済対策に30兆円超を検討しており現金支給も視野に入れている。果たしてこれは消費を刺激し、デフレを食い止めることができるのだろうか。
普通ライフサイクルモデルでは、将来の消費をならすため、一時的な所得増加は一期のみの消費に使われず、平均化される。消費を今期(現金支給を受けた期)増やすか否かは割引率(利子率)と双曲割引(hyperbolic discounting)の大きさによる。割引率(利子率)が低い、もしくは双曲割引(今をより重視する心理)が高い、あるいはその両方により、現在の消費の増加分がそれ以降の期の消費の増加分を上回る。利子率は現在非常に低いため、今をより重視する心理が十分強い場合、今回のこの対策による現金支給は2020年の消費を(それ以降の年よりも)刺激し、今期デフレ脱却につながる可能性もある。
今期とそれ以降のどちらの消費を増やすかの議論は別にして、この施策が今期の消費を減らす事は経済学的にほぼないと考えていい。ただ、今回の現金支給のロスを補うための将来の増税分が、今回の現金支給分×割引率よりも大きくなると消費者が予想した場合、それは生涯所得を下げ、予算制約線を左に移動させる。減った富効果により、今期の消費増を踏みとどまらせてしまうかもしれない。

実証研究:ヘリコプターマネーの一般均衡効果

最新の研究では、お金を渡すことの負の一般均衡効果はあまりないことを示した。現金ハンドアウトは、受け取る人の所得を増やす一方、もらえなかった企業にアンフェアな競争を強いることになる、またはインフレを起こすなどの負のスピールオーバーが考えられていたが、19年11月に出版された論文はこのような一般均衡効果を否定した。実験はケニアの農村で行われた。選ばれた人は1000ドル(ほぼ一年分の支出量)を与えらた。すると、選ばれた人のみならず、選ばれなかった人も含め、消費量は13%増加した。賃金の上昇も著しく、選ばれた人はそうでない人に以前よりも多くの賃金を与えた。心配されていたインフレは1パーセントにも満たなかった。あるリサーチによると、1ドルのグラントでローカルGDPが2.6ドル程度増加する。アメリカのケースでは1ドルでGDP1.5-2.0ドルの増加であった。

検討:10万円一斉給付の是非

以上の議論から、現金給付は一定程度消費を刺激すると考えられる。しかし、所得関係なく給付を行うよりも、消費にお金を回しやすい低所得者層に限る給付とし、一人当たりの金額を増やした方がよかったのではないかと思う。誰にでも一定の金額がかかる生活必需品消費が所得に占める割合が、低所得故に高くなるため、消費性向が比較的高いと考えられるからだ。もしかすると、全国民給付にすることで、10万円をとりに行く人は手続きにかかる時間への機会費用が10万円より低い人だとかんがえられるため、そういった意味で自然とスクリーニング(この場合だと所得層で分けること)ができているのかもしれない。

参照
“General equilibrium effects of cash transfers: experimental evidence from Kenya”, by Dennis Egger, Johannes Haushofer, Edward Miguel, Paul Niehaus and Michael Walker. November 2019

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