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GWと年上の女とマギー・メイ

ゴールデンウイーク。

なぜ人はその語感に血が騒ぐのか。

成人式を終えたばかりの大学生にとっていつもの土日とさして変わらない。

俺なんてまともに講義を受けたことがないから、毎日が休日のようなものだ。

それでもGWになるとソワソワして部屋でゴロゴロなどしちゃあいられない。

誰しも落ち着かないのは同じようだ。サークルの先輩が飲みに行くぞと誘ってくれた。

学生街にある行きつけの洋風居酒屋だ。

ズラリと並ぶレコードコレクションからロックやジャズをかけるので、客には音楽通が多い。

この日は昨年12月に他界したジョン・レノンを偲び、オールディーズの名曲たちをカバーした『ロックン・ロール』が流れていた。

店内は分厚い木の一枚板を使った重厚感のあるテーブルが並んでいる。4人掛けから10人掛けぐらいのものまであるが、今はほぼ埋まっている。

薄暗い照明にタバコの紫煙が漂い、中央の少し広いスペースでは数人の男女がリズムに合わせて踊っていた。

とりあえず生ビールで乾杯して枝豆と冷や奴をつまみながら飲んでいると、先輩が目くばせするのがわかった。

俺は視線の先を確認するべく、さりげなく振り向いた。斜め横のテーブルにOL風の女性が二人座っているのが目に入った。

大人っぽい服装と少しウェーブのかかったロングヘアー、メイクまでしていることから学生ではないだろう。

「おい、声かけてこい」

先輩の言葉は絶対である。俺は酒の力を借りて立ち上がった。

近くで見たら、一人は女優の松岡きっこ、もう一人は歌手のいしだあゆみに似たなかなかの美人だ。

ナンパした経験などないだけに、かえって単純明快な言葉が口をついて出た。

「先輩が一緒におしゃべりしたいって言ってるんですけど…」

二人は顔を見合わせて意思疎通すると、いしだあゆみに似た方が答えた。

「お話しするだけならいいですよ」

俺はいかにも冴えない苦学生といった感じだが、先輩はちょっと遊び人風でどちらかといえば男前だ。そう考えると彼女たちの反応もうなずける。

とは言え、俺の取り柄は酒を飲んだら明るくなるところだ。おしゃべりするのはもっぱら音楽のことだが、話題にはことかかない。

ビートルズを筆頭にギタリストのジェフ・ベックからブラスロックのシカゴまで広く浅く網羅している。日本だとフォークレジェンドはもちろん、RCサクセション、サザンオールスターズ、浜田省吾などなんでもござれだ。

女性二人もこの店を知っているのだから音楽はかなり好きらしい。
さっきジョン・レノンがかかっていたから、ジョンの『スタンド・バイ・ミー』がいかに素晴らしいかを力説したが、俺の話に飽きもせずつきあってくれた。

盛り上がっていたらあっという間に時間が経ち、彼女たちはそろそろ帰るという。

先輩が“いしだあゆみ風”の女性を送っていくことになり、俺は自然な流れで“松岡きっこ風”な彼女を送っていくことになった。


寄っていく?

星空の下、国道沿いの緑で仕切られた歩道を二人でぶらぶらと帰った。5分ほど行くと彼女がひとり暮らししているというマンションが見えてきた。

マンションの前でさよならするはずが、ドラマのようなことが起きた。

「よかったら寄っていく」

彼女が天使のように思えた。もちろん断る理由などない。

エレベーターは使わず階段で3階まで上がった。

サークルの飲み会から二次会に行った後、ノリで女性部員の部屋に押しかけて夜を徹してダベるのとはわけが違う。

夜遅く女性の部屋に誘われて二人きりというシチュエーションに、俺の思考回路はフル回転で次の一挙手一投足を考えた。

これまで女性とデートしたこともない俺を尻目に彼女の方は落ち着いたものである。

缶ビールを出してくれたので、飲みながらテレビで深夜番組を見た。

「私、怖いの苦手なのよね」

怪談のシーンに目を背けながら話す彼女は、居酒屋のときよりも可愛く思えた。

俺は少し落ち着いたので上着のポケットからマイルドセブンを取り出して火をつけた。

彼女は灰皿を差し出して、慣れた手つきで自分もタバコに火をつけた。大人の女性という感じだ。

「そろそろ寝よっか」

俺は言われるままベッドに入った。キスはタバコの味がした。


マギー・メイ

目覚めたら、隣に彼女が寝ていた。昨夜の出来事は夢ではなかったのだ。

カーテンの隙間から朝日が差し込み、彼女の寝顔を照らした。

日光は部屋の灯りとは違った色合いを出すことを実感した。

彼女の穏やかな表情を見ながら、俺の脳内ではある歌が響きだした。

『マギー・メイ』

ロッド・スチュワートと言えば世間的には『セイリング』や『明日へのキック・オフ』が有名だが、ソロとして最初に大ヒットしたのは『マギー・メイ』である。

ロッドが学生時代のこと。年上の女性から恋の手ほどきを受けてしばらく一緒に暮らした日々を曲にしたらしい。

彼女との生活を続けていては未来がないことに気づいたロッド。ある日、太陽が照らす彼女の顔を見て年の差を実感したことも歌っている。

美しくて軽やかなマンドリンの音色と裏腹に、寂しさが漂うボーカルが印象的な1曲である。

俺は“松岡きっこ風”な彼女に幻滅したわけではない。ただロッド・スチュワートの歌声が脳内でループしたのは、何か感じるところがあったのだろう。

彼女が目を覚ましてから、二人で近くのよろずやまで朝食を買い出しに行った。寝ぼけた顔のカップルが入ってきたのだ。店の人がどんな風に見ているか想像して気まずさを感じた。

少し大人になったように思えたGWだった。



🍀この記事はクロサキナオさんの企画参加記事です🍀

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