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noteの街に風が吹く:小説的考察【6話】あんたが書きたいのはそういうこと?

私は定食屋で「ムギ」に言われた当初、雲をつかむような話を実感できなかった。

しかし帰宅途中で妙に「創作大賞」が気になりはじめ、書籍化された『ナースの卯月に視えるもの』を街の本屋さんで買って読んだ。

4月に行われた『2024年本屋大賞 発表会』に登壇した宮島未奈さんは「本屋大賞」を『M-1グランプリ』のような賞とたとえた。

「M1芸人」ならぬ「本屋大賞作家」の看板を背負っていくことについて身が引き締まる思いだと心境を語っていた。

いずれは「note創作大賞」もそのような存在になるかもしれない。

元看護師の秋谷りんこさんは、看護学生のときに病院実習で体験したことが忘れらないという。それで看護師を主人公にした小説を書きたかったそうだ。

私は部屋でひとり自問自答した。なんなら声に出すと自分の気持ちがよくわかる。

3月からはじめたセールスレディーはまだ新人だし大した経験値はない。とりあえずざっくりわかったのは親戚や友人知人に話しても「今はいいかなあ」と軽く聞き流されちゃう。こちらもそれから話題にしにくくなるのであまりあてにできないことくらいか。

セールスレディーの先輩たちも入れ替わりが激しい。向き不向きがはっきりしている仕事なのだろう。

私なんかまだぺーぺーだから仕事について語るなんておこがましいが、それなりに“美人”か“笑顔が似合う”タイプで会社など“大口”の訪問先を抱えた人は営業成績がいいみたい。

以前に自分が働いていた職場だったり、今も知り合いが働いていれば、その人を通じて責任者から訪問の許可をもらうケースもある。

それでも定期的に訪問してチラシを配ってアピールしつつ、個々人の近況など情報を得る粘り強さは必要だ。

私は先輩の職場訪問に何度か同行させてもらったが、一瞬の空気を読みどこまで踏み込むか判断しなければならない。

今日はピリピリしているから軽くあいさつして引きあげよう、といった臨機応変な行動ができるまでには相当な努力があっただろう。

ベテランの先輩になると、相手の話に耳を傾けて物腰の柔らかい言葉でプランを提案するタイミングも絶妙だ。

う~ん、私はまだそれを文章にしたいと思うほどは心が動かないのよね~

そっか!前の仕事は正社員で10年近く続いたんだっけ…倒産してやむなく失業となったけど…小さなイベント会社なりに思い出はあるじゃん

私の脳裏にはその頃の記憶がよみがえった。

地域のスーパーマーケットや町内会とかが10周年、20周年といった節目にいつもより大きなイベントを企画することがある。

自分たちでは手に負えないとき、我が社にお声がかかる。

PA機材も大手ほどの音質にこだわらなければ500人キャパぐらいはこなせた。

地域の公園のような芝生に座ってステージを観覧する会場は折りたたみ椅子やテ-ブル、テントといった設備がないことが多い。そこに折りたたみ椅子を持ち込んで並べたり、必要に応じてテントを設営する仕事を引き受けるわけだ。

あれは私が入社して間もない頃だった。

地域の生協がいつもやっている“生協まつり”で10周年ということから目玉として“喜納昌吉&チャンプルーズ”のライブを企画した。

子育て世代から子育てを終えたベテランママさんまで、女性が中心の組合員と呼ばれる人たちで構成されている。そこからさらに選ばれた実行委員が担当していた。いつもは自分たちで準備するところだが、今回のライブは500人キャパを想定していたため業者に依頼したらしい。

当日、我々は朝早く会場に着いた。すると実行委員のおばさんたちが「折りたたみ椅子はどれ?」と声をかけてくるではないか。

「あ、こっちでやりますから~」と答えたところ「いいから折りたたみ椅子を降ろしなさいよ」、「このトラックでしょ。カーゴ車に積んでるの?」と圧がスゴイ。「いえ、折りたたみ椅子運搬用のカートですから」と辛うじて返したが「ふ~ん、でも折りたたみ椅子は同じようなものでしょ!」としつこい。
我々も急がねばならないから車いす用のカートを降ろそうとしたら「そーね、この辺に降ろしてちょうだい」、「は、はい」、相手はクライアントなのでその通りにした。

次の刹那、私は目を疑った。

「何なのこのおばさんたち、テキパキやん! いや、これ業者より速いし! おそるべし生協の組合員」

折りたたみ椅子はどんどん人海戦術によるバケツリレーで運ばれていき、所定の位置に1cm、ホントに1cmもずれがなくキッチリ並べられたのである。

野外ステージと言っても、大きめの公園に野外ライブが楽しめるこじんまりとしたものだ。喜納昌吉&チャンプルーズもよく引き受けたと思うが、広く聴いてもらいたいのが彼らの信条なのだろう。

我が社はライブイベントの場合、ステージ前にパイプフェンスを設置するのがマニュアルだ。観客がフェンスを越えてステージに押し寄せないよう、数人が立って見守る。ゲストがロックバンドやアイドルのときは熱いファンが総立ちとなるとさすがに緊張感がある。

「ちょっと、あんたたち! じゃまだからそこに立たないでよ! 私たちに柵とかいらないんだから、あっち行ってちょうだい」

おばさんたちに怒られた。

パイプフェンスはそのまま設置させてもらったが、リーダーに事情を話したところ「じゃあ、我々もはじっこで見せてもらおうか」と許可してくれた。

リーダーも不思議そうに首をかしげて笑っていたから、こういうことは珍しいのかも知れない。

やがて広くはないステージに喜納昌吉&チャンプルーズが登場すると割れんばかりの拍手で迎えられた。しかし立ち上がる観客はいなかったようだ。

私は喜納昌吉&チャンプルーズのヒット曲『ハイサイおじさん』や『花~すべての人の心に花を~』を知っている程度だったが、そのステージを目の当たりにして「すごい…チャンプルーズって…」と衝撃を受けた。

私は同世代が一般的に聴く音楽よりも少し前の80年代や70年代のものが好きだ。沖縄発のロックバンドと言えば「紫(むらさき)」や「コンディション・グリーン」というイメージを持っていた。「喜納昌吉&チャンプルーズ」はそれとは違う味わいがあり、いわば“沖縄”を歌うバンドだった。適切な表現ではないかも知れないが、BEGIN(ビギン)などはその流れを汲んでいるように思う。

小さなイベント会社時代にはこのような印象に残るエピソードもあった。

でも、なんかしっくりこないよね…

ジュン、あんたが書きたいのはそういうこと?

いや、違う。面白いかもしれないけど小説に書きたいとは思えないもの。

秋谷りんこさんの受賞作には看護学生時代に体験した出来事が根底にあるというわ。それに加えて自身が看護師を辞めてからも看護師さんたちそれぞれが抱えている喜びや憂いを書きたかったのよ。

私はイベント会社で経験したことをそこまで深く書きたいわけじゃない。

そういえば秋谷さんは小説家・新川帆立さんとの対談で「小説って一つのコミュニケーションのように思う」って話していたのよね。

秋谷さんはnoterでもあるから、コメントをもらったり返したりするじゃない。それでコミュニケーションという視点をもっているのかも。

うーん、対談の感じではそうじゃなかったなぁ~。小説家としてコメントを読者とやりとりする場合とはニュアンスが違うように思えたけど。

あっ、ちょっとまって。たしかnoterのゆーみんさんが「コミュニケーション」に触れていたような…

どれどれ…脳の専門医・林成之(なりゆき)氏の脳の本能から導き出せる「脳が求める生き方」…なんか難しくない?

ググってたら林成之さんのインタビュー動画を見つけたわ。うーん…人間の考えが生まれてくる…方法論…勝負脳はキャッチフレーズ………超気持ちいい?…ダメだ!頭を使いすぎて脈打つようにズキズキしてきた。

ねぇ、結局さぁ。ジュンが書きたいのはnoteのことじゃないの?

一周回って見えてきた感じね。

でもさぁ、noteに対する熱い思いを書いているnoterってたくさんいるからなぁ~

私はまだマネタイズも形にしていないから…そこまで圧倒的な熱量を持ってるわけでもないし…

“まゆ”が「四の五の言わんとマネタイズもやらなくちゃ」って口を酸っぱくして言ってたなぁ~

どこで何やってるんだろ、まゆ?

座敷童子一族なんだから、きっと誰かを幸せにするために骨を折っているんじゃないの。

だよね~、私も「幸が薄そうな女」とか言われたときはイラッとしたけど、まゆに救われたようなもんだし…

マネタイズって言えば、まゆがGAMIさんの書いた「三方よし」の記事を教えてくれたよね…

「三方よし」をテーマにしてなにか書けるかしら、「○よし、○よし、○よしっ」ていう感じで…

ふわ~ぁ~、あくびが出ちゃったわ。自問自答していたらあっという間に過ぎるよね。

うん…でもなんか少しずつ固まってきたような気もする…


静かな部屋に気持ちよさそうな寝息が流れた。

新聞配達だろう、外からは電動バイクの音が聞こえる。


『noteの街に風が吹く:小説的考察【7話・最終回】』に続く⇒


※参考にした文章および動画
THE PAGE(ザ・ページ)公式Youtubeチャンネル『全国の書店員が選ぶ「本屋大賞」 2024年は宮島未奈氏「成瀬は天下を取りにいく」が受賞(2024年4月10日)

「note」公式Youtubeチャンネル『「デビューの軌跡と作家のキャリア」新川帆立×秋谷りんこ

ゆーみんの傾聴&セラピー💖算命学鑑定✨note毎日更新💝フォロバ100『「感謝と祈り」第735話

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※noteの街に風が吹く:小説的考察は
こちらのマガジンより全話読むことができます🙆‍♂️


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